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第46回 オーストラリア、ブリスベン発

「大洪水に被災。復興生活を救ったIT」

個別のニーズを満たしてくれたSNS

庭に水が入ってきたところ。中央の鮮やかな青色はプールとそのカバー。この後、庭への浸水開始から30分後で、プールは完全に水没した。

2011年1月に起きたオーストラリア、ブリスベンでの大洪水に被災した。その後の復興の過程で、ITがとても役立った。今回はそのことをレポートしたい。
まずは被災状況を大雑把に書いておこう。わが家は二階建てだが、一階の床上1メートルまで浸水した。停電は8日間。ガスは約3週間止まったまま。更に給湯器を交換する必要があったので、熱いシャワーやお風呂に入れるようになったのは、被災から4週間後のことだった。
災害が大変な理由はいろいろあるが、一つが「初めての体験」であることだ。ブリスベンでは1974年にも大洪水があったのだが、37年も前のこと。わが家のご近所さんたちは他の州から引っ越してきた人も多く、当時のことを知っている人はほとんどいない。初めての経験だから、何をしていいのか、何をしていけないのかもわからない。非常に基本的なことや命に関わること、例えば「床上浸水した家では停電が終わっても電気技師にプラグやブレーカーをチェックしてもらう」とか「水に浸かった家電を使うと感電する恐れがあるので、捨てるようにする」といったことは、テレビやラジオ、新聞でも盛んに伝えられる。また「あそこの退役軍人クラブに行けば、被災者やボランティアのためにサンドウィッチや飲み物が無料で配られている」とか「どこどこの公共プールでは、熱いシャワーを無料で使わせてくれる」といった地域の情報は、急遽作られたボランティア団体の人が一軒一軒回って伝えてくれた。
ただ、すべての人が同じモノやサービス、情報を欲しているわけではない。洪水後の最初の週末は被災地にあふれかえっていたボランティアたちも、その後日常生活に戻り、見かけなくなった。だが、十日後や二週間後に清掃や撤去のための人手が必要な人もいる。単なる人手ではなく、ある特定の専門知識を持った人のボランティアに来て欲しいこともある。また食糧や水といった、誰もが必要とする、いわゆる「被災基本グッズ」的なものでなく、特別なものを手に入れたいこともある。そうした時に役立ったのが、市役所や地域のボランティア団体のソーシャルネットワーキングサービスだった。「電気技師の方、来てくれませんか」とか「商売を再開するための衣装ラックを譲ってほしいのですが」と書き込めば、すぐに反応がある。更に市役所のソーシャルネットワーキングサービスでは職員が24時間体制で質問に答えてくれた。

被災状況を知らせるにはメーリングリスト

床上1メートルまで浸水すると冷蔵庫も倒れる。いずれにせよ、浸水した時点で使い物にならなくなったが……。

警察のソーシャルネットワーキングサービスも非常に役立った。ブリスベンは坂が多いが、海側から山側になだらかに続くのではなく、アップダウンが激しい。ということで、突然水没して通行止めとなった道があちこちにあるのだが、何百もあるそうした箇所をテレビやラジオの報道ではすべて網羅しきれないし、もし報道されたとしても聞き逃すこともある。新聞の場合、朝刊の情報は前夜のもの。ところが警察のソーシャルネットワーキングサービスのサイトを見れば、常にアップデートされたものが確認できた。
また、災害にはパニックから来る流言飛語がつきもの。今回も「水道水は汚染されている」とか「ダムが崩壊して更なる大洪水がやってくる」といったウワサが一部で広がったが、警察がすぐに、正しい情報を発信し続けたおかげで、間違った情報が広がることはなかった。
個人的に役立ったのは、「メーリングリスト」だ。仕事の得意先や友人、そして親兄妹など、無事や被災状況を知らせなければならない人たちは何百人にも及んだが、一人ひとりにメールを出していたら「一日で送れる許容量を超えました」といったメッセージがプロバイダーから送られてくるようになった。それを解決したのが、メーリングリスト化するという手だった。
被災すると、普段あって当たり前だと思っているものの大切さが身に染みてわかるようになる。そしてご近所や見ず知らずの人たちの優しさなど、目に見えないものも。ITも、その一つだった。「ライフライン」というと「電気」「ガス」「水道」などの公共公益設備がすぐに思い浮かぶが、被災体験をした私は「人のネットワーク」「IT」も同様だと痛感した。

特派員プロフィール

柳沢 有紀夫(やなぎさわ・ゆきお)
ブリスベン在住11年。『世界ニホン誤博覧会』『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか』『日本語でどづぞ』など著書多数。海外書き人クラブの発起人兼お世話係。

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