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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

Vol.17 東北のほほ笑み伝統こけし 土湯温泉×現代の工人

福島駅前からバスに乗ると1時間足らずで土湯温泉に着く。川に沿って行くと親柱に四体の巨大なこけしを配した橋が現われるので、それを渡って源泉に向けて坂道を登る。左手の谷ではカジカガエルが盛んに鳴いている。緑が濃くなるにつれてその鳴き声もいよいよ高くなり、さて、あとどれほど登るのかと思い始めた頃、やっと土地が開けて奥土湯秘湯川上温泉に到着。
旅館は浪江町の被災者の避難所になっているため、省エネ・節電の特別プランで泊めていただく。お風呂も空いているし気楽で大変居心地が良かったのだが、明け方4時前に震度5の地震で跳び起きた。年季の入った木造旅館は派手な音をたてて揺れたものの、3月の震災でも無事だったというだけあって、やがて何ごともなかったように静まり返る。
土湯温泉までやって来たのは無論こけしが目当てである。日本の木製玩具を代表するこけしは、東北地方を代表する伝統的民芸品でもある。東北6県に点在する産地は11系統に分類され、その最も南に位置する土湯系は、東北地方の温泉を目指して北上する旅人が最初に出会うこけしなのである。各産地、伝統の型を守りながら、現代の工人たちはそれぞれの技とセンスで独自の世界を作り出している。その中でも土湯のこけしは、木ぼっこと呼ばれていた頃の素朴な姿を最もよく留めているように思われる。
土湯系のトレードマークである頭頂部の蛇の目模様、前髪と鬢(びん)の間の赤いかせ、細長い直胴をロクロ線で飾り、小ぶりな顔に描かれた二重まぶたに微かに笑みをたたえる瞳。今年、この生きる力を内に秘めた東北のほほ笑みに出会った世界の人々は、心から同情し、それ以上に感動したのである。
店を出たところで偶然お会いした作者の渡辺鉄男さんは、しかし、こけしとは似ていない人の良さそうなおじさんだった。

土湯見聞録館内 「ふるさとの玩具 木ぼっこ」
024-595-2217 (土湯温泉観光協会)
渡辺鉄男 024-595-2056

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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