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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう!第57回 ペルー、リマ発

マチュピチュなどアンデスのイメージが強いペルーだが、その首都リマは840万の人口を抱える海沿いの大都市。インカ帝国を滅ぼしたフランシスコ・ピサロが南米征服の拠点として作った歴史ある街でもある。都市基盤整備も着々と進んでおり、また美食の国としても世界の注目を集め、「グルメ新興国」としてナショナル・ジオグラフィック誌の「Best of the World 2012」にも選ばれた。

時は金なり。リマのメトロポリターノ

画像 乗り合いバスの車内

乗り合いバスの車内にて。乗客の呼び込みをしたり、運賃を集金するのがコブラドールだ。

車掌より自分の経験が優先

運転の荒さで悪名高いリマの乗り合いバス。割り込みなどの無謀運転が交通事故や渋滞の大きな原因となっているが、基本料金は1ソル(約30円)と大変安い。運賃は距離によって加算されるが、市内なら1ソルでおよそ6〜8km移動できる。明確な基準はなく、ここからあそこまで大体いくらという曖昧な料金設定になっており、ほんの数ブロックだと半額で乗せてくれることもある。1人でも多く客を拾おうとあちこちに停車するため時間はかかるし、無茶な運転で自ら渋滞を発生させてしまうこともあるが、この運賃の安さに勝るものはなく、庶民の味方であることには違いない。
しかし、コブラドール(車掌)のさじ加減で料金を少し多めに徴収されることもある。多めと言ってもせいぜい20センティモス(約6円)程度なのだが、いつもとは違う運賃に憤慨する乗客も少なくない。バスに乗り込んでくる物売りからちょこちょこと菓子を買う一方で、バス代には厳しいペルー人たち。何が何でも追加料金を払うまいと、鼻息荒く車掌に食ってかかる。「生まれてこのかた、わたしゃこの距離で1ソル以上払ったことなんかないよっ!」と語気を強め、車掌から「じゃあ降りてくれ」と言われてもそれは堂々と拒否し、目的地に着くまで道中ずっと口論を続けるのだ。
ペルー人の持つこの手のパワーは、いったいどこから湧いてくるのだろうか。確かにいつもより多く請求されると文句のひとつも言いたくなるが、そこまで6円を惜しむなら車内で飴玉なんか買わなければいいのに、と思わず突っ込みたくなってしまう。

画像 メトロポリターノ

鳴り物入りで登場したリマの都市型大量輸送システム「メトロポリターノ」。専用レーンを走行するため、渋滞知らずでしかも安全。写真右上には、信号待ちをする乗り合いバスの姿も。

人の流れや意識も変化する?

こんなアナログな運営で、渋滞を引き起こす乗り合いバスの代替手段として、鳴り物入りで登場したのが都市型大量輸送システム「メトロポリターノ」だ。2010年に開業したこのバスは、専用レーンを走行するため、乗り合いバスなら1時間はかかる距離もたった15分ほどで移動できる。運賃は一律1.5ソル。チャージ式のプリペイドカードで乗車するため、コブラドールと丁々発止といった事態も起こらない。開業当初はメトロポリターノの利便性をアピールするための無料乗車期間が設けられ、多くのリマ市民が最新式バスの移動の速さと快適さに驚嘆していた。
しかし、たった20センティモス多く請求されただけで過剰反応してしまう人たちからは、「メトロポリターノは運賃が高いから、無料乗車期間が終わったら誰も乗らなくなるだろう」との声も上がっていた。確かに、長く乗っても1.5ソルだが、たった一駅でも同料金だ。乗り合いバスの運賃システムに慣れた乗客にすれば、割高な気分になるのだろう。私自身も「バスは1ソル」という人々の基本概念を打ち破るのは、そう容易ではないだろうと思っていたほどだ。
そして現在。メトロポリターノはいつも満員だ。これまで移動費用は安いほどよいと思っていた層も、ようやく時間の価値に気づいたのだろう。今はまだ運行路線が限られているが、今後の拡大で最寄り駅が近くなれば、さらに利用者が増えるに違いない。ペルー人のケチケチ精神も、メトロポリターノの利便性にはかなわなかったようだ。

特派員プロフィール

原田慶子(はらだ・けいこ)
2006年よりペルー・リマ在住。フリーライターとしてペルーの観光情報からエコやグルメな話題など幅広く執筆、NHKを始め地方のラジオ番組にも出演。自身のブログでリマの日常を発信中。
http://www.keikoharada.com/

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