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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 原考州_ひな人形Vol.23 童顔の雛人形に憧れて 泉鏡花×笹目技法

弥生のころになると思い出す、泉鏡花の「雛がたり」の一節「…桐の箱も可懐(なつか)しそうに抱きしめるように持って出て、指蓋(さしぶた)を、すっと引くと、吉野紙の霞の中に、お雛様とお雛様が、紅梅白梅の面影に、ほんのりと出て、…(中略)…若い母のその時の、面影が忘れられない」。主人公は後年、火事で消失してしまった、その故郷の雛人形とそっくりな五段の雛の幻を、たまたま寄った静岡の茶店の奥座敷で見ることになる、という幻想的な短編である。
雛人形というものは、数ある人形と比べてみても、幼いころの家族や親族との懐かしい思い出や、毎年飾るたびに成長してゆく自分自身の心の中で移ろう、夢や憧れの記憶といったものを留めやすい対象であるようだ。「雛がたり」の主人公はどうやら男のようなのだが、女の子の場合はなおのこと、お雛様に託すそうした思いが強いのかもしれない。
雛人形の老舗は数多い。JR総武線浅草橋で江戸通り側に降りて日本橋方面に少し歩いたあたり、浅草橋のたもとにあって100年の暖簾を守っている原考州もそのひとつである。木目込みの胴に胡粉(ごふん)仕上げの頭というオーソドックスな技法ながら、手書きの表情が独特である。昔ながらの女雛の、つんと澄ました姉さん顔と違い、子どものような福々しい丸顔が愛らしい。かといって子どもっぽいというのではなく、どこかに大人びた気品がある。
何よりもその目が良い。ガラスの目玉を入れる代わりにごく細い線をひと筆ひと筆描きこんでいく笹目の技法で、一体ごとに異なる、柔らかく含みのある表情を作り出している。
こんなお雛様に出会って、女の子になりたかったと思う男子も少なくないのではないだろうか?

画像 原考州_おひな様_お顔画像 原考州_おひな様_着物画像 原考州_おだいり様

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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