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かしこい生き方 ビジネスコンサルタント 山崎将志さん

「すべてはスーパーの棚のチョコレートに集約されています。」

仕事をしていると、当然のことながら何かしら壁にぶつかる。
一生懸命努力しているのに、どうも空回りしてしまう、とか
なかなか報われないと思うこともある。
でも、それで腐ってしまうわけにはいかない。
今月ご登場いただいた、経営コンサルタントの
山崎将志さんは、こんな時に「効く」仕事術について
著書も多く、具体的な提言をされている。働く環境が変わるという方も
少なくないであろう桜の季節、仕事について考えてみたい。

INDEX


面白い仕事などない。あるのは、――面白い仕事の仕方

――

ご著書を拝読して「仕事というのは楽しくやらなければだめ」というのは、その通りだなとうなずいたのですが、一方で、仕事を楽しくするには、面白くするにはどうしたらいいのか、ぜひ知りたいところです。

山崎

では逆に「面白くない仕事」「楽しくない仕事」とは、どんなものでしょう? 例えば「やらされている」「成果がよく見えない」、あるいは「職場環境が悪い」など、面白くない、楽しくない理由は、いろいろあります。ですが私は、面白い仕事、面白くない仕事という区別は、基本的にないと思っています。誤解しないでほしいのですが、会社勤めをしている以上、言われたことをやるのが仕事なのです。「100作りなさい」と言われて、そのやり方もすでに確立されている。それに対して「つまらない」と言ってしまっては、雇用と報酬の関係が成り立たなくなってしまいます。
では、それを面白くするためには、どうしたらいいか――例えば同じ時間で120作るにはどうしたらいいかなど、別のもっと効率が良いとか正確にできるとかいったやり方を考えて提案してみる。そうしたことが「面白い」ということなんじゃないでしょうか。つまり、そこにあるのは、「面白い仕事の仕方」と「面白くない仕事の仕方」だと思うんです。

――

仕事が面白いというのは、その内容そのものじゃないと。

山崎

仕事が面白くないという時の、もう一つの大きな理由にやりがいがないというのがありますが、仕事の成果は誰が決めるわけでもない、自分で決めるしかないのです。仕事がうまくいっている人は、自分で時間をマネジメントしています。人から決められた水準を達成するために、人から決められたスケジュールでやっていたら、うまくいかないし、やらされている感もあって面白くないのは当然なのです。繰り返しになりますが、会社勤めである以上、やれと言われたものをやるのは当たり前ですが、面白いかどうかは「自分がそれをやりたい」と思っているかどうかということにかかっているのです。

――

与えられた仕事に対して、まず取り組んでみる。そして自分なりに、その仕方を考えるということが、仕事の面白さにつながると?

山崎

例えば自分が事務職だったとします。資料を10部作っておいてと言われたら、ただ作るのではなく、何に使うのか聞いてみたらいいのです。社内の資料なら、モノクロで簡単にまとめればいいし、お客さん向けなら、カラーで印刷したり閉じ方を変えてみたりと、ちょっと気の利いた資料ができるかもしれないでしょう? それは、質問を二、三すれば分かることです。自分を100人のうちの一人だと思って、適当にやるなんてもったいないです。

――

単純な仕事だと思うようなことでも、工夫の余地があるということですね。

山崎

画像 幸せの青い鳥そうです。皆さん、今の自分の仕事は面白くない、他に楽しい仕事があるというように、幸せの青い鳥がどこかにいると思っているのでしょう。ですが、私は現実派で、全く夢がないのでこんなことばっかり言ってしまいますが(笑)、幸せの青い鳥はいないと思うんです。だから自分探しをしても、多分、見つからないでしょう。例えば寿司屋をやりたくて寿司屋をやっている人は、実は少ないんじゃないかと思います。それよりもなんとなくやっているうちに寿司が好きになって、その道を極めてきたという職人のほうが多いのではないかと思うんです。それは職人という立場でなくても、同じでしょう。「どうして、この仕事をしているのですか?」とか「何がやりたいですか?」と問われても、答えを持っている人は少ないように思います。そもそもそういう質問をすること自体、意味がありません。何がやりたいか分からない、分からないからまずは目の前のことをやっていくのです。そうこうするうちに、今までできなかったことができるようになったり、他の人が気付かなかったようなことに気付いたりして、他の人とは違った仕事、その人にしかできない仕事になっていくのですし、そこで初めて「自分には、これしかない」と思える。仕事の面白さはその過程で見つかるもので、「面白い仕事」というのはないと思います。

――

仕事をしていてすごく楽しいと思う時もありますが、おおかた辛いというか(笑)。

山崎

そうです。どこに行っても、どこに勤めても、仕事自体は大変です。ただ、どれも面白くはやれると思います。何度も言うようですが、「面白い仕事」はないけれど、「面白い仕事の仕方」はある。そのやり方を見つけるのが、面白いんです。

――

結局、一日に何時間も費やす仕事なのだから、面白くなかったらもったいないですね。

山崎

仕事は仕事、プライベートはプライベートと切り分ける考え方がありますが、仕事とプライベートは並列じゃありませんからね。「仕事は充実しているけれど、プライベートは最悪」「仕事もプライベートも最悪」というのはありますが、「仕事は最悪、でもプライベートは最高」というのはあまり聞いたことがありません(笑)。会社に行ったら怒られてばかり、売り上げも伸びないし、いつクビになるか分からない状態だけれど、家に帰ったら温かい家庭があって、子供が笑顔で迎えて、ご飯ができていて、楽しくて仕方がないなんて...あるのでしょうか?

――

もう一つ、仕事の現場で問題になるのが世代間のコミュニケーションです。

山崎

最近、研修などに講師として呼ばれて思うのは、若い世代はプレゼンが上手だなということです。僕自身が新入社員だったころと比べると、パワーポイントを使って人前で上手に話しますね。ただ、筆記具の持ち方が変なんですよね。

――

筆記具?

山崎

そう筆記具です。正しく持てない人が多いんです。その背景には「こうじゃなければいけない」という社会的な規範が薄れてきているという状況があるように思います。その良し悪しは別にしても、僕らや僕らの親の世代とは社会的規範も価値観も違う。「今年の新人は…」というセリフは新年度の定番ですが、世代間にギャップがあるのは当たり前のことです。でも、だからといって誰かがおかしいとか、間違っているというわけじゃないんです。そもそも、互いに分かり合えると思っていること自体が幻想だと思うんです。別にネガティブに言うのではなく、すべての人間は「分かり合えない」と思っていれば、自分が何を考えているのか、何をしてほしいのか、ていねいに説明をするようになります。自分以外は皆、宇宙人だと思うくらいがちょうど良いのではないですか?

――

宇宙人ですか(笑)。確かに、通じていると思っていたら全然意図が伝わっていなかったということは多々ありますね。ツールの使い方も全然違います。メールなどその代表選手でしょう。

山崎

私たちの世代だと、込み入った話は電話でするといった暗黙のルールがありましたが、あくまでメールで連絡しようとして、結果、いつまでたっても意思疎通が図れないといったこともあります。若い世代に限ったことではありませんが、件名に「緊急」とラベルが付いていたりしますね? 当事者間で重要度や緊急度が共有されている場合はまだしも、それは送り手にとって緊急なのであって、受け手にとって緊急なわけじゃありません。「緊急」って言われたら大変!と皆思うでしょうか? なぜあらかじめ準備をしておかなかったのだろうという印象を与えるだけですよね。

――

(苦笑)。タイトルに「緊急」の文字を見ると焦りますが。

山崎

ええ。でも必要なのは相手に期待するアクションです。ですからラベルには「緊急」ではなくて、相手に期待するアクションを明確に書けばいいんです。例えば、ラベルに「報告」「連絡」「相談」「依頼」と付けるだけで、目的が一目で分かりますし、込み入った話は、電話や対面でやった方がいいに決まっています。私は、悪い話と相談はメールでは受け付けないと言っています。メールは事務連絡だけでいいと思いませんか? 大人は、難しい話ほど会って話をしますが、メール世代は難しい話ほどメールでする傾向があるように感じますね。


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相手にして欲しいことは何か、どうしてそれを選んだか――目的はなんだろう?と考えてみよう

――

メールを読んだ側と、送り手側で温度差がある場合もあります。ネガティブな内容のメールを受け取って心配になって電話をすると、出した相手から明るく「こんにちは!」などと言われたり。

山崎

嫌ですよね。気分良くメールを開いたのに「うわっ」と思うようなメールが入っていたら、それだけですっかり台無しです。相手はそれでスッキリしたかもしれませんが、受け取った方は愉快ではありませんよね。

――

そうしたメールを受け取った時、山崎さんは、すぐに返事を書くそうですね。

山崎

書きます。書きますが、絶対に送信はしません。なぜ自分は、そういうメールを書いているのだろうかと考えるんです。同時に、なぜこの人は、こんなメールを書いたのだろうかと考える――文面を読むのではなく、「なぜ書いたのか」を考えるんです。そう考えると結局、相手にどうこうしてほしいのではなく、自分が納得したいだけなんですよね。自分が何らかの形で納得したいから書く。それで僕の場合は、カチンときたら返事を書くようにしています。それもメールソフトではなくて、メモ帳アプリに徹底的に書いて、書き終わったら削除します。

――

ご自身を納得させるために?

山崎

そうです。そもそも、送信ボタンを押してスッキリ、満足ではなくて、そのメールを送る目的を考えることが大切なのです。
一通のメールで、全ての要件を済ませようとする人もいます。例えばアポイントメントを取るとしましょう。「来週か再来週あたりで、この日とこの日などいかがでしょうか?」と受けたら、すぐ返事を返せますが、複雑な条件分岐が書き連ねられた長いメールは、その条件を把握するだけでも疲れてしまって、結局何が目的なのか分からない。このメールを書くのに、何分かかったのだろう、電話すればすぐなのにと思ってしまいます。

――

メールは非常に便利な反面、バランス良く使える達人になりたいなと思いますね。

山崎

メールって、相手を効率化するツールではなく、自分を効率化するツールだと思うんです。だから自分にとって効率が良くても、相手にとって効率が悪いという面もあることを想像してみてはどうでしょう? 確かに長いメールを書くのは、自分にとっては一回で済むし、考えが整理されるから助かりますが、それを受け取った相手はどうでしょう?理解するのに時間がかかるし、何をしろということなのか整理されているならまだしも、つらつら書かれているだけだと、相手の意図をくみ取ろうとするむなしい努力をしなくてはなりません。それなら、まず「連絡です」と言って、こちらに何を期待しているのかを明確にしてほしいですね。

――

メールは相手の都合の良い時に読めて便利と言われますが、意外に相手の時間を奪っていることがあるということですね。

山崎

書き方の工夫は必要でしょう。相手のかわりにTO DOリストを作ってあげる位に考えてはどうかと思うんです。例えば「お願いごとがあります。それは1、2、3です」と。その理由、背景と状況を箇条書きで以下に述べます――とあったら長くても理解しやすいでしょう。でも「来月の注文について」という件名で、検討の経緯が書き連ねてあって、読むと「今回の発注に関しては添付ファイルを見て下さい」と書いてあったら、本文に書いて!と最後にずっこけませんか?(苦笑)。このメールで言いたいのは、突き詰めれば「これを注文したいから承認を下さい」ということ。だったら、タイトルに「◯月◯日までに承認を下さい」と書けば、受け取った側もその意識でメールを読もうと心構えができます。あなたが時間がないのと同じように、相手も時間に追われるビジネスマンだと考えたら、相手の時間を尊重しなくてはいけないということが自ずと見えてきます。相手に無駄な仕事をさせないというのも大事なことだと思いますし、最終的には、それが自分にも返ってくる--「結局、何がしたいのだ」という、目的に戻ってくると思うんです。
 特にメールの場合は、相手に何をして欲しいのか、常に考えるということが大事だと思います。「どうしましょう?」と言って終わっているメールがありますが、対面ならまだしも、答えに困りますね。

――

メールに限らず、「自分で判断して」ということも増えたように思います。

山崎

画像 面白い仕方例えば「この封筒のデザイン、どっちがいいですか」と聞かれて困ることがあります。そうではなく「こうしたいのですが、いいですか」と聞かなくてはいけないんです。「どうしましょう?」と聞かれて、「あなたの良いと思う方でいいよ」と言うと、宇宙人だから通じないんです(苦笑)。向こうにとっては僕が宇宙人なわけですから、仕方がないのかもしれませんが。とにかくあなたの好きな方でいいですよ、というと本当に自分の好みで決めてしまうのです。
――「誰に送るのか」、突き詰めれば「どちらがお客様に喜ばれるか」ということなのです。では、もう一度そういう視点で考えてみようということになります。さらには「そもそもどんなお客様がその封筒を受け取るのか」という問いも生まれます。そうしたことを、本当は自分で考えて欲しいと思うところではありますが(笑)、そうやって説明を繰り返していく中で、互いに共通言語ができあがり「あ、お客さんのことを知らなかった」と気付くのです。これは大きな発見ですし、それが、仕事の面白さになると思うんです。つまり、宇宙人と対話することで、人と分かり合う楽しさが生まれる――未知との遭遇ですね。

――

(笑)。この場合は、封筒を作る目的ですが、どんな話をするにしても、その前提条件をしっかり共有していないと、かみ合わないことがあります。

山崎

そうなんです。どういう封筒を作ろうかというのは、個別のコンテンツですけれど、ではこれを「何のために」やっているのか互いに確認し合うのは、どんな仕事でも共通のフォーマットだと思います。それができれば一つ仕事がうまくなったと言えるでしょう。

――

今、自分がやっていることの最終成果が何かを考えるということですね。単純な作業の中でも必要なことだと思います。

山崎

仕事とは結局、相手に喜んでもらって対価を得るということだと思うんです。だから喜んでもらえないうちは、まだまだ半人前なのです。「売り上げというのは『どれだけ人から受け入れられたか』を示すもの。利益は『どれだけ人から喜んでもらえたか』を示すもの」という言い方もありますが、いずれにしても、まず相手に受け入れてもらえないといけないわけです。そのためには、自分と相手の関係性がどうなっているのかを俯瞰してみないと、何を喜んでもらっていいのか分かりません。

――

相手との関係性を俯瞰する?

山崎

スーパーで板チョコを買うとしましょう。品質も値段もほぼ同じ、A社、B社、C社の3種類が並んでいます。その中から、A社のものを選んだとします。その時、あなたはなぜB社でもC社でもなく、A社の商品を選んだのか。そこを考える必要があると思うんです。値段が安かったからなのか、好きなブランドだったからなのか、あるいは好きなものなら、他より高くても買うのか、それはいくらくらいまでか…そんなことを考えることから始めたらいいのではないでしょうか。つまり「選ぶ」という行為を客観的に考えてみるのです。私たちだって仕事の場でそうやって選ばれているわけですから。すべてはスーパーの板チョコに集約されているんです。


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山崎将志(やまざき・まさし)

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。企業研修の知識工房、事業再生コンサルティングのアジルパートナーズをはじめ、数社のベンチャー企業を開発。著書に『残念な人の思考法』(日本経済新聞出版社)『残念な人のお金の習慣』(青春出版社)『残念な人の仕事の習慣』(アスコム)など。

●取材後記

山崎さんは「どうして仕事をしているのか」といえば「遊びたいから」だそうだ。たくさん遊びたい、それにはお金と時間が必要だ、効率良く、生産性を上げよう。そうなると支えてくれる仲間も必要だ…。「そうこうしているうちに仕事が楽しくなってきた」そうだ。話題の著書における「残念な人」とは、ご本人のことだとも。そうやって自分を客観的に見てみる力が、仕事を楽しくしてくれる一つの要素らしい。

構成、文/飯塚りえ   撮影/海野惶世   イラスト/小湊好治
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