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ニッポン・ロングセラー考 Vol.108 ビトイーンライオン

1980年 発売 ライオン

山切りカットで歯間清掃!販売量日本一の定番ブランド

INDEX

“歯と歯の間をキレイに磨く”新コンセプトで登場

画像 「萬歳歯刷子」

ライオン歯ブラシのルーツとなった「萬歳歯刷子」。東京歯科医学専門学校(東京歯科大学の前身)の指導の下で開発された。

画像 「ビトイーンライオン」レギュラーとレディ

初代「ビトイーンライオン」。”レギュラー”と”レディ”でヘッドのサイズが異なる。中身が見える「ダブルウィンドーサック」も斬新だった。

誰もが毎日使っている歯ブラシ。その起源には諸説あるが、現在の歯ブラシの原型は15世紀に中国で作られたもので、棒状の骨に動物の硬い毛を植えたものだったという。17世紀にはヨーロッパでも使われるようになるが、現在の形に近いものが作られたのは19世紀以降。日本では1914(大正3)年に小林富次郎商店(創業時のライオン)が「萬歳歯刷子」を発売し、国内初の量産化に成功している。50年代にはナイロン製の毛を植えた歯ブラシが登場。以降は各社からさまざまな歯ブラシが発売され、一挙に普及が進んだ。
そのライオンが誇るロングセラー歯ブラシが、1980(昭和55)年に発売した「ビトイーンライオン」。現在も同社の主力ブランドとして安定した人気を維持している。

戦後、小林商店は歯磨事業に特化したライオン歯磨株式会社に移行した。60〜70年代には歯槽膿漏予防を謳った「デンターライオン」歯ブラシ、アーチ型ハンドルの「バネットライオン」を発売して大ヒット。国内歯ブラシ市場の半分をおさえるまでに成長した。
とはいえ、他社からもオーラルケアの新製品が次々と発売されるこの時代、ライオンも決して安泰ではなかった。柱になる歯ブラシのブランドがもうひとつほしい。そこから新製品の開発が始まった。

日本人の生活が豊かになった70年代は、オーラルケアに対する意識も大きく変わった。朝起きたら習慣として歯を磨くというスタイルから、歯の健康を意識して、毎食後丁寧に歯を磨くというスタイルに変化したのだ。
このころの調査で、ライオンは消費者に「歯と歯の間をもっとキレイに磨きたい」というニーズがあることに気が付く。従来の歯ブラシはブラシの上面がフラットなものが多く、歯と歯の隙間にブラシの毛先が入りにくかった。最初から歯と歯の間に入りやすい形にブラシを加工すれば、この不満を解消することができるはず。研究の結果生み出されたのが、歯と歯の形状にあわせてブラシの上面を凸凹させた「山切りカット」だった。

最初の「ビトイーンライオン」は、現在の製品に比べるとかなりシンプルなデザインだった。ブラシの毛束が縦に3列なのは今と同じだが、ブラシのカラーは白一色。ハンドルはストレートタイプで、親指を固定しやすいようにするため、親指が当たる位置に突起が付いていた。
商品ラインアップは山が5つある“レギュラー”と、山を4つにしてヘッドをやや小ぶりにした“レディ”の2種類。毛の硬さは“ふつう”のみで、ハンドルカラーは3色あった。価格は150円。当時の市場は歯ブラシの種類もそれほど多くなく、価格もほぼ横並びだった。

「山切りカット」が消費者に与えたインパクトは想像以上に大きく、「ビトイーンライオン」は早々とヒット商品になった。発売後2年で市場シェアの1割を獲得。3年後にはシェアトップに躍り出た。広告には、NHKの朝ドラで主役を務めた熊谷真実を起用。「歯と歯の間、スーッとした。」というキャッチフレーズも、商品の特長を分かりやすく表現していた。


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ヘッドの小型化やブラシの毛の密度を高めるなど細かな改良で商品性をアップ

画像 「ビトイーンライオン」豚毛

初代の「ビトイーンライオン」豚毛。価格は通常商品より100円高い250円だった。

画像 1989年改良型「ビトイーンライオン」

全面改良後の「ビトイーンライオン」3タイプ。2色になったブラシが目立つ。パッケージは透明のウェルダーパックになった。

画像 「ビトイーンαライオン」

ブラシが大きく変わった「ビトイーンαライオン」。宣伝コピーは「歯の間、奥歯の汚れもスッキリ」。

「ビトイーンライオン」が発売されてから、今年で32年目。日用品のロングセラーとしてはそれほど長い方ではない。見方を変えれば、歯ブラシ業界は競争が激しく、ブランドを確立するのが難しいとも言えるだろう。では、「ビトイーンライオン」はなぜロングセラーになれたのか? その答えは、頻繁に行われたモデルチェンジに隠されている。時代を追いながら、その変遷を辿ってみよう。

発売翌年の1981(昭和56)年には、“レギュラー”、“レディ”それぞれに“かため”を追加。ブラシの毛をやや太く長くすることによって硬さを増し、しっかり磨きたいという消費者ニーズに応えた。
84(昭和59)年には豚毛タイプを発売。中国重慶産の良質な天然毛を使用し、歯ぐきへの柔らかな当たりを実現した。独特の使用感があるため、豚毛の歯ブラシはナイロン製の毛の歯ブラシが主流になっても常に一定の需要があるという。現在のライオンは「ビトイーンライオン」のブランドを外し、「豚毛ライオン」として「山切りカット」の豚毛歯ブラシを販売している。

商品に大幅な改良が加えられたのは1989(平成元)年。まず、従来製品よりも植毛部がややコンパクトになり、ブラシの毛の密度が増した。この改良により、同じ磨き方をしても今までより汚れをしっかり落とせるようになった。同時に植毛部を山毎に2色に分け、「山切りカット」の特長が視覚的に伝わるようにした。
ハンドルのネック部を長くしたのもこの時から。これは奥歯にブラシが届きやすくするための工夫。写真でみるとわずかな違いでしかないが、効果は大きかった。また、ハンドルの材質を剛性感のあるAS(アクリロニトリル・スチレン)から柔軟性のあるPP(ポリプロピレン)に変更。歯に当てたときにハンドルがしなるので、より磨きやすくなった。

1993(平成5)年にはラインアップを拡充。従来の「ビトイーンライオン」を残しながら、新たに高級カテゴリーに位置する「ビトイーンαライオン」を発売した。この商品の特長は、汚れをしっかり落とすために採用した「新山切りカット」にある。毛先の集中度が高まるような新しい植毛部の設計により、ブラシの毛先がより歯と歯の間に入りやすくなった。また、ヘッドをコンパクト化し、先端を細く加工。ロングネックと合わせて奥歯の磨きやすさを向上させた。
また、ハンドルの一部にラバー素材を採用してハンドルの滑りを解消した点も見逃せない。同時に従来のストレートタイプからなだらかなカーブを持つタイプに変更し、握りやすさそのものも改善した。


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2つのラインを統一してブランドのカラーを明確に

画像 「ビトイーンαライオン海物語」

ティーン需要を狙った「ビトイーンαライオン海物語」。この色使いは珍しい。生産終了品。

画像 統一後の「ビトイーンライオン」

ラインナップ統一後の「ビトイーンライオン」。ヘッドの構造とS字ハンドルは現行商品に受け継がれている。

画像 「ビトイーンMaxi(マキシー)」

意欲作だった「ビトイーンMaxi(マキシー)」。価格は「ビトイーンライオン」の約2倍だった。

「ビトイーンライオン」の変遷はまだまだ続く。1997(平成9)年には「こどもビトイーンαライオン」を追加。クジラ、カニ、マンボウをデザインしたハンドルで楽しいイメージを演出した。ちなみに現在の「ビトイーンライオン」に子供向け商品はなく、「クリニカKid'sブラシ」と「ライオンこどもハブラシ」が販売されている。
その翌年には「ビトイーンαライオン」を改良。ブラシの毛の密度を高めて歯間清掃力を向上させ、ハンドルには指当てラバーを付けた。

この年は、今までとは方向性が異なるユニークな商品も登場している。「こどもビトイーンαライオン」を中高生向けにアレンジした「ビトイーンαライオン海物語」だ。可愛いキャラクターはそのままに、ヘッドやハンドルを通常サイズに変更。現在の歯ブラシでキャラクターを採用しているのは子供向け商品ばかりなので、この商品は歴代の中でもかなり珍しい部類に入る。

ここまで普及価格帯の「ビトイーンライオン」と高価格帯の「ビトイーンαライオン」の2本立てでやってきたライオンだったが、90年代後半に入ると激しい価格競争に巻き込まれるようになる。
「ビトイーンαライオン」は市場価格が下がり、「ビトイーンライオン」との価格差が小さくなってしまった。そこで打ち出した新たな戦略が、2ラインを統一して消費者の実感に即したアピールを行うこと。具体的には、商品をヘッドのサイズで“レギュラー”と“コンパクト”の2つに分けた。“コンパクト”は従来の“レディ”に該当する。
自慢の「山切りカット」も改良された。“レギュラー”はブラシの毛束2本を使って1つの山切り型にし、“コンパクト”は束1本だけの山切り型に変更。それぞれ“大きい山切り”、“小さい山切り”としてパッケージに表記した。細かな変更なのでこの時のモデルチェンジに気が付いた消費者は少ないかもしれないが、この形は現行商品でも継続されている。

2002(平成14)年には女性をターゲットにした「ビトイーンライオン クリアスタイル」を発売。カラフルでお洒落なS字透明ハンドルを採用したこのモデル、現在は「ビトイーンライオン クリアカラー」と改称され、継続販売されている。
04(平成16)年に発売した「ビトイーンMaxi(マキシー)」も個性的な製品だ。極細毛を植えたブラシを「山切りカット」にすることで、山部の極細毛が狭い歯間の奥まで届いて汚れをしっかりかき出す。同時期に発売されていた歯周病ケア歯ブラシ「デンターシステマライオン」に通じる機能を持っていたが、消費者からは逆に「ビトイーンライオン」らしくないと受け止められたため、現在は生産されていない。定着したブランドゆえの難しさと言えるだろう。

ライオンが商品ラインナップを再編成し、「ビトイーンライオン」と「ビトイーンライオン クリアカラー」に絞ったのは2009(平成21)年。度重なるモデルチェンジを経て、「ビトイーンライオン」は使いやすく、選択に迷わない、そして手軽に購入できる歯ブラシの代表格となった。


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「超コンパクト」タイプで新しいニーズに対応

画像 現行「ビトイーンライオン」3タイプ

現行の「ビトイーンライオン」。ヘッドの大きさは”レギュラー”、”コンパクト”、”超コンパクト”の3種類。

画像 「ビトイーンライオン クリアカラー」

こちらは「ビトイーンライオン クリアカラー」。ヘッドサイズは”コンパクト”。

ライオンは、ある時にはユーザーの声をすくい上げ、またある時はユーザーニーズを先取りして、「ビトイーンライオン」にさまざまな変更を加えてきた。誕生から32年でここまで多くの種類を販売してきた歯ブラシのブランドは他にない。
時代のトレンドや消費者ニーズを積極的に取り入れている点は、今も変わらない。最も新しい商品は、2010(平成22)年に発売した超コンパクトタイプ。ヘッドの小型化傾向は80年代後半から始まっていたが、90年代後半からは口の中で動かしやすい超小型ヘッドを採用した歯ブラシが増えてきた。「ビトイーンライオン」の場合、ブラシの毛束はヘッドを横からみて、“レギュラー”が10列、“コンパクト”が8列であるのに対し、“超コンパクト”はわずかに6列。1本1本の長さや太さも他の2タイプとは異なっている。構造的には先端だけが“大きい山切り”になっており、これで奥歯の歯間を清掃する仕組みだ。

超コンパクトを含めると、現在のラインアップは全部で11アイテム。各タイプそれぞれ4色あるから、全部で44品目ということになる。整理されたとはいえ、1ブランドとしては国内最多の品揃えを誇り、現在まで12年連続販売個数(※)でトップの座を守っている。ちなみに最もよく売れているのはコンパクトタイプ。大きめヘッドの“レギュラー”も、根強い人気があるという。
(※:(株)インテージSRIデータ 実績)

電動歯ブラシの台頭や高付加価値商品へのシフトなどもあり、普及価格帯の歯ブラシは昔のように大量に売れる時代ではなくなった。ガリバー的存在の「ビトイーンライオン」も、店頭ではスーパーなどのプライベートブランドと激しい販売競争にさらされている。
今後の課題は若年層の取り込み。中高年層への認知は行き渡っている。歯ブラシにそれほどこだわりを持たない20〜30代の層をどれだけ開拓できるか。ライオンは今春で2年連続、若い女性に人気があるキャラクター「ピングー」を使ったキャンペーンを実施して、若年層からの好反応を得た。
「山切りカット」は「ビトイーンライオン」の象徴だが、若い消費者に訴求するにはプラスαの新しい要素が求められる。だが、心配はなさそうだ。ライオンの商品開発力は業界随一。これからも、眠っていた消費者ニーズを掘り起こすような新製品がどんどん出てくるだろう。かつての「ビトイーンライオン」がそうであったように。

取材協力:ライオン株式会社(http://www.lion.co.jp/
歯周病ケアに重点を置いた「デンターシステマ」

「ビトイーンライオン」は販売数ベースで業界トップの商品だが、ライオンには販売金額ベースでトップを走るもうひとつの歯ブラシがある。それが、歯周病ケアをテーマにした「デンターシステマ」の歯ブラシシリーズ。「デンターシステマ」は1964(昭和39)年に誕生した歯ミガキ「デンターライオン」をルーツとする、歴史の長いオーラルケアブランド。93(平成5)年の誕生以来、歯ミガキ、デンタルリンス、歯間ブラシなどさまざまなカテゴリーで商品を展開してきた。歯ブラシシリーズの特長は、全ての毛先が0.02ミリという超極細毛。この毛先で歯周ポケットの奥に潜む汚れをしっかり掻き出すという。スタンダード、しっかり毛腰タイプ、ハグキプラスの3タイプがある。

画像 「デンターシステマ ライオンハブラシ」

「デンターシステマ ライオンハブラシ」。歯周病ケア歯ブラシの人気商品だ。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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