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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 和ろうそくと燭台Vol.34 春を告げる鶯色の和ろうそく ハゼの木蝋×燈芯草

愛媛県の内子町へ行ってきた。東京、大阪、福岡からであれば松山まで飛行機で飛ぶのが早いが、鉄道だと岡山から特急しおかぜで瀬戸大橋を渡り、予讃線から内子線を通って内子まで、車窓に時折現れる瀬戸内の風景を楽しみながら行く。東京から7時間の旅である。
古い町並みを残す静かな内子町に一点華やいだ佇まい(たたずまい)を見せる内子座は、大正時代に建てられたコンパクトながら本格的な歌舞伎劇場である。かつてハゼの木蝋(もくろう)の産地としてにぎわった時代の名残をとどめている。その木蝋は、晩秋に熟すウルシ科のハゼの木の実を冬に採取し、つぶして蒸し上げ圧搾して得られる。医薬品や化粧品の他、和ろうそくの材料として江戸時代から作られてきたが、内子の木蝋は独特の製法で白く仕上がることから特に重宝がられてきたという。その一部始終は木蝋資料館上芳我(かみはが)邸で見ることができる。
内子町の中心、町並み保存地区の入り口にある大森和蝋燭屋は、二百年以上にわたって木蝋による和ろうそくを作り続けている老舗である。和ろうそくの芯は、竹串に和紙とイグサ(燈芯草)の髄を巻き、真綿で端を留めて作る。これを回しながら、溶かした木蝋を何回も掛けてゆくことで年輪のような断面を持ったろうそくに仕上がる。表面は独特のテクスチャーを持ち、粉を吹いたような鶯(うぐいす)色をしている。型に流し込んで作ったものと違い、一本ごとに形も色も微妙に異なるところが手作りならではの趣があって面白い。
中空の太い芯を持ち、幾重にも積層された木蝋でできている和ろうそくは、煤(すす)も出さず、溶けだした蝋が垂れることもなく、ゆったりとした炎で静かに長く燃え続ける。立春を過ぎ、なまめきを増す夜にふさわしい風情のある明かりなのである。

画像 和ろうそくの芯画像 和ろうそく 中空の様子画像 和ろうそく 表面

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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