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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 棕櫚箒Vol.36 髭ぼうぼうの棕櫚箒 職人気質×遊び心

Vol.34「春を告げる鶯色の和ろうそく」で紹介した愛媛県内子町を再訪する機会があった。内子という街は不思議な所で、江戸時代の面影を色濃く残す町並みばかりか山里の方まで丁寧に手を入れて観光振興にえらく熱心なのだが、一向に観光地っぽく俗化する気配がなく、もっぱら地元と近隣の人たち自身で楽しんでいるように見える。
伝統工芸の職人さんたちもやたらに元気が良い。古い町並みに突然現れる棕櫚箒(しゅろぼうき)の塊のような小さな店を営む棕櫚細工の伝統工芸士、長生志郎(ながいけ・しろう)さんは、中でもちょっと変わっている。まず、棕櫚箒を簡単には売ってくれない。客は箒のことなんか全然知らないのだから、何でも聞けという。おっしゃる通りこちらは箒に関してはズブの素人だから何を聞いたらよいかさえ分からない。ところが長生さん、全ての質問と答えを一人で話してくれるから、客の方は、なるほどなるほどと感心して、しまいにはすっかり納得して買えばよろしい。
ということで、得意になって持ち帰ったのがこの何とも変わった手のひらサイズの棕櫚箒である。柄の方まで勢いよく伸びている毛は、普通は切るのだけど、中には切らないでくれという客がいるからそのままにしてあるだけで、役に立つわけでもないから切りたければ勝手に切ってもらって一向に構わないという。変な客もあるものだが、それは珍しいと喜んで分けてもらった自分もその一人ということになる。
ところがこのミニ箒、使ってみるとさすがである。硬すぎず柔らかすぎず何とも具合が良い。パソコンのキーボードから本棚からズボンに散ったパンくずまで、たちまちきれいになる。すっかり感心してまじまじと眺めるうちにどこかで見覚えがあると思ったら、五月人形の鍾馗(しょうき)様の髭面にそっくりではないか。さては、魔除けの効験も?


長生民芸店
http://www.pref.ehime.jp/iimono/nanyo/
uchiko_shurozaiku.html

画像 使用中の棕櫚箒画像 柄の方まで勢いよく伸びている毛画像 棕櫚箒

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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