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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 鎌倉彫万年青(オモト)の丸盆Vol.45 鎌倉彫万年青(オモト)の丸盆 鎌倉仏師の刀痕×漆

鎌倉彫の特徴は何と言っても教室。一体いつからどれほど多くの教室で、どれほど多くの人が鎌倉彫を習い、作ってきたのだろうか? 鎌倉彫のイメージに素人っぽさが付きまとうのは、昔から目にしてきた鎌倉彫の多くが、そうした習い事の作品であったからかもしれない。

しかし、本来の鎌倉彫は12世紀、禅宗寺院の造仏のため鎌倉幕府に呼ばれた奈良や京都の仏師の手になる彫漆調度品に由来するという。立体物の木彫技法であるから彫が深く、漆のつやが陰影をさらに際立たせる、力強い工芸品なのである。

長谷に鎌倉彫・陽堂を訪ねる。東海道線藤沢駅から江ノ電に乗り換えて鎌倉へ。沿線の民家の軒先をかすめるようにして進む電車は、江ノ島を過ぎ、右手に七里ケ浜、稲村ケ崎など湘南の海を見ながら30分ほどで長谷駅に着く。駅前の通りを海岸とは反対方向の右へ進み、長谷観音前の交差点を右折して200メートルも行けば間口の広い鎌倉彫・陽堂に着く。

慶長十一年(西暦1606年)創業というから、もう400年以上も続いている老舗である。明るい店内で、オーソドックスなものから実験的な作品まで、いろいろ見せてもらって、オモトが彫られた9寸の丸盆を求めることにした。オモトは葉芸を楽しむ観葉植物なので、実が描かれていない場合も多いのだが、新年にふさわしい、めでたい植物ということで赤い実を持った柄を選んだ。

豊かな葉の表情、心地よい刀痕の乱れ。彫りにも塗りにも、よどみがなく、迷いもない。肝心なのは彫りすぎないこと、だそうだ。鎌倉の良さにも通ずる心構えか。

鎌倉彫陽堂 http://www.kamakurabori.co.jp/kamakura/

画像 オモトの赤い実画像 刀痕画像 丸盆全体

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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