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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 進化する中折れ帽Vol.46 進化する中折れ帽 郷愁×イノベーション

男はなぜか年を取ると帽子をかぶりたくなる。それに加え、最近は若い男もファッションとして帽子をかぶるから、帽子をかぶる日本人が増えている。もっとも、明治に入って「まげ」を落として以来、町で暮らす男たちはずっと帽子をかぶってきた。靴と帽子は文明開化の証しであった。

明治43年創業という老舗の帽子店を訪ねた。上野のシルクハット職人として創業し、浅草稲荷町で開店したニシカワ帽子店は、大正に入って流行の輸入帽子を扱うため横浜へ移転。現在も横浜の港南台駅前にあるショッピングセンター「港南台バーズ」内に店を構える。東京駅からJR京浜東北線/根岸線直通電車に乗れば1時間、横浜駅からは30分で行ける。

そう広くはない店内には世界中の帽子が積み重なって置かれている。日本でもすっかりポピュラーになったイタリアのボルサリーノ、フランスのミストラルのハンチングやハットに交じって、独特の存在感を持つ中折れ帽が目に留まった。「RETTER(レッター)」という2007年生まれの若い国産ブランドで、兵庫県相生市のTo.pi(トピー)工房のものだという。

一見オーソドックスなソフト帽に見えるが、クラウン(頭の入る部分)の天井の縁がはぎ合わせになっている。さらに、素材のパラフィン加工コットンは防水性とともに形状の復元性が高いため、形崩れしにくく、必要なら折りたたんで持ち歩くこともできる。しかし、ロウ引き加工は折り曲げたりこすれたりすればチョークマーク(白い跡)がつき、防水性能も落ちてくるのは成り行きで、それを劣化とみるか味とみるか。

平凡に見える形の中に、さりげなく挑戦者の心意気をのぞかせるデザインには共感を覚える。百年以上欧米に対する憧れであり続けた帽子に日本独自の価値観が持ち込まれる予感がうれしい。似合おうが似合わなかろうが、構わず愛用することに決めた。

ニシカワ帽子店 http://hat-nishikawa.com

画像 パラフィン加工コットンが水を弾く画像 折りたたんだ状態画像 中折れ帽全体

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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