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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 一生もののネイルニッパーVol.51 一生もののネイルニッパー 盆栽ばさみ×黒のモード

端居(はしい)は俳句では夏の季語になるが、少し秋めいてきたころ、風呂上がりに開け放した障子の向こう、まだ明るい縁側に出て腰を下ろし、蚊やりなどたいてうちわを使っている、そんな情景だろうか。さて、その時何を持って出るか? 無論冷えたビールも結構だが、爪切りも忘れてはならない。立て膝をして浴衣の裾から出した足の爪を切るのだ。どんなに狭い庭にも山河と同質の自然があり、季節の移ろいを知ることができる。そんなことを考えながら伸びた爪を切ればすでに俳句の世界だ。

ということで、とびきりの爪切りを求めて新潟県三条市まで行ってしまった。信越本線の三条駅から線路に沿うように南西方向に向けてレンタカーを走らせる。見附市から長岡市に至る道だ。新潟平野の中程をどんどん走ると、やがてうっそうとした森を背負って漆黒の建物が現れる。高い技術力とともに独特の美意識を持つ諏訪田製作所のオープンファクトリーだ。大正時代創業の盆栽ばさみの工場から見事な変身を遂げたSUWADAのユニークな黒い工場見学ルートをたどり、ファクトリーショップで念願のニッパー型爪切りを手に入れた。

一般の爪切りが二枚の平行な刃の間に爪を挟んでパチンと押し切るのに対して、このニッパー式では、はさみのように刃が当たるのでサクサクと爪が切れる。切り口が尖らないのでヤスリで仕上げる必要もない。純度の高いステンレスの地金を鍛造で打ち出し、ていねいに手仕上げしたこの道具は、プロの美容師やネイルアーチストにも大人気だという。少々持ち重りのするこの道具の刃先を眺めれば、人の手技が生みだす素の美しさにほれぼれする。切れ味が鈍れば研いでもらえるのは安心で、それも品質のうち、なのである。

株式会社諏訪田製作所 http://www.suwada.co.jp/

画像 刃先画像 ばね部分画像 ケースとネイルニッパー本体

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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