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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 指跡だらけのウォッシュレザーベルトVol.52 指跡だらけのウォッシュレザーベルト 江戸っ子クリエイティブ×革

東京台東区。浅草駅や雷門からは浅草通りを挟んで南側、JRの御徒町駅と都営地下鉄の蔵前駅の間に広がる一帯は、江戸時代からの職人町であった。明治以降は皮革加工業が加わり、昭和にはさまざまな手工業を中心としたメーカーや問屋が集積し、近年は工芸品や装身具などを作る工房や店舗が集まり始めている。

その一角をなす元浅草三丁目に、1925年創業のベルト工場から続く革小物製造の老舗、三竹産業が「ANNAK(アナック)」というオリジナルブランドのショップを出している。90年の歴史を誇る専門メーカーだと聞けば、ピカピカで重厚な仕上げの高級ベルトを思い浮かべるだろう。ところがこのブランドのデザインはよれよれのウォッシュレザーが特徴なのだ。

くたくたに伸びきった革ひものようなベルトをこま結びに結んで、手ぬぐいなどぶら下げた猛者(もさ)がそのあたりを闊歩(かっぽ)していた大正時代からのベルト屋だから、というわけではないのだろうが、手塩にかけて作り上げたベルトを湯につけて指でグイグイごしごしと、しごいて傷めつけてゆく。

本当に良い革を正しくなめしてあるからこそできる技だし、年季の入った職人が指先に込めた自信と遊び心と愛情が、でこぼこの指跡となって顕(あらわ)れているのに違いないのだが、そんなプライドはおくびにも出さないとぼけた表情をしている。それどころかベルトの余った先の部分(チップ)を内側に巻き込むことですっきり見せるため、オリジナル開発のバックルを装着するなど、機能主義デザインのふりをしてくれる。

ショップカードにさりげなく「sustainable leather」と書かれているあたり、何とも憎い心意気である。東京の下町には世界最先端のクリエイティビティが生きている。

三竹産業 http://www.mitakesangyo.co.jp/

画像 でこぼこの指跡画像 バックル部分画像 内側に巻き込まれたチップ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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