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明日につながる基礎知識

第29回 知っているようで知らないこのワード 「トランザクティブメモリー」 とらざくてぃぶめもりー Transactive Memory画像 イラスト

トランザクティブメモリー(Transactive Memory)とは、1980年代半ばに米国ハーバード大学の社会心理学者であるダニエル・ウェグナー(Daniel M. Wegner)が提唱した組織学習に関する概念。日本語では「交換記憶」「対人交流的記憶」などと訳される。
個人も組織も過去の経験から学び、それを記憶しておいて次に生かすことでパフォーマンスを高めるのだが、記憶は個人の頭の中に蓄積されたものだけではない。例えば、「コンピューターのことは息子に、黒豆の炊き方は祖母に聞けば分かる」というように他者を通じても蓄えられ、これを交換記憶と呼ぶ。

一般に、「組織における情報の共有化=全員が同じことを知っていること」と認識されているが、トランザクティブメモリーでは、組織のメンバー全員が同じことを知っているのではなく、組織の中で誰が何を知っているかを把握することの方が重要だと考える。英語で言えば、メンバーが「What」よりも、「Who knows what」を記憶・共有している状態に重きを置く考え方である。

実際、組織が大きくなり業務が複雑化すると、メンバー全員が同じ情報を共有するのは難しく、しかも効率的ではない。何か困難な問題に遭遇した際、自分一人で全てを解決しようと悪戦苦闘するよりも、「A社のことなら、Bさんに聞くといい」「商品Cの開発の経緯は、Dさんが詳しい」というように、誰かの“お知恵を拝借”した方がより早く解決できる場合がある。ただし、いざ誰かの専門知識が必要になったとき、それを上手に引き出せなければ意味がない。従って、「誰が何を知っているか」が組織全体に浸透していることが重要なポイントとなる。
組織のパフォーマンスは、メンバーが各自の担当分野で専門知識を蓄えつつ、「誰が何を知っているか」を共有し、専門性を組み合せて活用することによって高めることができる。

組織学習は経営学において重要な研究分野の一つであり、「トランザクティブメモリーの高い組織ほど、課題遂行能力が高い」「トランザクティブメモリーの高いチームでは、直接対話によるコミュニケーションが活発」といった報告も出ている。

今月の「トランザクティブメモリー」なインフォメーション
『世界の経営学者はいま何を考えているのか—知られざるビジネスの知のフロンティア』
画像 『世界の経営学者はいま何を考えているのか—知られざるビジネスの知のフロンティア』

『世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア』入山章栄著、英治出版

米国のビジネススクールで活躍し、現在は早稲田大学ビジネススクール准教授を務める入山章栄氏が、世界レベルのビジネス研究の最前線を分かりやすく解説した1冊。今回ご紹介したトランザクティブメモリーの他、イノベーションに求められる「両利きの経営」や経営学の一大潮流・ネットワーク理論、国民性の違いとビジネスなど、経営学の最新トピックスを紹介。膨大な学術論文の裏付けを示しながらも、語り口は平易で明解。エッセイのように気軽に読みながら、経営学の知のフロンティアに触れることができる。

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