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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 赤紅染め桜の紙入れVol.53 赤紅染め桜の紙入れ 白石和紙×型染め紙子

久しぶりに仙台市の「せんだいメディアテーク」を訪れ、興味深い展示会を見たついでにミュージアムショップをのぞくと、白石紙子(しろいしかみこ)の小物を置いていた。蔵王のふもとにある宮城県白石市は古くから和紙の産地として知られている。数ある和紙産地の中でも白石は江戸時代から紙製の衣料品の産地として知られていた。

手すきの和紙を細く切り、糸にして織りあげた紙布(しふ)や、手でもみ、あるいは型を用いてテクスチャーをつけ、模様を染め出した紙子などを生産し、さらに加工して衣類や袋物などの小物に仕立てていたのである。紙子で仕立てた着物は風を通さず暖かいことから重宝がられ、松尾芭蕉なども旅に携行していたという。

今回手に入れたのは拓本染め桜模様の紙子でこしらえた袱紗のような、簡単な紙入れである。楮(こうぞ)の手すき和紙ならではの風合いと木型で押した陰影が豊かな表情を生み出している。深みのある赤紅色はきっぱりとした品格を感じさせる良い色である。男持ちの懐紙がちょうど入る寸法だから茶の席に持って行くのもよいのだろうが、他にもいろいろ使えそうだ。

私の場合は、日ごろから祝儀の際の金封を袱紗にくるんでゆくのはいかにも大仰で、かといってそのまま上着のポケットに入れておくと水引などの飾りが傷むと困っていたのが、これならちょうど入るし、手軽で、しかも極めてめでたい。正月のお年玉もここから取り出せば少しはありがたみが増すだろう。

そうだ、先頃、和紙がユネスコ無形文化遺産に登録されて日本の紙作りが見直されているのだから、次回外国に行くときはパスポートなど入れて持ち歩き、会う人ごとに和紙の宣伝をしてこよう。

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益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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