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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 風景を織り込んだクッションVol.54 風景を織り込んだクッション ふじやま織×デザイン発想

中央本線の特急かいじに乗って高尾を過ぎたあたりから急に風景が変わる。狭隘(きょうあい)な山あいのトンネルからトンネルを文字通り縫うように進むのだが、その間、視界が開ける度に目に映る景色は変化に富んでいる。深い谷間の川を見下ろし、山から山へ渡された高い橋を仰ぎ見て、棚田の里をかすめてゆくのは、あたかもスライドショーを見ているようで楽しい。

大月で富士急に乗り換える。富士山のイラストだらけのフジサン特急で40分ほど走ると富士山駅に着く。プラットホームの正面に本物の富士山が原寸大で出迎えてくれる。富士山が世界遺産になったのを機に、かつての富士吉田駅が駅名を変えたのだが、変わったのは駅名だけではなく、駅舎の土産物売り場の品ぞろえもずいぶん充実した。

その一角に山梨県富士吉田で長い歴史を持つ「はたや」と呼ばれる織物業者とテキスタイルデザインを学ぶ学生たちの共同開発商品が置かれている。伝統に裏打ちされた技術と若者たちの自由で遊び心にあふれた発想のコラボレーションは見ているだけで楽しくなる。

このクッションカバーは、老舗座布団生地メーカーが作る座布団カバーの新しいブランドcocioroso(コシオロッソ=腰おろそう!)のうち、茶席判と呼ばれる正座用の座布団カバーを応用したもの。ウールを起毛させたジャカード織で苔(こけ)の質感を表現している。デザインを担当した高須賀活良氏は学生時代から自然と素材に強い関心を持って研究を重ねてきた、極めてユニークなデザイナーである。

織りでしか生み出せないテクスチャーによって苔むす石畳の風景をトリミングしたようなクッションを早春の室内に置いてみる。早くも梅雨晴れの涼風を待つ心持ちになる。

有限会社 田辺織物 http://cocioroso.com/

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益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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