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コムジン診療所 高脂血症〜沈黙の病気にご用心〜
動脈硬化と高脂血症の深い関係

人の血液の中には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸などの脂質(脂肪成分)が溶け込んでいます。「高脂血症」とは、これらの中の、特にコレステロールと中性脂肪の値が異常に多い状態を言います。

健康的な血管を流れる血液はよく“サラサラ血液”と表現されますが、血液中にコレステロールや中性脂肪が多すぎると、粘り気が強い“ドロドロ血液”に変化し、動脈の内壁に付着しやすくなります。そのため、次第に内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなったり、ひどい場合は血管が詰まってしまうことも。これが「動脈硬化」の状態です。
動脈硬化を発症させる原因には糖尿病や高血圧もありますが、最も密接にかかわり合っているのが、この高脂血症。高脂血症も動脈硬化も自覚症状がないため、そのまま静かに進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの深刻な疾患をひき起こす可能性が高くなっていくのです。

では、どんな人が高脂血症になりやすいのでしょうか? 原因は大きく分けて、(1)遺伝的なもの、(2)他の疾病やその薬が引き起こしたもの、(3)体質&生活習慣の乱れによるものの3つ。なかでも最も多いのは(3)のケースで、日本人の食生活が肉中心の欧米スタイルに変化したことが大きく関与しているようです。また、原因は一つだけとは限らず、いくつかの原因が重なっている人ほど高脂血症になりやすいと言えます。

高脂血症と診断される基準値は【図1】の通り。一般の健康診断で報告されるのは「総コレステロール値」「HDLコレステロール値」「中性脂肪値」の3項目だけですが、LDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールの値は他3つの検査値から算出できます。

  LDLコレステロール値=総コレステロール値−0.2(*)×中性脂肪値−HDLコレステロール値
 *中性脂肪値が400mg/dl以上の場合は0.16で

高脂血症は自覚症状がないだけに、健康診断でこうした数値を確認することが大切。そのためにも、会社などで行われる定期検診は欠かさず受けるようにして下さい。また、地域によっては自治体が生活習慣病の健康診査を実施しているので、これを利用してもいいでしょう。

【図1】高脂血症の診断基準
    (血清脂質値:空腹時採血)

総コレステロール
≧220mg/dL
LDLコレステロール
(悪玉コレステロール)
≧140mg/dL
HDLコレステロール
(善玉コレステロール)
<40mg/dL
中性脂肪
≧150mg/dL
※日本動脈硬化学会の診断基準です。
※この診断基準値は、他の病気などがない場合の数値です。高血圧や糖尿病など動脈硬化を起こす危険因子が一つでもある場合には、基準値は変わってきます。

●悪玉・善玉コレステロールとは?

肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶLDLコレステロールを“悪玉コレステロール”、逆に全身の組織から余分なコレステロールを回収し肝臓に戻すHDLコレステロールを“善玉コレステロール”と呼びます。
どちらも同じコレステロールですが、HDL(善玉)コレステロールが増えると動脈硬化になりにくく、LDL(悪玉)コレステロールが過剰になると動脈硬化を誘発しやすいことから、こう呼ばれています。


食生活の改善&運動、大事なのは続けること

高脂血症にならないためには、生活習慣を改善する、この一言に尽きます。食生活の乱れ、運動不足、喫煙、飲酒、ストレス、睡眠不足など、高脂血症を誘発する危険因子をできるだけ遠ざけるよう心がけましょう。

高脂血症になってしまった場合は、食事療法と運動療法を基本にした治療を行い、それでも効果が見られない時には薬の服用など、他の治療法も併用します。具体的な治療法については、高脂血症になった原因や、どの数値が異常を来しているのかによって異なるので、内科医の指示に従って下さい。

予防と治療、どちらの場合も中心になるのは食生活の改善。これには、まず適正な1日の摂取エネルギー量を算出し(【図2】を参照)、これを3で割って1食当たりの摂取カロリーの限度を把握し、実践します。お酒や間食の習慣がある人は、その分のカロリーを差し引くことも忘れずに。

食生活の改善と平行して運動療法を取り入れれば、効果は倍増します。ウォーキング、ジョギング、水泳をはじめとする有酸素運動の中から、楽しみながら長く続けられる種目を選び、始めることをおすすめします。
運動量の目安は1日300〜400カロリー。例えばウォーキングで300カロリーを消費するには、散歩(分速60m)で112分、速歩(分速80m)で75分となります。このぐらいであれば、通勤時に1、2駅分歩いたり、朝夕に散歩をすることでクリアできるのではないでしょうか。

大切なのは、継続すること。特に食生活への配慮は、基本的に一生続ける必要があります。よって、厳密なカロリー計算をして数日間で終わらせてしまうよりは、多少のことは大目に見て、“続けること”を第一に考えましょう。

【図2】標準体重と1日の適正エネルギーの計算方法

  • 標準体重
    標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

  • 適正エネルギー
    適正エネルギー=標準体重(kg)×生活強度

生活強度
I(軽い)
20〜25
主に部屋の中で生活している人。事務職、軽い手作業など
II(中等度)
25〜30
2時間程度の歩行や立ち仕事がある人。営業職、接客業など
III(やや重い)
30〜35
1日のうち1時間程度の重労働がある人。農業、漁業、建築などに従事している人
IV(重い)
35〜
1日のうち2時間程度は激しい運動や重労働をしている人
※日本人のほとんどは生活強度II(中等度)に当てはまります。

監修者プロフィール
寺本民生(てらもと・たみお)

帝京大学医学部内科教授。医学博士。
1947年福岡県生まれ。73年東京大学医学部医学科卒業。アメリカ・シカゴ大学留学後、東京大学第一内科医局長を経て、91年帝京大学医学部第一内科助教授に就任、97年より現職に。専門は、動脈硬化、脂質代謝、糖尿病、肝臓病。著書に『専門医が治す!高脂血症』(高橋書店)、『高脂血症』(梧桐書院)、『動脈硬化 高脂血症を治す』(保健同人社)、『おいしく食べて高脂血症を治す本』(永岡書店)など。

 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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