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コムジン診療所 インフルエンザ〜強力ウイルスから身を守れ!〜
インフルエンザと風邪、どこが違う?

インフルエンザは風邪の一種ですが、その感染力の強さと症状の重さから、いわゆる普通の風邪とは区別して扱われています。具体的にどう違うのか、2つの特徴を比べてみましょう。

まずは風邪。正式な病名を「風邪症候群」と言いますが、その原因の90%はウイルスで、約200種類のウイルスが病原体として確認されています。ヒトの体は一度ウイルスに感染するとその再感染を防ぐために抗体を作りますが、病原体が200種類もあると、たとえ毎年4回風邪をひいたとしてもすべての抗体を作るには50年! 私達が何度も風邪をひいてしまうのはこのためです。
風邪の症状はウイルスの種類によって若干異なりますが、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、せき、のどの痛みなど、いずれも局所症状。感染経路はくしゃみやせきを直接浴びたり、ウイルスの付いた物に触れた手で目や鼻をこすったなどの接触感染が主で、感染力はそれほど強くありません。

一方、インフルエンザの病原体はインフルエンザウイルス。その性質によりA型、B型、C型の3タイプに分けられ、ヒトでの流行はA型とB型で見られますが、大規模な流行を起こすのはA型です。いずれの場合も普通の風邪ウイルスとは異なり、空気中に漂って長時間生存できるため、ウイルスがいる空気を吸い込むだけで感染してしまいます。感染すると38〜40度の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感などの全身症状のほか、激しいせきを伴うことも多くなります。

ところで、インフルエンザは“何度か感染したらもうおしまい”ということにはなりません。それはインフルエンザウイルスが毎年少しずつ形を変えているためで、例えば前年「A香港型」という型のウイルスに感染した人が、翌年再び「A香港型」に感染することもあります。
インフルエンザウイルスの最も怖いところはこうしたマイナーチェンジではなく、数十年に一度フルモデルチェンジして新型を作り出すことです。これが起きると、もともと強い感染力を誇るウイルスだけに世界規模の大流行は避けられません。1977年に「Aソ連型」が登場してから既に26年。周期的には、いつ新型ウイルスが出現してもおかしくないのです。

ワクチン接種のススメ

もしインフルエンザに罹ってしまったら、すぐに病院へ行きましょう。最近ではインフルエンザウイルスに直接作用する抗ウイルス薬が開発され、発病後48時間以内に投与すれば症状が軽く、完治までの期間も短く済ませられます。

しかし、一番大切なのはインフルエンザを予防すること。その方法として最も有効なのはワクチン接種です。
現在はWHO(世界保健機関)が中心となって、毎年のウイルスの流行株の予測からワクチンの素となるウイルスを決めています。今年の冬に接種されるワクチンは昨年と同じく「Aソ連型ニューカレドニア株」「A香港型パナマ株」「B型山東(シャンドン)株」の3種を配合したもの。これが実際に流行するウイルスと合致すれば発病予防効果は健康成人で70〜90%あり、もしインフルエンザに罹った場合も重症化を防ぐことができます。高齢者や幼児の場合、インフルエンザに罹ると肺炎や脳炎、脳症などの重い合併症をひき起こすこともあるので、ワクチン接種はとても重要です。

ワクチン接種後、体内に抗体ができるまでには2週間程度かかります。インフルエンザの流行は通常12月下旬〜2月ごろなので、11月〜12月中旬までに接種を済ませるのが望ましいでしょう。効果は約5カ月間継続します。
費用は自己負担ですが、65歳以上の高齢者は一部公費負担としている自治体もあります。なお、ワクチン用ウイルスは孵化鶏卵で培養するため、卵アレルギーのある人は医師とよく相談して下さい。

今年は特にSARS(重症急性呼吸器症候群)の再流行が懸念されています。もともとSARSはWHOが新型インフルエンザの出現を監視していた際に中国広東省で出現した病気。インフルエンザとSARSは初期症状がよく似ており、専門家であっても初期段階でこの2つを区別するのは難しいと言われています。もちろん、インフルエンザのワクチンでSARSの感染を予防することはできませんが、接種を受けることによりインフルエンザの可能性が少なくなり、SARSとインフルエンザの鑑別がしやすくなります。SARS対策の観点からも、今年はインフルエンザワクチンの接種を受けることをおすすめします。


新型インフルエンザ出現の仕組み  

A型のインフルエンザウイルスはH(15種類)とN(9種類)に分類され、その組み合わせによってヒト、トリ、ブタ、ウマなどの各特有ウイルスになります。基本的に他動物のウイルスには感染しませんが、ヒトとトリのウイルスの中にはその垣根を越え、ブタに感染するものがあります。こうしてブタの体内にヒトとトリのウイルスが取り込まれた場合、遺伝子の組み換えが起こり、新しいインフルエンザウイルスが誕生するのです。
しかし、97年香港ではトリからヒトへ直接感染し18人中6名が死亡しました。このウイルスは幸いヒトからヒトへ感染しませんでしたが、トリからヒトへ直接感染した理由については今も分かっていません。その後トリ型インフルエンザのH9N2、H7N7がトリからヒトへ感染したことが報告されています。


 
普通の風邪、インフルエンザ、SARSの違い
  普通の風邪 インフルエンザ SARS
原因 ライノウイルス、コロナウイルスなど
約200種類
インフルエンザウイルス 新型コロナウイルス
(SARSコロナウイルス)
感染経路 接触感染と飛沫感染
感染力は弱い
空気感染
感染力は強い
接触感染と飛沫感染
(空気感染も否定はできず) 
感染力の強さはまだ不明
主な症状 くしゃみ、鼻水、鼻づまり、せき、
のどの痛み など
38度以上の高熱、頭痛、関節痛、
筋肉痛、倦怠感 など
38度以上の高熱、頭痛、
筋肉痛、倦怠感 など
 

監修者プロフィール
永武 毅(ながたけ・つよし)

長崎大学熱帯医学研究所 感染症予防治療分野 教授。
1945年、長崎県生まれ。76年長崎大学医学部卒業。同大学医学部付属病院講師、同助教授、国立療養所川棚病院呼吸器科医長などを経て、94年から現職に。日本内科学会、日本呼吸器学会、日本感染症学会の各評議員、日本熱帯医学会理事などを務める。専門は呼吸器病学、感染症学、熱帯医学。著書に『インフルエンザQ&A』『輸入感染症』(医療ジャーナル社)など。

 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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