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コムジン診療所 禁煙 〜タバコ依存症という病気を直す〜
タバコの煙は想像以上に有害

タバコの煙に含まれる化学成分は4000種類以上。うち有害物質と認定されているものが200種類、発ガン性物質も40種類以上含まれています。その中でも特に健康有害性が大きいのが、タール、ニコチン、一酸化炭素の3成分。それぞれ特徴は次の通りです。

・タール ………

多くの発ガン性物質を含んでおり、体内に吸収されると肺をはじめ口腔、肝臓、大腸など、全身でガン発生率を高めます。

・ニコチン ……

末梢血管を収縮させて血圧上昇や心拍増加を起こし循環器疾患を促進するほか、脳に作用して中毒状態を作り出します。

・一酸化炭素 …  

血液中のヘモグロビンに付いて酸素の運搬を妨げ、全身の細胞を慢性の酸素欠乏状態にします。これによって動脈硬化が促進されます。

こうした成分の煙を長年にわたって吸い込んでいれば、健康に影響が出てくるのも当然のこと。喫煙関連疾患とされるものには、心筋梗塞や狭心症などの心血管障害、脳血管障害、胃腸障害、呼吸器疾患…といろいろありますが、真っ先に思い浮かぶのは、やはり肺ガンです。
肺ガンの発生率は喫煙本数との関係が明瞭で、1日の喫煙本数が増えるほどその可能性は大きくなります。気になる人は【1日に吸うタバコの本数×喫煙年数】の計算式で自分の喫煙指数を試算してみましょう。600以上の場合は肺ガン発症率が高いと言われています。
しかし、タバコをやめれば発生率を下げることは可能です。これまでの喫煙の影響をゼロにすることはできませんが、禁煙後10年ぐらいたってからの肺ガン発生率は、1本も吸ったことがない人の1.4倍程度にまで下がります。

タバコの煙で健康を害するのは喫煙者だけではありません。
タバコの煙には、喫煙者が吸い込む「主流煙」と、それを吐き出した「呼出煙」、点火部から立ちのぼる「副流煙」の3つがありますが、最も有害なのは副流煙。酸性の主流煙に比べ、アルカリ性の副流煙ははるかに毒性が強く、有害物質の含有量もタールは主流煙の3.4倍、ニコチン2.8倍、一酸化炭素4.7倍、発ガン性物のベンツピレンは3.4倍、アンモニアに至っては46倍にもなります。このため、1日50本の喫煙者と同室にいた場合は心筋梗塞や狭心症の発症率が10年間で9倍以上に増え、ガンの発生率も跳ね上がります。胎児や幼児への影響も深刻で、喫煙をしない妊婦でも副流煙を吸うことによって死産や発育不全で生まれる赤ちゃんが増えたり、子供の喘息を引き起こす原因になることも少なくありません。

軽いタバコなら害も少ないのでは? そう考える人もいるかもしれませんが、答えはNO!! 軽いタバコの場合、無意識に強く吸い込んだり、喫煙本数が増えたりして、かえって体に悪い場合があります。また、軽いタバコの方が普通のタバコより有害な副流煙を出すこともあるのです。タバコの害をなくす吸い方も、害のないタバコも存在しません。害をなくすには吸わないこと、それしかないのです。

無煙生活に向け、まずは第一歩を

タバコがなかなかやめられないのは「タバコ依存症」という病気であるためです。これは、薬物中毒的な「ニコチン依存」と、タバコを吸ったら落ち着けるという「心理的依存」とで形成されており、禁煙にはニコチン切れの症状を乗り切る、タバコを吸わない習慣を身に付けるという2つの課題があることが分かります。

まずはニコチン切れへの対処策から見ていきましょう。
ニコチン切れの状態になると「タバコが吸いたくて吸いたくて仕方ない」という強い喫煙願望が起こることはよく知られていますが、その他にも人によっては、心拍数が少し減ったり、頭痛、肩凝り、眠気、精神集中困難などの症状が現れます。こうした禁断症状は時期が来れば必ず消えるものですが、それまでじっと我慢し続けるは大変なこと。そこで最近ではニコチンパッチやニコチンガムなどの「ニコチン代替療法剤」を利用して、ニコチン渇望を少しずつ緩和していく方法が取られるようになりました。ニコチンパッチはかかりつけ医で購入でき、ヘビースモーカーや未成年にも有効です。一方、ニコチンガムは市販されていますが、効力はニコチンパッチより弱くなります。噛み方も普通のガムとは違うので、必ず薬剤師の説明を受けてから購入して下さい。

次に、タバコを吸わない習慣を身に付けるにはどうすれば良いのでしょうか。
これには、タバコにつながる条件反射を、タバコに関連しない動作に置き換えていく工夫が必要になります。下の「タバコ切れの症状を乗り切る9つのポイント」を参考にしながら、自分に合った新しい条件反射を作ってしまいましょう。

「禁煙中だけど1本だけなら大丈夫だろう…」と吸ってしまい喫煙者に戻ってしまう人が半数以上いますが、この「再喫煙」の防止に威力を発揮するのがインターネットでのメールサポートです(禁煙マラソン:http://kinen-marathon.jp/)。また、最近では地域の保健センターなどでも応援体制を組む所が増えてきたのでこれを利用するのも良いでしょう。

禁煙には方法があります。もし途中で失敗したとしても、それは単なる“練習”であって、もう一度始めればいいだけ。次はきっと上手くいくようになります。ニコチンパッチやメールサポートなど新しく強力なツールを使って、かしこい禁煙にチャレンジしてみて下さい。

禁煙の健康に対する影響
最終喫煙から20分で ・血圧が正常化を始める
・頻脈傾向が改善する
・手足の皮膚温が上昇して正常化を始める
8時間で ・血液中の酸素濃度が増加を始める
24時間で ・心筋梗塞、狭心症の罹患率が減少を始める
72時間で ・完全にニコチンが消える
・気管支が広がって、呼吸がラクだと感じる
・肺機能が回復を始める 
2週間〜3カ月で ・体循環が改善する
・歩行など、運動機能が改善する
・肺機能が30%アップする
1〜9カ月で ・せき、たん、副鼻腔炎、易疲労感、息切れが改善する
・肺や気管支の繊毛上皮が再生し、呼吸器感染が減少する
・体のエネルギーレベルが上昇する
5年で ・肺ガンでの死亡率が喫煙者の半分になる
  (1日20本喫煙の場合)
10年で ・肺ガンでの死亡が喫煙者の10分の1になる
  (1日20本喫煙の場合)
(アメリカ肺ガン協会ガイドブックより)
タバコ切れの症状を乗り切る9つのポイント
1.冷たい水、熱いお茶を
    少しずつ飲む
中途半端な熱さや冷たさでは効果はありません。目が覚めるほどの熱いお茶か冷たい氷水を用意して、朝起きたら一口、食後に一口、仕事でもタバコが吸いたくなった時にも…と飲むようにします。禁煙を始めてから3日間は、少しずつ口を潤すように飲み続けて下さい。
2..深呼吸をする イライラする時、仕事が一段落した時、タバコの代わりに深呼吸が役立ちます。体操の深呼吸の要領で、1日に何度も深呼吸して下さい。
3..体を絶えず動かす じっと歯を食いしばって我慢を続けるのが一番下手な禁煙法です。体のどこかを絶えず動かして下さい。ジグソーパズル、将棋、囲碁など考え込むゲームは、手足がじっとしていることが多くタバコを誘うので、禁煙中は控えた方が良いでしょう。
4.場所を変える 吸いたくなったら、とりあえず場所を移動してみる。食事の後もじっと座っている方がタバコが欲しくなります。食べ終わったら席を立って下さい。
5.歯を磨く 刺激のある歯磨きで口の中をさっぱりさせる。小さめの歯ブラシに香り付け程度にごく少量の歯磨き粉を付け、力を入れずにブラッシングするのがコツです。
6.野菜を食べる タバコをやめると胃腸が本来の働きを取り戻すため空腹を強く感じるのが普通です。空腹感には煮野菜をたくさん食べて下さい。野菜にはイライラを抑える効果もあり、便通も整えます。
7.お酒の席にご用心 禁煙を破ってまた吸い始める一番多いケースがお酒の席です。アルコールは禁煙しようという気持ちを弱くします。禁煙を始めて最初の2週間は、家の外では飲まないようにしましょう。
8.煙の多い場所に行かない 他人のタバコの煙で、タバコ欲しさが増加します。喫煙者の隣に座らない、喫煙コーナーにも近付かない。パチンコ店など煙の多い場所も避けましょう。
9.気楽な気持ちで禁煙して
    いる時間を延ばしていく
吸えないとなると、ますます吸いたくなるのが人情ですが、「もう1分だけタバコを吸うのを待ってみよう」と自分に言い聞かせてみて下さい。1分たてば不思議と吸いたい気持ちは薄らぐものです。先のことは考えず、どこまで記録を伸ばせるか、楽しむ気持ちで禁煙している時間を積み重ねて下さい。

監修者プロフィール
高橋 裕子(たかはし・ゆうこ)

奈良女子大学教授、京都大学医学部予防医療クリニック担当医、医学博士。
1954年奈良県生まれ。78年京都大学医学部卒業。京都大学大学院博士課程修了後、同大学付属病院、天理よろず相談所病院、大和高田市立病院を経て02年から現職に。97年から全国の喫煙者を対象にインターネットで「禁煙マラソン」を主宰し、高い禁煙率を実現している。01年にソロプチミスト日本財団環境貢献賞を受賞。著書に『禁煙指導の本』(保健同人社)、『禁煙支援ハンドブック』(じほう社)、『タバコをやめられないあなたへ』(東京新聞出版局)など。

 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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