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コムジン診療所 痔 〜快適生活はお尻から〜
いつものアノ習慣が痔の原因に?

痔とは肛門周辺に発生する20種類以上の病気の総称です。その中で“3大疾患”といわれるのが「痔核(じかく)」「裂肛(れっこう)」「痔ろう」。これらの病気だけで全体の8割を占めるため、普通、痔といえばこの3つを指します。それぞれの特徴は以下の通りです。

痔核―― 

肛門に負担がかかることで肛門を閉じる役割を持つクッション部分がうっ血し、イボのように腫れたもので、俗に「イボ痔」とも呼ばれます。この痔核は程度の差こそあれ誰にでもあるものですが、大きく腫れて出血したり、肛門の外に飛び出したり(脱肛)するようになると、病気としての痔核になります。痔になる人の半数以上がこの病気です。

裂肛―― 

「切れ痔」とも呼ばれるように、肛門が切れたり裂けたりして起こります。こうした傷ができる最大の原因は、硬い便で肛門上皮がこすられること。排便時とその後に続く激しい痛みが特徴で、症状が悪化するとトイレに行くのが怖くなるとさえいわれています。特に女性に多く見られる病気です。

痔ろう―

便の中の細菌が直腸と肛門の境目のくぼみから侵入し感染して起こるもので、お尻に膿のトンネルができるため「あな痔」とも呼ばれます。膿で下着が汚れたり、トンネルがつくられる前段階の「肛門周囲膿瘍」で激しい痛みと高熱を伴うのが特徴。男性に多く見られる病気です。

いずれの場合も主な原因は、便秘や下痢などの便通異常です。便が硬く、排便時に強くいきむ便秘ならともかく、下痢ならば問題ないのでは? と思われるかもしれませんが、それは間違い。水様性の激しい下痢の場合、便が勢いよく出るため想像以上に肛門に負担がかかり、時には粘膜が切れてしまうことがありますし、通常ならば入らない「肛門陰窩(いんか)」という小さなくぼみに便が入り込んで、痔ろうの原因を作ってしまうこともあるのです。

また、排便の習慣を付ける目的でよく“決まった時間にトイレ行くようにすると良い”といわれますが、便意がないのにトイレに入りいきむことは痔を呼び寄せるようなものです。大切なのは“決まった時間にトイレに行く”ことではなく、“決まった時間に便意が起きるような習慣を付ける”こと。無理にいきむよりも、便意が起きたらタイミングを逃さずトイレに行くことを心掛けましょう。
他にも、座りっぱなしや立ちっぱなしなど長時間同じ姿勢を続けたり、体の冷えも痔の原因。さらに女性の場合は、妊娠・出産で痔を発症するケースも多くなります。

生活習慣の見直しが予防の第一歩

ライフスタイルに深く関係している痔。命にかかわる病気ではありませんが、放っておけば徐々に症状は悪化し、いずれは日常生活の中でさまざまな不都合が生じてきます。また、痔の代表的な症状である出血は、大腸ガンや大腸ポリープなど他の病気にも見られる症状なので、安易な自己診断は危険。様子がおかしいと感じたら、できるだけ早い段階で医師の診察を受けるようにしましょう。

予防&改善策としては、まず規則正しい便通を習慣にすること。それには、朝食をしっかり食べ、食物繊維を多めに取り、暴飲暴食を避け、適度な運動をして……とさまざまなアプローチが考えられますが、便意がないのにトイレでいきむことは避けて下さい。
また、お尻を清潔に保つことも大切です。排便後に紙で強くこするのは便をシワにすり込むようなもので清潔とはいえません。理想は排便ごとの入浴ですが、毎回の実践は難しいので、洋式便座にお湯の入った洗面器を置いてお尻を洗う「坐浴」をおすすめします。温水洗浄便座が付いていれば、それを利用しても良いでしょう。外出先ならば市販されている携帯用のお尻洗浄器が便利です。なお、お尻を洗った後は、よく乾かしてから下着を付けて下さい。その際もゴシゴシこすらず、布やガーゼを柔らかく当てて丁寧に押し拭きます。

排便後の「肛門体操」も有効です。体操といっても、立った姿勢でお尻を引き上げるような感じで肛門をキュッとすぼめればいいだけ。その状態を10秒ほどキープしたら、その後10秒は力を抜いてリラックス。これを10回ほど繰り返せば、排便により肛門の外に押し出された粘膜を元の位置に戻すことができ、また、肛門のうっ血解消にも役立ちます。

肛門に無理をさせることで発症する痔は、生活習慣病の一つであり、一生付き合っていかなくてはいけない慢性病です。薬を飲めば治る病気と異なり、毎日毎日、丁寧にケアしていくことが大切になります。普段、軽視しがちなお尻の存在ですが、私達が生きる上で重要な機能を果たしていることはいうまでもありません。日常生活に支障をきたすようなことになる前に、お尻をいたわる生活を始めましょう。

肛門の解剖図

肛門は胎児期にお尻の方へ伸びてきた腸と、お尻の方からくぼんできた皮膚がドッキングして開通し、1本の通り道になったものです。腸と皮膚の接合部分は歯のようにギザギザしているので「歯状線」といいますが、これを境にして、上の部分が「直腸」、下の部分が「肛門」となります。肛門の長さは約1.5〜2cmです。
直腸の粘膜は他の内臓がそうであるように感覚はありませんが、肛門は皮膚なので痛みを感じる神経がたくさんあります。そのため、同じ痔核でも直腸側にできる「内痔核」は痛みがないのに対し、肛門側にできる「外痔核」は痛みを伴うのです。
なお、直腸と肛門を囲む「内括約筋」は自分の意思に関係なく肛門を常に一定の力で締めている筋肉、「外括約筋」は自分の意思で肛門を締めたり緩めたりできる筋肉、「肛門挙筋」は肛門をつり上げている筋肉です。

肛門の解剖図

監修者プロフィール
岩垂 純一(いわだれ・じゅんいち)

社会保険中央総合病院副院長・大腸肛門病センター長、医学博士。
1947年東京都生まれ。73年群馬大学医学部卒業。96年より現職に。専門は大腸肛門疾患。日本大腸肛門病学会理事・評議員を務めるほか、テレビや講演でも活躍している。著書に『痔のお医者さん』(保健同人社)、『肛門の腫れ、痛み、出血 痔』(日本放送出版協会)、『もう痔で悩まない、かくさない 最新・痔の疾患の予防と治療』(木馬書館)など。

 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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