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コムジン診療所 パニック障害 〜それは、突然始まる〜
どんなに苦しくても「異常なし」?

パニック障害は、ある日突然、何の前触れもなく襲ってくる「パニック発作」で発症する病気です。私達はちょっと慌てた時でも“パニック”という言葉を使いがちですが、この発作はそんな生やさしいものではありません。激しい動悸や息切れ、めまい、吐き気など複数の症状が同時に起こり、死への恐怖感も伴う大変つらいものなのです。症状は通常で30分以内、長い場合でも1時間以内に治まりますが、その後、繰り返し発作が起こるようになります。

数回パニック発作が続くと「また発作が起こるのでは…」という不安が高まり、生活にも支障を来たすようになります。こうした発作への強い不安感を「予期不安」と呼びますが、この症状とパニック発作、2つから成り立つのがパニック障害です。
予期不安がさらに強まると、発作が起こりそうな場所や状況に不安を感じる「広場恐怖」や、そうした場を避けようとする「回避行動」の併発を招くようになり、日常生活の中に“できないこと”が増えていきます。結果、家にひきこもりがちになり、うつ状態に陥ってしまうケースも少なくありません。

症状を複雑化させないために大切なのが、早期発見と早期治療。それには早い段階で病院へ行き、該当する「科」で診療を受けることが重要になります。パニック発作を経験すると、大抵の人が動悸や息切れなどの症状から内科や循環器科を受診しますが、パニック障害の原因は身体の異常ではないため、心電図や呼吸機能、血圧などの検査を受けても、結果は「異常なし」。このように受診する「科」が違ったために原因が分からず、不安なままパニック発作を繰り返して症状を悪化させてしまうケースはとても多いのです。もし、あなたが下の「パニック発作の症状」にあるような症状に襲われ、内科などで「異常なし」という診断を受けたなら、一度、精神神経科や心療内科を受診してみて下さい。

パニック発作の症状 ・パニック障害の経過パターン
 

パニック発作とは、以下の13症状のうち4症状が同時に表れ、10分以内にピークに達するものをいいます。

1.動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
2.発汗
3.体の震え
4.息切れ感または息苦しさ
5.窒息しそうな感覚
6.胸痛または胸部不快感
7.吐き気または腹部の不快感
8.めまい、ふらつく感じ、気が遠くなる感じ
9.現実感がない、離人症状(自分が自分でない感じ)
10.気が変になるのではないかという恐怖
11.死ぬことに対する恐怖
12.皮膚感覚の麻痺、うずく感じ
13.体全体の皮膚が冷たい、または熱いという感じ

 

パニック障害には「急性期」と「慢性期」があります。急性期ではパニック発作が頻繁に起こり、慢性期では発作の回数が減る代わりに、広場恐怖やうつ状態などの症状が強くなってきます。

パニック障害の経過パターン
 
原因は脳の中にあった

パニック障害は身体の異常で起こるものではない――。それでは、原因は何なのでしょうか? これまで長い間、パニック障害は原因不明の心因性の病気とされてきましたが、最近の研究で、その原因は脳内の神経伝達物質のバランスの乱れであることが分かってきました。1980年に病名が「不安神経症」から「パニック障害」に変わったのも、そうした理由によるものです。

現在考えられているパニック障害の発症メカニズムを簡単にまとめてみましょう。
普段、私達が何らかの危機に直面すると、脳内の「青斑核」から精神伝達物質であるノルアドレナリンが分泌されます。その刺激が「大脳辺縁系」に伝わって初めて、私達は不安や恐怖を感じることになるのです。
では、この青斑核が誤作動を起こし“警報”を鳴らし続けたとしたらどうでしょうか? 大量に分泌されたノルアドレナリンは、自律神経の中枢を刺激し、動悸やめまいなどの自律神経症状を起こします。これがパニック発作発生の仮説です。さらに、興奮した大脳辺縁系は予期不安を引き起こし、続いて興奮が前頭葉に伝わると広場恐怖が起こってくると考えられています。

精神伝達物質のバランスが乱れる“きっかけ”の一つとして挙げられるのは、ストレス。また、アメリカの調査で肉親がパニック障害の人は一般に比べ発症率が8倍高いという報告があることから、遺伝的な要因もパニック障害を招きやすいといわれています。“きっかけ”が必ずパニック障害を引き起こすわけではありませんが、予防策として、ストレスをため込まず、こまめに発散するよう心掛けることは有効でしょう。

パニック障害を発症した場合も、薬物療法を中心とした治療で80〜90%は治ります。残りの10〜20%に関しても完治はしなくても症状はずいぶん楽になるので安心して下さい。完治までの期間は人それぞれですが、早い人で3カ月程度、たいていの場合が1年ほどで良くなります。

パニック障害の発症メカニズム
パニック障害の発症メカニズム

監修者プロフィール
渡辺 登(わたなべ・のぼる)

日本大学医学部精神神経科助教授、日大練馬光が丘病院精神神経科科長、医学博士。
1950年静岡県生まれ。76年日本大学医学部卒業。80年同大学院(精神医学)修了。84年国立精神衛生研究所研究員、厚生省保健医療局精神保健課併任。86年国立精神・神経センター精神保健研究所研究室長。89年日本大学医学部精神神経科講師を経て2001年より現職に。91年冲永賞受賞。主な著書に『パニック障害』(講談社)、『こころの病気がわかる事典』(日本実業出版社)など。

 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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