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コムジン診療所 熱中症 〜水分補給が予防の鍵〜
体温調節の基礎知識

人の体温は、脳に組み込まれたサーモスタットの働きによって、ほぼ37℃になるように調節されています。代謝によって体の中で発生する熱(産熱)と体から逃げていく熱(放散熱)のバランスをとっているわけです。
体から出て行く熱は、1)皮膚表面から放射したり、空気中に伝わる「非蒸発性放熱」、2)水分が皮膚の表面から蒸発することによる「蒸発性放熱」の大きく2つに分けられます。非蒸発性放熱は皮膚血流を増すことで促進され、蒸発性放熱は汗をかくことで促進されます。1)は高温側から低温側に向かって起こるので、体温よりも外部の温度が低ければ、熱は皮膚表面から外部に放散されやすく反対に外部の温度が皮膚より高いときは、熱が体に流れ込んで体温が上昇します。一方2)は、汗が皮膚表面から蒸発するときに気化熱を奪って体温を低下させること。運動をして体内に大量の熱が発生したとしても、湿度が低ければ汗をかくことで皮膚から熱が奪われ、体温のコントロールが可能です。しかし、体温よりも気温が高い環境下や直射日光下などでは体内に熱が流れ込み、さらに湿度が高いと汗もほとんど蒸発しないため「蒸発性放熱」もままならず、「産熱量」と「外部から流入する熱」に見合った「熱放散」ができなくなってしまいます。結果、体温の調節機能がコントロールを失って体温が上昇、各種の機能障害を引き起こすのです。


熱中症の症状と主な原因

熱失神:暑熱環境下では、体温調節のために皮膚の血管が拡張します。それにより血圧が低下、脳血流が減少して、めまいや失神などが起こります。脈が速く弱くなり、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれなどもみられます。暑い中で長時間立っていた時、立ち上がった時、運動後などにおこります。
熱疲労:大量の汗をかいたのに、水分の補給が追いつかず、体内の水分や塩分が不足して脱水症状になった状態。脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気なの症状がみられます。熱射病の前段階ともいわれています。
熱けいれん:汗をかくと、水分と塩分が失われます。大量に汗をかいて水だけを補給すると血液中の塩分濃度が低下してしまいます。その結果、足、腕、腹部などの筋肉に痛みを伴ったけいれんがおこります。
熱射病:体温上昇のため中枢機能に異常をきたした状態で、意識障害(応答が鈍い、言動がおかしい、意識がない)がおこります。全身の臓器障害を合併することが多く、死に至ることもあります。

  性別・年齢別熱中症死亡数

熱中症を防ぐために

熱中症は環境状況などを考慮して、予防措置を講じれば防ぐことができます。熱中症予防の基本は暑さに長時間さらされたり、暑い中で無理に運動しないことです。特に梅雨明けで急に暑くなった時は体が暑さに慣れていないので、熱中症を起こしやすく、注意が必要です。


熱の放散は着衣の状態によっても大きく変化するので、暑い時には熱を発散しやすい軽装にし、素材も吸湿性や通気性の良いものにしましょう。炎天下では帽子や手拭いなどで直射日光を避ける、サングラスで目を保護するといったことも大切です。


のどが渇いたら、それは水分不足のサイン。特に暑い時はこまめに水分補給をすることが大切です。また、大量に汗をかいた後、皮膚をなめると塩辛い味がすることからもわかるように、発汗により体内からは水分だけでなく塩分も失われています。こうした水分不足、塩分不足も熱中症を引き起こす要因。失った水分と塩分を飲水によって補う必要があります。汗の量が少なければ、摂取する水は水道水でも構いませんが、汗の量が多ければ、塩分も補給する必要があります。0.1〜0.2%の食塩水が適切です。スポーツなどではさらに3〜5%の糖を加えるとより効果的です。こうした成分バランスを調節し、飲みやすいようにつくられているのが市販のスポーツドリンクです。


体調が悪いと体温調節能力も低下します。熱中症の事故には体調が関係している場合が多いので、疲労、発熱、風邪など体調不良のときは要注意。さらに胃腸障害で食欲が低下していたり、下痢などがあると脱水傾向となって熱中症になりやすいので特に気をつけましょう。


あわてずに、されど急いで応急処置を

炎天下や暑い場所に長くいる時、暑いなかで運動をするときなどは、自分で熱中症の兆候に注意することはもちろん、周囲の人同士でも気を付け合いたいものです。万が一熱中症になってしまったら、あわてずに迅速な対処を。以下に病型別に応急処置をまとめました。

熱失神、熱疲労:涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給すれば回復します。足を高くし、手足を末梢から中心部に向けてマッサージするのも有効。吐き気や嘔吐などで水分補給ができない場合は病院に運び、点滴を受ける必要があります。
熱けいれん:生理食塩水(0.9%)を補給すれば通常は回復します。
熱射病:死の危険もある緊急事態。体を冷やしながら集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要があります。いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので、現場での処置が重要です。
体温を下げるには、水をかけたり濡れタオルをあてて扇ぐ方法、首、わきの下、足の付け根など太い血管のある部分に氷やアイスパックをあてる方法が効果的です。注意すべきは、意識状態と体温。少しでも意識障害がある場合には、重症と考えて処置する必要があります。

 
  出典:財団法人日本体育協会発行「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
 

監修者プロフィール
川原 貴(かわはら・たかし)

国立スポーツ科学センター 医学研究部 主任研究員
1976年東京大学医学部卒。東京大学医学部助手、東京大学大学院総合文化研究科助教授を経て2001年より現職。
著書に『最新スポーツ医学』(文光堂、分担)、『スポーツ生理学』(朝倉書店分担)、『スポーツのための心電図メディカルチェック』
(文光堂、共著)など。



どこでもできる簡単ストレッチ
第2回 「肩・腕」

オフィスや家庭で気軽に行えるストレッチを紹介します。
第2回は「肩・腕」。両足を肩幅に開いて立ち、背筋を真っすぐ伸ばして行って下さい。
背中とも密接に関係している肩、腕をこまめにストレッチして若々しいスタイルをキープ!

方を伸ばす 上腕裏側をスッキリ 肘から先を伸ばす

▲  右腕を肩の高さに上げ、右肘を左腕で抱えて体の方へ引く。肘が曲がらないようにするのがポイント。手を替えて反対側も同じように行う。

 

▲ 右腕をリラックスさせて、頭の後ろで曲げる。左手で右肘をつかんで引く。腰が反らないように注意。手を替えて反対側も同じように。

 

▲ 手のひらを外側に向けて組み、息を吐きながら両手を前方へ押し出す。手のひらを遠くへ押し出すようにすると、肩の後ろがよく伸びる。

 

ストレッチ監修/萱沼文子

 
 
イラスト/小湊好治 Top of the page

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