一覧に戻る
かしこい生き方を考える COMZINE BACK NUMBER
IT大捜査線 特命捜査第005号:安全とおいしさを実現する回転寿司のIT戦略
  四大添加物を除去した無添加米寿司
 

外食産業の市場規模が約26兆円、うち寿司店が約1兆3000億円。この中で回転寿司は5000億円と言われ、寿司店全体のほぼ3割を占めるまでに拡大した。
リーズナブルな価格と入りやすさで、ファミリーレストランの顧客をも取り込んで成長してきた回転寿司だが、業界内では競争が激化。激安路線、あるいは高級指向、店舗の大型化、価格帯別ブランド展開と、各店とも生き残りをかけてしのぎを削っている。
そんな中で、“安全な食の提供”“無添加米寿司”というコンセプトを掲げている回転寿司チェーンがある。それが、今回訪れた「くら寿司」だ。

中百舌鳥店

大阪府堺市にある「中百舌鳥店」。くら寿司は関西で67店、関東で11店を展開(2003年8月28日現在)。

無添

くら寿司の企業理念は、日本の伝統的な食生活を大切にする「食の戦前回帰」。

くら寿司の無添加への取り組みは、寿司飯を作るための合わせ酢の開発から始まった。
「岡山出身の田中(代表取締役・田中邦彦氏)が、子供の頃に食べていた“祭り寿司”の味が忘れられず、祖母が残した合わせ酢のレシピを元に再現。無添加でもおいしい寿司酢ができることは分かりましたが、大量生産で安定した味を出すには相当の苦労があったようです。以来、くら寿司はずっと無添加にこだわっています」と話す森光子広報宣伝部シニアマネージャー。

寿司ネタは添加物とは無縁のように思われがちだが、加工の手間を省くため、あるいは流通過程での鮮度維持、うま味強調を目的に、人工保存料や化学調味料などが当たり前のように使われていると言う。
「何百種類とある食材の添加物を、全部検査することはできません。ただ最低限、化学調味料、人工甘味料、合成着色料、人工保存料の四大添加物だけは一切使わないでおこうと取り組んできました」

使用する食材から四大添加物を除去するまでに十数年、1995(平成7)年にやっと実現できたという。現在では、醤油やガリ、マヨネーズやツナ缶などもメーカーに無添加仕様で発注、また人工いくらや人工数の子といったコピー商品も一切使用せずという姿勢を貫いている。

森さん

今回お話を伺った、株式会社くらコーポレーション取締役、
広報宣伝部シニアマネージャーの森 光子さん。

 
 
   

 
  全皿100円実現のための省力化、ハイテク化
 

回転寿司業界の中では後発のくら寿司が関西のトップチェーンへと踊り出た舞台裏には、業界の常識を覆す斬新なアイデアやサービスの開発があった。

直線型レーン

ボックスシートは、1987(昭和62)年開店の第2号店「高石店」からスタート。それ以降、全店で採用されている。

クイックターン

直線型レーンの途中に取り付けられたクイックターン。ハネに当たったお皿は、左右のレーンをつなぐベルトに乗って折り返し、逆向きに流れる。

握りロボット 巻きロボット
厨房に設置された寿司ロボット。上から入れたシャリが、いくつかのローラーを通る中で成形される。1時間に2000個の大量生産が可能。 細巻き用の巻物ロボット。板状になったシャリが海苔の上に出てくる。ここに具材を置き、もう一度ボタンを押すと、くるっと巻ける。

最初の飛躍のきっかけとなったのが「直線型レーン」の導入だ。
それまでの回転寿司は、職人が寿司を握るスペースを中心に円形のレーンに敷かれていたため、家族で来ても横一列に並ばざるを得なかった。「ファミリーやグループで来た時、向かい合って食べられたら楽しいだろう」と考えた田中社長は、レーンを直線型に変え、6人がけのテーブル席を設けた。今でこそどこにでもあるボックスシートだが、これを最初に考え出したのはくら寿司だ。

さらに、この直線型レーンには、所々に「クイックターン」と呼ばれるハネが付いている。例えば、来店者が少ない時、最終コーナーまでお皿を回すのは、時間と食材の無駄。レーンの途中で皿をせき止め、流れる方向を変えれば、客のいるところだけで回転させることができる。

伝統的な食材や製法にこだわりながら、創業来の全皿100円を貫いているくら寿司では、割高にならざるを得ない仕入れのコストを吸収するために、設備や管理面での省力化、ハイテク化を積極的に進めてきた。
「関東ではまだ職人さんが握っている所もありますが、くら寿司ではかなり早い段階から機械化しました。寿司ロボットの導入を決めた時、従業員(アルバイト)はすごく反対したんです。機械で握ることに抵抗があったんでしょうね。でも、やってみるとすごくラク(笑)。くら寿司の場合、1日1万皿(2万貫)を作るお店はたくさんあるので、職人さん3人でも1人6000貫――、これでは腱鞘炎になってしまいますからね」

 
 
   

 
  鮮度を管理する「時間制限管理システム」
 

次々に流れてくるお皿を好きに選べる回転寿司だが、気になるのはその鮮度。回っているうちに明らかに乾いてしまったネタを見ると、出した手も思わず引っ込む。

皿のQRコード、QRコードアップ

お皿の台座部分に貼られたQR(クイック・レスポンス)コード。どこからでも読み取れるように、1周ぐるりと付いている。

センサー

フロアーから厨房へ戻ってきたお皿のQRコードを読むセンサー。一連の「時間制限管理システム」で特許を取得。

POP

商品名を表示したPOPの皿の後に、実際のお寿司が乗った皿が流れる。このPOPの後ろに皿がないと、その種類のお寿司を作らなければならないことが分かる。1種類につき何皿作るかも決められている。

「1日に1万皿作るお寿司の管理、これは難題でした。1時間ごとにお寿司の置き方を変えたり、お皿の色を変えたり、いろんなことを試しましたが、どれも『人海戦術では無理』という証明にしかなりませんでした。それじゃ、コンピュータでとバーコードを貼ってみたものの、少しのキズや水濡れで読み取れない、エラーが多い。で、最終的に採用したのが2次元コード『QRコード』による『時間制限管理システム』です」

1997(平成9)年に導入したこのシステムは、レーンを回るすべてのお皿にQRコードを貼り、これを厨房にあるセンサーが読み取るというもの。レーンの長さにより所要時間が決まっているので、何周したかで時間が分かる。例えば1周13分のレーンなら、2周で26分、3周で39分。30分以内と設定すれば、2周したところで廃棄されるという仕組みだ。これによって、見た目では分からない鮮度が管理できるようになった。

食べる側としてうれしいシステムだが、こんな厳密な管理をしてコストは大丈夫なのか?
「システム導入前100皿だった廃棄が、導入後は800皿に増えました。もちろん、このままでは経営的に苦しい。そこで考え出したのが『製造管理システム』です。お客様が入店されると、レジ係が大人何人、子供何人とデータを入力します。これを元に、今いらしたお客様がこれから15分以内で食べるであろう皿数と現在流れている皿数の差を分析し、すぐ作る必要があれば青色信号、足りていたら赤色信号を厨房に表示します。無駄なお寿司を作らない=廃棄が減る、ということですね。これも特許を取りました」

統計データ上、成人男性は入店後15分で6皿、その後10分で2〜3皿を食べる。どのネタの寿司を作るかだが、これも商品のランキングデータがあり、決まっているという。ちなみに、関西ではハマチ、関東ではマグロが1位だそうだ。

厨房に取り付けられたモニター画面

厨房に取り付けられたモニター画面。滞留時間や廃棄数などのデータが表示される。

   
   
 

  食材のロスを減らす受注型システム「タッチで注文」
 

直線型レーンの場合、フロアーと厨房が別々なので、食べたいものを注文できない。お客様の注文を聞けるようにと、各席にインターホンを設置するが……、

タッチパネル

「タッチで注文」の画面。定番メニューのほか、赤出汁や茶わん蒸し、デザートなどのサイドメニュー、本日のオススメなどの画面が用意されている。

皿カウンター

空になったお皿を「皿カウンター」に投入すると、「タッチで注文」画面に皿数の合計が表示される。全皿100円なので計算も簡単。

ビッくらポン

楽しさを演出する「ビッくらポン」。皿カウンターに入れたお皿、5枚につき1回「タッチで注文」画面内でルーレットが回る。当たると、寿司キャラクターのキーホルダーほか、リュックやバスタオルなどが当たる当たり券がガチャ玉に入って出てくる。

eparkシステム

携帯電話を使って待ち人数や待ち時間を調べたり、順番申し込みができる電子受付システム「epark」を導入。申し込み後も随時、自分の順番を確認できるので、店頭で待つ必要がない。

「注文が非常に多くなり、対応が難しくなりました。マグロのサビ抜き2皿、ハマチはサビありで1皿、あとウニにイクラ…、こうなると聞いている方は覚えられない。注文した品と違う、いつまで経っても出てこないといったクレームになります。そこで導入したのが、液晶パネルによる注文システム『タッチで注文』です。お客様が好きなネタと個数、ワサビの有無を選んで注文ボタンを押すと、注文内容が厨房にデジタル表示されます。厨房で注文の品を作り表示を消すと、客席のパネルに、例えば『ご注文の品マグロ2皿が、まもなく到着いたします』と表示されるようになっています」と森さん。

そもそもタッチパネルによる注文方式は、株式会社セガがウエイティングルーム用にと提案した「遊べるインテリア『フィッシュライフ』」から始まった。単なるエンターテインメントでは面白くないと、これに注文システムを合体した「タッチでポン」を共同開発し、2001(平成13)年に泉北店に導入。このシステムは現在3店舗で稼働しているが、他の店舗ではより簡略化した「タッチで注文」方式を採用している。

「タッチパネルによる注文方式は、これからの時代の先取りだと思います。回転寿司の良さは残しながらも、食べたいものを気軽にご注文いただく。タッチパネルなら、大きな声を出さなくていいので、恥ずかしくないですよね(笑)。あと、くら寿司は“人肌の温かいシャリ”をお出ししているので、作りたてがやっぱりおいしいんです」

「安いからではなく、“安全だからくら寿司”というブランド・アイデンティティを1日も早く確立したい。安全は結局、おいしいにつながるんです」と話す森さん。全皿100円という厳しい条件の元、さまざまなIT戦略を駆使して、くら寿司の挑戦は続く。

 
 
取材協力:くら寿司(株式会社くらコーポレーション)
http://www.kura-corpo.co.jp/
 
   

 
  追加調査
 

●すし今昔物語
元々すしは東南アジアから渡ってきたもので、保存食として食べられていた。生魚を塩で味付けし、ご飯の中に漬け込んで発酵させた“魚の漬物”である。これをナレズシと言い、今でも琵琶湖周辺で作られる「鮒ずし」にその原点を見ることができる。

 

現在のように酢を直接使い、ご飯も一緒に食べるようになったのは江戸時代。握り寿司も江戸に生まれたが、刺身をそのまま握るのではなく、ネタは塩や酢で締める、茹でるなどの下ごしらえがなされていた。また、当時の寿司は、風呂帰りに屋台で気軽につまめる庶民の食べ物だったと言う。
その後、値段も敷居も高くなってしまった寿司を、もう一度庶民の手に戻したのが回転寿司だ。回転寿司の歴史は、「廻る元禄寿司」の創業者である故・白石義明氏がビール工場のベルトコンベアにヒントを得て、1957年に「コンベヤー旋回食事台」を開発、翌年、大阪・布施に第1号店をオープンさせたことに始まる。70年に開催された大阪万博に出展して話題になり、回転寿司ブームが起きた。
さて、今や海外にまで進出している回転寿司の舞台裏を支えているのは、北日本カコーや日本クレッセントといったコンベア・厨房機器メーカー、そして握りや巻物、軍艦巻きを1時間に何千個という単位で作る寿司ロボットの鈴茂器工、不二精機、ともえといったメーカーだ。ニッポンの伝統食・寿司の陰にハイテクあり。

image photo
 
特命調査第005号 調査報告:安田捜査員 特命調査第005号 調査報告:安田調査員
写真/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]