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IT大捜査線 特命捜査第008号:無人運転でかるがも走行次世代交通システムIMTS 特命捜査第008号:無人運転でかるがも走行次世代交通システムIMTS
   
  交通問題の解決策を提案するIMTS
 

私達はクルマというパーソナルで自由な移動手段を手に入れたが、その一方で、交通渋滞や事故、大気汚染といった問題に悩まされている。さらに、路上でクルマと競合する路面電車やバスなどの公共交通の衰退、クルマを利用できない高齢者や障害者への対応、駐車場を確保しにくい旧市街地の疲弊といった社会的な問題も起きている。

そんな問題を解決しようと始まったのが高度道路交通システム(ITS ※)で、現在、ナビゲーションの高度化(VICS)、自動料金収受システム(ETC)、安全運転支援(AHS)など、9つの分野で研究開発が進められている。今回は、その中で地域交通に焦点を当て、トヨタ自動車株式会社が提案する次世代交通システム「IMTS」を取材した。

そもそも、IMTSとはどのようなシステムなのだろうか?
「IMTSは『インテリジェント・マルチモード・トランジット・システム』と言い、バスをベースとした車両が、専用道では無人で自動運転・隊列走行を行い、一般道では普通の路線バスと同じようにマニュアル運転を行う交通システムです。鉄道の持つ輸送力・高速性・定時性と、バスの持つ経済性・柔軟性を兼ね備えています」と、ITS企画部の竹田雅弘さん。

簡単に言ってしまえば、バスと鉄道のいいとこ取り。専用道を走るので渋滞に巻き込まれることなく、時間通りに運行されるし、自動とマニュアルの2つの運転モードが使えるため、利用者の多い幹線区間は何台か隊列を組んで無人自動運転し、利用者の少ない支線では運転手が乗り込んで、周辺の街へ向かうといったことが可能になる。また、無人運転ということは、それだけ人件費が抑えられるということでもある。

※ITS(Intelligent Transit System):最先端の情報通信技術を用い、人と道路と車両をネットワーク化することによって、道路交通問題の解決を目指す新しい交通システム。1996(平成8)年、当時の警察庁、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省の5省庁が「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」を策定し、官民挙げての取り組みがスタートした。

システムイメージ

幹線(専用道)は無人運転・隊列走行し、支線(一般道)では単独マニュアル運転で走り、地域を面的にカバーする。

東京本社&竹田さん

今回訪ねたトヨタ自動車株式会社 東京本社(写真上)。
お話を伺ったトヨタ自動車株式会社 ITS企画部 IMTS開発室 企画・営業グループ グループ長の竹田雅弘さん(写真下)。

 
 
   

  無人運転・隊列走行を実現するメカニズム
 

トヨタのIMTSは、1998年に実験線の建設に着手、翌99年に東富士研究所に専用テストコースと実験車両が完成し、開発が本格化した。01年4月には淡路島の「淡路ファームパーク イングランドの丘」に導入され、同年10月から2台隊列による無人自動運転を開始。また、05年開催の愛知万博での採用も決まっている。

さて、気になる無人自動運転・隊列走行だが、どのように行われるのだろうか?
まず道路側のインフラとして、専用道の中央に2m間隔で磁気マーカーを埋めておく。これをクルマの下に取り付けた磁気センサーで検知し、磁気マーカーの真上にクルマの中心を持ってくるよう制御(レーン走行機能)。専用道の分岐部には、直進方向にN極、分岐方向にS極の磁気レールを埋設し、これを検知することで進路方向の選択が可能となる。

隊列走行ができるのは、クルマ同士が通信(車車間通信)を行っているからで、前方車両の位置や速度のデータを得ることで、走行速度に応じて最適の車間距離を保つ。車間距離保持には、他にもレーダーとカメラによる車間距離検知システムが搭載されており、三重のシステムで運行の安全性・安定性を確保している。

この他に、車群同士の衝突を防止したり、駅における停止・発進を制御する「運行管理機能」が採用されている。個々の電子機器によって収集されたデータは車載の車両制御コンピュータに集められ、これを元にアクセルやブレーキ、ハンドルをコントロールすることで、「無人・無連結・隊列走行」を実現するのだ。

車両にはクリーンで低騒音のCNG(圧縮天然ガス)エンジンを採用、車体は高齢者、身障者、年少の人がラクに乗り降りできるノンステップ低床構造となっている。

東富士隊列走行

1.5キロの東富士の実験線を無人運転・隊列走行で走るバス。運転手がいないのにハンドルが左右に動くのが何とも不思議。

動画はこちら
※動画を見るには最新のWindows Media Playerが必要です。お持ちでない方はダウンロードして下さい。

専用道に埋め込まれた直径約9cm磁気マーカー(ネイル)をセンサーで検知して車線を保持。N極とS極があり、これで直進と分岐を検知。

 
車車間通信   車間距離保持

頭部に取り付けられたアンテナで車車間通信を行い、最適な車間距離を保つ。

 

車間距離の制御にはレーダーとカメラも使われている。

     
 
 
   

 
  メリットは経済性とフレキシビリティ
 

既存のバス・鉄道に代わる公共交通システムと言えば、近年では、“ゆりかもめ”などの新交通システム(※コラム参照)が注目されている。「バスと鉄道の中間程度の輸送力を持つ」「専用軌道を走行する」「環境に優しい」など、基本的な訴求ポイントはIMTSとほぼ同じだが、その中でIMTSにはどのようなメリットがあるのか?

「東富士の実験コースや淡路島の『淡路ファームパーク』のような施設内なら平場に専用道が造れますが、都市部となると、やはり高架式にならざるを得ないでしょう。高架のための土木建造物は、建設に1キロ40〜50億かかると言われており、このコストは新交通システムもIMTSも同じです。ただIMTSなら、新交通システムで必要な専用の車両、レール(ガイド)、電車線、変電設備、信号、通信設備、車両基地などの建設費を、低く抑えることができます。車両の整備も一般の自動車整備工場で行えますからね」と竹田さん。
つまり、インフラ以外のコストを低減でき、新交通システムと比べても経済的というわけだ。

さらに「メカニカルな連結をしていないので、淡路のように、来場者の多い週末は2台隊列を2編成で、平日は1台単独で走らせるといったフレキシブルな運行ができます。また、ドイツやオーストラリアにはIMTSと同じコンセプトを持つガイドウエイバスがありますが、トヨタのIMTSには機械的なガイドウエイが必要ありませんし、無人運転や隊列走行も可能です」。

隊列数は原理的には何台でも可能だが、現在、淡路島で2台、愛知万博での3台隊列を評価済み。速度は、現在の評価では最高速度60キロ、淡路と愛知万博では時速30キロで運行される。

淡路バス

「淡路ファームパーク イングランドの丘」では、2つの駅を結ぶ1周約1200mの専用コースをループ運転している。

動画はこちら
淡路管制室

淡路では軌道や駅での乗り降りをカメラで監視。管制室に1人いればいいので、オペレーションコストも節減できる。

万博3台縦列

05年開催の愛知万博において、長久手会場内の移動用として導入されるIMTS。専用道から一般道(会場内管理道路)へ自動分岐・合流するコースを走る。

 
 

  街づくり、交通政策との連携が必要
 

交通問題の解決策として有望なIMTSだが、具体的な導入となると、技術的なシステムだけでは片付かない問題があるようだ。ネックとなるのが採算で、日本では運営費が補助の対象とならないことが多いからだ。

海外、特に欧米では、公共交通の運営は税金で補助されるのが一般的。都市の規模に応じて必要な公共交通機関が想定されており、例えば人口が十数万ならLRT、50万なら新交通システムやモノレールのような軌道系、100万になれば地下鉄などが必要になるという認識があり、これに対しては税金を使ってきちんと整備していこうという考え方もある。同時に、中心地への一般車の乗り入れを規制する「トランジットモール」や、市街地に入るクルマに課税する「ロードプライシング」など、公共交通機関に誘導するような施策が取られることも多い。

日本の場合、AGTやモノレールでは、インフラ部分の建設は税金で整備されるが、車両システムや運営は輸送事業者が運賃で回収するケースがほとんど。おそらく、東京や大阪の私鉄が独立採算で成り立っているという前例があるからだろう。これは、世界的に見れば、極めて珍しい例だ。
竹田さんは「これは個人的な思いですが、公共交通は公共財として造っていく、利用者負担だけではなく、もっと広く地域負担で整備・運営されてもいいのではないでしょうか」と語る。地域交通には、交通問題の解消だけでなく、街の賑わいや地域振興に寄与する、交通弱者を救う、環境を改善するといった効果も期待できる。

この問題は、地方に行けばもっと深刻だ。そこには、地方ほどクルマによる個別交通が中心で、利用者運賃による独立採算が実現しにくいという現実がある。
「日本の都市交通政策の現状では、IMTSは少なくとも人口十数万、できれば50万くらいの都市でないと厳しい。ただ、公共交通の整備や運営に対する補助が増えれば、より人口の少ない都市への導入も可能となってくるでしょう」と竹田さん。

地域交通――、ここにITが寄与できる部分は大いにあるのだが、その半面、都市計画や行政判断と切り離せない問題があることを、改めて実感した。

取材協力:トヨタ自動車株式会社  http://www.toyota.co.jp

速度と輸送力で分類した交通手段
 
   

 
  追加調査
 

●新交通システムって何?
新交通システムとは、既存の鉄道とバスの中間の輸送力を持ち、線路など専用軌道を走行するタイプの公共交通機関のこと。交通渋滞に左右されず、環境にも優しい乗り物として注目を集めている。主なものに次のようなシステムがある。

システム名
特 徴
導入事例
AGT
(Automated Guideway Transit) 
高架などの専用軌道を小型軽量のゴムタイヤ付き車両がガイドウエイに沿って走行する。完全自動運行システムによる無人運転が可能。  東京都「ゆりかもめ」、広島市「アストラムライン」
モノレール 1本の走行路の上にゴムタイヤの車両がまたがる(跨座)、あるいはぶらさがる(懸垂)状態で走行する。AGTに比べ占用空間が少なく、急カーブ・急勾配にも対応可能。  東京都「多摩都市モノレール」、千葉市「タウンライナー」
LRT
(Light Rail Transit) 
専用または分離された軌道に、加速性・快適性を高めた車両が走行する。従来の路面電車の進化型で、建設費が安く、超低床式のため乗降もラク。  熊本市「熊本市電9700形」、広島市「グリーンムーバー」
リニア地下鉄 動力にリニアモーターを採用し、小型化した車両を使用する地下鉄。従来の地下鉄に比べ建設費が安く、急カーブ・急勾配に対応可能。 大阪市「市営地下鉄鶴見緑地線」、東京都「都営地下鉄大江戸線」 
HSST
(High Speed Surface Transport)
常電導磁気浮上式リニアモーターカー。車輪がなく磁気で浮上し、リニアモーターで進む。振動・騒音がなく、整備や保守点検などの費用も割安。愛知万博で、会場へのアクセス手段として導入が予定されている。 愛知県「リニモ(東部丘陵線)」(05年3月運行開業予定)
 
特命捜査第008号 調査報告:高橋捜査員 特命捜査第008号 調査報告:高橋調査員
写真/海野惶世 イラスト/小湊好治 Top of the page

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