チームつかもとはヤマモトレーシングと打ち合わせを重ね、ピットクルーが装着したHMDへのリアルタイム情報表示(マシンのラップタイム、順位、走行位置等)システムと、騒音の中でも情報がしっかり伝わるよう、監督からクルーへのテキストによるインスタントメッセージシステムを構築した。
システム構成を見てみよう(イラスト1参照)。まず、サーキット側から送られてくる文字情報をトランスポンダ(通信用中継器)で受信し、サーバPC内で各種のグラフィカルなコンテンツに変換する。同時にオペレータは、監督から各クルーへのメッセージを入力する(監督は腰にキーボードを付けたが、あまりに忙しく打つ暇がなかった!)。それらの情報が、無線LAN経由で各ピットクルーが腰に装着したウェアラブルPC(小型のノートPC)に送信される。
HMDの画面は切り替え式で、ラップタイム、ライダー交代や給油のタイミングを計るスケジュール、そして他チームを含めた各バイクの位置情報を随時表示。ちなみにこの表示内容は、2004年大会でもほとんど変わっていない。
レース中、自チームのライダーについて現場のピットクルーが最も知りたがっているのは、前後ライダーとのタイムギャップ、ピットに入れるタイミング、そして走行位置だという。チームつかもとが提供した情報は、これらの要求に応えるものだった。
「例えばラップタイムですが、仮に見たいチームのタイムが画面外にあったとしても、身に付けた専用マウスをスクロールさせれば見ることができます。また、スケジュール画面の上部には常に1位チームと自チームを挟んだ前後3チームの情報を表示していますから、タイムギャップもすぐに分かります」(福田)。
監督始めピットクルーに好評だったのはスケジュール表示だ。ラップタイムや給油量、燃費などの基礎データを元に、ライダー交代のタイミングや給油タイミングをグラフィカルに表示するシステム。
「従来は毎回計算してホワイトボードに書き込んでいた情報ですが、これなら一度画面を見るだけで状況を把握できます。給油量だけはチームから教えてもらって手入力する必要がありましたが(笑)」(寺田)。実際、そのタイミングの正確さにはクルーも驚いていたという。
走行位置の表示機能も画期的だ。バイクには情報発信装置を積めないので、サーキットのどこを走行しているかは1週毎のラップタイムから判断するしかない。チームつかもとはHMDの画面上にサーキット図を描き、各バイクがどこを走っているか一目で確認できるようにした。
「1つ前のラップタイムを元に現在位置を算出しているので、厳密に言えば正確ではありません。途中でコースアウトしてもまだ画面上を走っていたりする(笑)。ただ、前後のライダーとのギャップを視覚的に把握できるメリットは大きいはずです」(寺田)。
チームつかもとが提供したシステムはそれぞれが好評だったが、現場では数多くのトラブルに見舞われた。ネットワークがたびたびダウンし、そのたびにPCを再起動しなければならなかった。また、熱のために多くのクライアントPCがダウン。多忙を極めるピット内ではテキストによるメッセージシステムもあまり役に立たなかった。結局、HMDを最後まで使ったのはチーム監督1人だけ。それでも、塚本先生は確かな手応えを感じたという。
「2003年は初参加だったこともあり、何から何まで手探りでした。でも、レースの現場で求められているものが何かということは分かった。03年の8耐は、ウェアラブルコンピュータの歴史にとっても大きな一歩となりました」。 |