何事も徹底すると美しいものである。このファイル、隅から隅まで、紙以外の素材はホチキスの針一本使っていないという徹底ぶり。
どうしてこうなったかというと、そもそも企業や役所等の秘密文書は不要になると廃棄するのだが、今まではバインダーの金具ごと強力なシュレッダーにかけて粉々にしてそのまま焼却してしまうか、一冊毎に書類をファイルから外してリサイクルにまわすかして処理されていた。 出来ることならリサイクルしたいところだが、その労力もさることながら、ファイルから外す作業が伴う事で文書の機密保護が怪しくなるという不都合があった。 ところが、ファイルが全て紙で出来ていれば書類を綴じたまま丸ごとリサイクルにまわせるのである。環境配慮と経済性を両立させる、実に優れたデザインである。

さて、このデザインを手がけた大島礼治氏が最も苦労したのが綴じ具の紐の素材だった。様々な紙を試したが、強度が不十分だったり、滑って止まらなかったりと試行錯誤を繰り返したあげく、たどり着いたのが日本の伝統工芸である「水引き」であった。
そうです。あの祝儀袋についている水引きが、しなやかさといい、強度といい、そして何よりも締まり具合が申し分ない。しっかり止まって滑らない。
こうして、純和製の純粋紙製フラットファイルが誕生したわけである。メーカーのwanbishiは機密文書の管理や処理も行う会社であるから、回収し再生された紙で再びファイルを作ることが出来る。こうして、機密文書は決して人の目にふれることなく、何回でも循環して利用されるのである。
最近の文房具業界では、部品の一部に再生紙や再生プラスチックを使っていたり、部品が外せて分別可能だったりすると、すぐに地球に優しいとかエコだとか言いたがるが、大きな仕組みから小さな部品まで、徹底的に筋を通しているデザインは本当に少ない。 一見ストイックなこだわりが、情緒豊かな伝統工芸で落ちをつけているあたり、なんとも粋じゃあないですか。

益田文和



益田文和(ますだ・ふみかず)
1949年東京生まれ。1973年東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年 INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1994年国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年Tennen Design '95 Kyotoを主催
1991年(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している


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