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かしこい生き方を考える COMZINE BACK NUMBER
地球に優しく美しい エコ・デザイン 益田文和Vol.003:自転車部品のリサイクルグッズ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。
1973年東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している


子供の頃に乗った自転車にはたくさんの思い出がある。特に男の子なら初めて買ってもらった自転車の色や形、ハンドルとかペダルとか部品の一つひとつまで覚えているものだ。そんな思い出の詰まった自転車は、たとえ部品でもなかなか捨てるに忍びない。切れたチェーンやギアなど何に使うというわけではないのに、机の引き出しの奥にしまったままになっているかもしれない。

アメリカ、オレゴン州ポートランド市のリソースリバイバルでは、壊れて使えなくなった自転車の部品を組み合わせて、面白い製品を作り出す。

チェーンを巻いて何カ所かちょっと溶接しただけで、写真立てができ上がる。子供の頃の幸せな記憶を呼び覚ます自転車の部品は、昔の写真を飾るにはもってこいの道具だ。

タイヤのリムの独特な形は、名刺やポストカードを立てておくカードスタンドに活かされる。こういうデザインはよほど自転車部品を知っていて、しかもそれを見ながらいろいろと想像力を働かせていない限り生まれないものだ。

グニャグニャのチェーンをハンドルにした栓抜きなど、遊び心いっぱいでしかも実に機能的。ギアを見ていて、その一部を切り取って栓抜きを作ろうなどと誰が考えるだろう。これが使いたくてビン入りのコーラを探してしまうくらい魅力的な道具だ。

自転車というのは国や年齢が違っても、多くの人に共通の懐かしさを抱かせる不思議な機械だ。こういう記憶を手がかりに、使い終わったものに新しい価値を与えることを我々は「記憶のデザイン」と呼んでいる。ただ鉄を溶かしてまた鉄の材料にするのとは違う、知恵を使ったリサイクルなのである。

しかし、自転車が安くなったせいか、放置自転車が増えている。そのまま雨ざらしにしておけば、鉄の部品はどんどん錆びて思い出とともに朽ちてゆく。

ポートランドでは毎年10トン以上の自転車部品をリサイクルしているという。彼らは本気なのである。さて、我々には何ができるのだろう?


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