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地球に優しく美しい エコ・デザイン 益田文和Vol.010:にぎりバシの記憶クリップ式楽々お箸

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。
1973年東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

小さな手に力をこめてお箸を握り、一生懸命ごはんをかっ込んだことなど覚えているはずがないのに、このクリップ式の箸を握るとなんとも言えず懐かしい感じがする。成長と共に箸の使い方をうるさく注意されて、いつのまにか一人前に扱えるようになった、その動作の意識の底に子供のころの「にぎりバシの記憶」が眠っているのかもしれない。

加齢に伴う障害で箸をうまく扱えないもどかしさにくたびれ果てて、とうとう箸を持つことをあきらめると、食事をする意欲までも衰えてしまうことがある。そんな人がこの箸を握って、食べること、生きることに前向きな気持ちを取り戻したという家族の手紙が、この商品のメーカーに送られてくるという。

一組の木の箸と小さなプラスチックのクリップという簡単な構造だが、そのデザインには様々な配慮と工夫が生きている。手のひらで握るだけで箸先の微妙な感覚が伝わるように細部の形状や寸法に対する検討を繰り返し、適切なスプリングの強さと弾性を得るためにエンジニアリング・プラスチックの一種であるPOM(アセタール樹脂)を採用している。このプラスチックは耐久性が高く、人体にも環境にも無害で、しかもリサイクルしやすいという優れた性質を持っている。箸には軽くて成長の早い飯桐(いいぎり)を用い、耐水性を高めると同時に滑り止めの効果を持たせるため、拭き漆を施している。

人が抱える特定の問題解決を目指しながら、環境にも配慮したデザインであるが、結果的には箸を持ちなれない人や、利き手以外で箸を持たねばならない場合にも役立つ新しい道具を生み出すことになったのである。

日本人であれば誰でも箸が使えてあたりまえ、というような先入観に立った商品開発は、これまで表面に現れない部分で多くの人々に不便を強いてきたし、その人たちの存在を無視することで差別の構造すら生んできた。そうした、市場における多数派と少数派のニーズのギャップを埋めるデザインはユニバーサルデザインと呼ばれ、その成果が今、注目されている。

株式会社青芳製作所 http://www.aoyoshi.co.jp/

楽々お箸(クリップタイプ)/ 色:モカ、グリーン 各1,000円

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