ITワイド講座




イラスト:小湊好治


顧客データベースを構築!?

「今度、○○っていうレストランに行かない?料理も美味しいんだけど、サービスがすごいの! 一度行っただけで、何を食べたか、どのワインを飲んだかはもちろん、話したことまでちゃんと覚えていてくれるの!!」
友人からこんなメールをもらって考えてしまった。この○○のオーナーとは知り合いなのだが、実はこの店では詳細な“顧客データベース”を作っているのだ。スタッフそれぞれが、お客の帰る度に裏でキーボードを叩きオーダーから会話の内容まで様々な情報を入力している。
データベースといっても大層なものではなく、Excelにいくつかの項目を作った「表」のようなものだ。
予約の客は事前にデータを調べ、飛び込みの客からはそれとなく名前を聞き出し、パソコンへ走るという徹底ぶり。

入力だって面倒だろうし、使いやすいデータベースにするにはそれなりに頭も絞ったことだろう。立派な営業努力だが、世の中にはすばらしい記憶力のギャルソンもいたりするわけで、実状を知ってしまうと「なーんだ、パソコンかぁ」なんて思われてもしょうがない。

というのも、パソコン導入前、まだ面識のないオーナーといろいろ話もしたし、印象に残るような振る舞いもした筈なのになーんにも覚えてくれてなかったんだもの。
オーナーにしてみれば自分の記憶力のなさを補うためのパソコンかもしれないが「サービスが・・・」という友人の言葉には首を傾げてしまうのだ。

さて文句はさておき、このレストランではHPも自作している。最初はただズラっとメニューを並べただけの味気ないHPだったが、最近はかなり腕を上げ、アニメーションGifなんかも多用している。オーナーが「パソコンはいいよ、インターネットはいいよ」と触れ回っている効果が出たのか、周りのお店でも、HPを開設するところが増えてきた。

そのなかにはデザイナーを使って、ものすごくきれいなページを作っているところもある。でも、不景気の今、そこまでお金をかけられるお店は少ない。素人でもそれなりにHPが作れてしまうソフトがあるからか、自力でHPを開設している所が多いようだ。

老舗の和菓子屋さんもそのひとつ。実直で無口な職人タイプのココのおじさんは、お店では「いらっしゃい」を言うのも恥ずかしいといった風に奥に隠れてしまい、奥さんが苦笑いして挨拶してくれる、というのが常だった。でもHPではとても雄弁だ。和菓子作りにかけるおじさんの思いの丈が存分に語られていて、熱意がばんばん伝わってくる。これだけでもHPを作った意味があったんじゃないだろうか。

ただ、Webの世界に多少かかわってきた私なりに、厳しい見方をすると、この和菓子屋さんのHPのデザインはちょっと見づらい。そもそも一番大事なはずの商品紹介ページは少ないし、地図もわかりにくい。プロじゃなくてもいいから、ちょっと詳しい人にチェックしてもらえばいいのになぁ・・・と、余計なことを考えてしまう。そんな訳で、ついつい辛口になってしまうのだが・・・、普通に考えたらHPは“ないよりはあった方がいい”程度のものなんだろうけどね。

どうやら、お店の人たちは、「世間はIT、ITと騒がしい、自分たちもなにかやらなきゃいけない!」と考えているようだ。といっても、大量の顧客がいる訳でもないし、TVのCMに出てくるような大仰な“システム”を導入したところで、そもそも扱うデータもない。そこで、一番手っ取り早いHP開設に至るらしいのだ。

自力でさらなる“IT化”を進めた強者もいる。あるインテリア・ショップの女性がそうだ。もともとコンピュータが得意だった彼女は、HPの作成は簡単にこなした。素人とはとても思えない、見やすくてセンスのいいサイトだ。さらに、それだけでは収まらず、インターネットショップの開設を思いついたのだ。とはいえ、大手ショッピングサイトのシステムを使うほどの経費はかけられないので、すべて自力でやることに決めた。もっとも、難しい“システム”ではない。CGIを使って、簡単なオーダーフォーム作り、「24時間以内のメール返信」を約束してしまったのだ。当然、自動返信システムなどという便利なものはない。

初めのうちは知名度も低く、週に1度オーダーが入るか入らないかだったのが、段々オーダーが増えてきてしまったから大変だ。なにしろ「24時間以内」に自力で返信しなくてはいけないから、彼女にはほとんど休みがなくなってしまったらしい。

それでも、「新しいシステムを導入する手間を考えたら・・・」と、今の方針を変えるつもりはないようだ。そう。なんだって“システム”ってのは、動き始めちゃうと変更するのが大変なのだ。

新聞やテレビでは派手に煽るものの、巷間の“IT化”は、こんなふうに「地道に努力」が基本のようである。“アウトソーシング”なんてお金がかかることはしない。自分でできることは何でも自分でやる。使えるモノ(人)は何でも(誰でも)使う。

昨日も例のレストランのオーナーから、HP作りについて質問が届いた。私は、というと、お返しのグラスワイン目当てに、“使えるモノ”になってあげるつもりだ。
(2003.4.28)

堀田ハルナ

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