ITフォーラム





【第2回】
〜韓国のインターネット放送事情その2〜

■韓国のインターネット放送事業者とは

韓国では、ストリーミング技術を利用して伝送を行い、一定の番組編成を実施していることが、インターネット放送(以後、ネット放送)事業者の定義となっています。現在、ネット放送を二次的に提供しているケーブルテレビ局などを含めると、約1,400のネット放送事業者が「届出」をしています。しかし、その半数以上は、景気後退や収益モデルの未整備によって、事実上、開店休業状態といわれています。そのため、安定的に運営されているネット放送事業者の多くは、ネット以外の収益基盤を持っている事業者といえます。

■届出義務が課されるネット放送事業者

韓国のネット放送事業者は、事業運営を行う前に、行政機関へ届出を行う必要があります。届出場所は、韓国情報通信部(日本の総務省に相当)の内局である郵便サービス局(Office of Postal Service)の地方出先機関、または、区役所のいずれかとなっています。郵便サービス局に届出義務が課されるのは、視聴者間の1対1の双方向通信を可能にするような、チャッティングサービスを提供しているネット放送事業者が該当します。このようなサイトを運営する事業者の多くが、成人向けコンテンツを提供していることから、特に、成人向けサイト運営事業者の取り締り強化を目的に、情報通信部への届出義務が課されています。一方、テレビ局傘下のネット放送事業者や、音楽、教育、娯楽などを専門的に放送する独立系のネット放送事業者は、区役所への届出で済みます。
韓国でこのように届出義務を課すのは、ネット放送事業者に対して社会的責務を負わせるとともに、青少年保護や公序良俗(人権侵害、誹謗中傷)に反する行為の取り締りをし易くする点にあります。なお、郵便サービス局であれ、区役所であれ、届出義務を怠った場合には、罰金刑が課されます。

■言論統制時代の陰影が色濃く残る韓国メディア

建国以来1987年の民主化宣言まで言論統制が続いていた韓国では、今でも、新聞や雑誌、放送などの既存メディアに対して、部分的な内容規制がしかれているのが実情です。当然にして、ブロードバンド・メディアに対しても、そこで流れるあらゆるコンテンツが、政府による取り締りの対象となっています。
今日の韓国におけるインターネットブーム、あるいは、ブロードバンドブームを引き起こした背景の一つには、長らく続いてきた言論統制によって、新聞や放送という従来型のメディアが、「見たい、聞きたい、知りたい」という人間の素朴な欲求を、十分に満たすことができなかったことにあるといえそうです。もし、韓国で言論統制が実施されずに、従来型メディアで人々がある程度満足していたとしたら、今日のような爆発的なブロードバンドの普及はありえなかったかもしれません。

■常時監視されているネットコンテンツ

韓国では、ネット放送の内容を審議する規制機関として、放送委員会(放送行政全般を所掌)と、情報通信倫理委員会という、二つの機関が並存しています。前者は放送産業振興を所轄する文化観光部の関連機関で、後者は通信分野を所轄する情報通信部の関連機関です。
放送委員会は、2000年3月に施行された、統合放送法を根拠に、電気通信回線上を流通する放送類似サービスについても、その内容について、既存の放送メディアに課されている内容規制同様に、事後審議を実施すると定めています。そのため、地上波テレビなど既存の放送局が行うネット放送についても、事後的に内容が審議されています。
一方、情報通信倫理委員会は、電気通信基本法、電気通信事業法、青少年保護法の3つの法律を根拠に、「情報通信倫理委員会審議規程」を定め、社会的に悪影響を与えるような不適切な内容、特に、過激な性的描写、人権侵害、誹謗中傷などについて、ネット放送はもとより、ネット上で流通する、あらゆるコンテンツについて、常時監視を実施しています。

■ネットコンテンツ監視は青少年の健全な育成が目的

放送局が行うネット放送は、既存の放送メディア同様に、厳しい内容規制が適用されているため、これまで罰則が課されたケースはありません。そもそも、放送局が行うネット放送は、地上波あるいはケーブルなどの既存放送メディア向けに厳しい内容規制に従って製作された番組を中心に編成されているため、著作権処理が行われている限りにおいては、それらをネット上で放送(二次利用)することに対して何ら問題は発生しません。
一方、問題となるのは、情報通信倫理委員会が所轄する、放送局以外が行うネット放送で、特に、成人向けサイトが、青少年に悪影響を与えることが、社会問題になっています。こうした事態に対処するため、青少年を有害サイトから守ることを目的に、2001年9月、韓国製のウェブサイトに対して、情報内容等級表示制が導入されました。情報内容等級表示制とは、あらかじめウェブサイトに等級を設け、年齢に応じてアクセスを制限するものです。これにより、サイト訪問者に対して、必ず、住民登録番号を入力させて、年齢確認を行うことが義務付けられた結果、成人向けサイトに未成年者がアクセスするのを防ぐことが可能となっています。韓国では、いわゆる国民総背番号制が導入されており、韓国人であれば住民登録番号が付与されます。この番号は、性別や生年月日が識別できる仕組みになって、韓国社会ではごく一般的に本人確認の手段として利用されています。
情報内容等級表示制の導入は、あくまで韓国製サイトのみが対象なので、海外から流入する反社会的なサイトに対しては何の効力もありません。そのため、規制当局では、常時モニタリングし、有害コンテンツに関するデータベースを構築して、逐次遮断ソフトを作成し、公的機関や教育機関などに提供していますが、世界中の全ての有害コンテンツを遮断するのは不可能です。しかし、韓国の規制当局が、このような終わりのないモニタリング活動を行う背景には、子供の教育上好ましくない反社会的サイトは厳しく取り締るとする、青少年の健全な育成を目指す規制当局の強い信念が根底にあることがうかがえます。
(2002.8.19)
国際通信経済研究所 上席研究員 飯塚留美


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