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第7回〜最終回〜中国のブロードバンド市場

◆ 中国は情報通信大国

久しぶりに訪れた中国は、世界一の情報通信大国に急変していた。2002年9月末の政府統計では、電話ユーザー数は3億9,300万(3月末は3.5億)。内訳は、固定電話が2億300万人、移動体通信が1億9,000万人。人口100人当たり電話普及率は25.9。内訳は、固定電話普及率が32回線、モバイルが15台。固定・移動電話ともにまだ急成長している。今年3月にモスクワで開催されたAPEC情報通信WG会合で、中国政府(情報産業部)は電話ユーザー数が2005年末までに5億人に、また電話普及率が45%に達する見込みだと発表している。

インターネットについては、中国インターネット情報センター(CNNIC)が発表したインターネット統計によると、中国のインターネット・ユーザー人口は2002年6月末時点で4,580万人に達し、米国、日本に次いで世界第3位だ。インターネットに接続されているパソコン台数は1,600万台、今年上半期だけで360万台増えた。また、ネット人口も半年間に1,200万人(36%増)増加した。中国のドメイン数は12.6万、サイト数は29万、インターネット国際回線容量は10Gに拡充された。

中国の総人口13億人に対して4,580万のネット人口は3.6%に過ぎない。中国におけるインターネット利用状況は、まだまだ低水準だ。しかし、中国は所得や情報通信の地域格差が大きい。筆者が今年11月末に訪問した中国最大の経済都市「上海」、工業都市の蘇州や深センでは、インターネットの普及率は先進国並みだが、地方ではまだ電話すら普及していない状況だ。ネット人口普及率3.6%という現在の低さは、中国市場の潜在力の大きさを物語っていると言えよう。

◆ 中国のADSLの現状

中国では、1997年に広東省(広州・深セン)においてADSL網の建設が、また翌1998年に実験サービスが開始された。ADSL網の本格的な建設は2001年以降だが、市内電話網を運営している中国電信(China Telecom)が、広東省のほかに北京、上海、山東、江蘇、浙江、四川、福建、遼寧、河南、重慶の各都市部でADSLサービスを既に開始している。また、2001年3月に中国電信とフランスのメーカーAlcatelとが、大規模なDSL敷設協定を締結した。この戦略的な協定でカバーされるADSLサービス提供エリアは、総人口2億8,700万、総面積540万平方キロメートルに及んでいる。この協定に基づき、現在、中国各地、特に経済開発の進んでいる西部地域で、ADSLの開通が急ピッチで進んでいる。また、大都市部では、中国電信等の通信事業者が積極的にADSLの広告を展開している。筆者が今回訪問した上海市では、中国電信がラッピングバスに大きくADSL広告を出していたのを見かけた。

ADSL料金は地域や業者によって異なる。上海、広州、四川、淅江のADSL接続サービス料金は比較的安いとのことだ。例えば、上海市電信公司のADSLサービス料金は、初期設置費410元(申請料10元、設置工事料400元)、ADSL端末装置(モデムとスプリッタ)はユーザーの買取りで790元。(為替レートは1元が約15円)

・2001年末のADSLユーザー数は、推計約80万
・伝送速度は地域により異なるが、主として上り256kbpsから1Mbps、下り最速8Mbps
(12Mbpsの導入を検討中)。
・初期費用は地域により異なるが500〜1,500元が一般的
・月額使用料は従量料金メニューと定額料金メニューがある
・ADSLアクセス回線の伝送距離は3kmから5km程度

ADSL回線では、映像とインターネット・ブロードバンド接続がサポートされ、オフィスビル、ブロードバンド情報化住宅地、一般家庭ユーザーに適している。情報化の進んだ企業ユーザーでは、大量データの送信に適したSDSL(対称デジタル回線)を使用している企業もある。

光ファイバー

中国電信は2000年後半から大都市や工業区でFTTBとFTTCの普及に努め、インターネット接続サービスの提供を強化してきた。この結果、同社のLANユーザー数が既に中国のブロードバンド・ユーザー総数の3分の1に相当する50万に達している。これらは、光ファイバーとイーサネットLANを組み合せた帯域共用の定額サービスが主流になっている。今回筆者が訪問した蘇州の新区工業都市でも、ビル群や工業団地に光ファイバーが敷設され、FTTBが提供されていた。しかし、一戸建て家屋へのFTTHユーザーはまだ殆どない模様である。
中国電信はユーザー・ニーズの把握に努め、各種の光ブロードバンド接続サービスのパッケージを提供し、多くの企業ユーザーを獲得するとともに、ブロードバンド・ニーズが高いオフィスビルや大手企業ユーザーに対し簡易な設置工法を導入して、光ブロードバンド網の稼働率を向上させている。さらに、大都市部や大規模住宅団地では、中国電信等の電気通信会社以外に、不動産業等から多数の民間ブロードバンド業者が市場参入しており、MANサービスが提供されている。

ケーブルモデム、無線系アクセス

中国では、CATVシステムのケーブルモデムによるブロードバンドの提供が規則で一般的に禁止されているが、上海等の一部の地域では例外的に認められている。中国のCATV加入者数は約8,000万と多いが、ケーブルモデムによるブロードバンド・ユーザー数は極めて少ない。また、無線系ではFWA(固定ワイヤレス・アクセス)が、中国電信等の固定通信事業者により試行されているが、ユーザー数は極めて少ない。

更に、インターネット普及に伴い、インターネット電話の普及が急速に進んでおり、人気を博している。特に大都市の上海では、インターネット公衆電話とその利用カードの売店を多数見かけた。また、ブロードバンド回線に収容された、オンライン・ゲーム等ができる「パソコン・カフェ」を幾つか見かけた。

中国のブロードバンド・アクセス
方式伝送速度料金現状
ADSL
(銅線)
地域、業者により異なる。一般的に:
下り:8Mbps
上り:512Kbps以下
[北京市の料金例]
初期費用:1500元
月額使用料:(512Kpbs)
40時間まで:99元
100時間まで:199元
200時間まで:380元
超過時分:上記いずれも、1分につき5元。
2001年から中国電信が大都市部で商用サービスを開始。ユーザー数は2002年末に推計200万。
FTTx
(光ファイバー)
地域により異なる。
下り:2-10Mbps
上り:2-10Mbps
地域により異なるが、次の料金が多い。
初期費用:300-500元
月額使用料:60-200元
・2000年後半より大都市、工業区でFTTB、FTTCが普及。FTTHはまだ少ない。イーサネットLANとの組合せによる帯域共用の定額サービスが主流。
・民間ブロードバンド業者も多数参入して、MANサービスを提供している。
HFC
(CATV)
システムにより異なる。
[上海CATV(有線通)の例]
下り:1Mbps
上り:512Kbps
[上海CATV(有線通)の例]
初期費用:880-1200元
月額使用料:120元
中国全土のCATVネットワークは40万kmを超え、ユーザー数は約8,000万世帯。
(CATV業者は規制により、電気通信サービスの提供が禁止されているが、特別な許可を得て、インターネット・アクセスサービスを提供している業者もある(例:上海CATV「有線通」)。


ブロードバンドの発展予測

CCID(中国電子信息産業発展研究院)では、中国のXDSLユーザー数が2001年の80万から2002年は300万、2003年には650万に急増すると予測している。

一方、調査会社Strategy Analyticsは、「台頭する中国のブロードバンド市場」と題する報告書を最近出版した。この報告書によれば、中国のブロードバンド・インターネット・ユーザー数は2002年末には対前年比500%増の290万、さらに2008年には3,700万に達すると予測している。2008年ユーザー数のうち、ほぼ4分の3が中国電信などのDSLプロバイダーの加入者である。一方、CATVのケーブルモデムはまだ規制されているほか、デジタル・ケーブルテレビのコストが高いため、あまり成長しないと予測されている。

中国のADSL加入者予測(2001-2008年)
2001年80万人
2002年300万人
2003年650万人
2008年
(Strategy)
3,700万人
出所:CCID/Strategy Analytics

ブロードバンドの普及は国家目標

2001年9月に中国国務院は、情報化を推進するため「国家情報化指導委員会(中文名:国家信息化弁公室)」を設置した。この委員会の設立は、国家として「情報化」を最重要課題として位置づけ、放送と通信の融合をも視野に入れて、強力に推進することを意味する。また、中国政府は、中国をブロードバンド普及の世界的リーダーにすることを決定している。中国は広大な国土であるため、地方の農山村部ではまだまだその恩恵を受けられそうにはないが、中国の都市部ではブロードバンドの普及が急速に進んでいる。
コムジン IPプロフェッショナルズ


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