ITワイド講座




イラスト:小湊好治


恋敵は携帯電話? メールから始まる想い

前回は、ようやく覚えた携帯を活用する"シェフの強敵・主婦"をご紹介したが、今回は、淡い恋のお話である。

今、携帯電話を最も活用しているのは多分、高校生だろう。電車の中でも道端でも、一心不乱に携帯電話の画面を眺めている彼らの姿を、よく見かける。あんなに夢中になって、彼ら、彼女らはいったい誰に、どんなメッセージを送っているのだろうか。

毎日少なくとも100通はメールが届く、と豪語するのは、高校3年生の知り合いの女性だ。仮にY子ちゃんとしておこう。Y子ちゃんはいま、受験勉強の真っ最中。毎日かわるがわる色々な教科の家庭教師が家にやってきて、猛勉強……のはずの彼女、なんと最近新しい彼氏ができたという。携帯の壁紙にした、涼しげな目のすらっとしたオトコのコの写真を誇らしげに見せる彼女は本当に嬉しそうだ。

でも実はY子ちゃん、この彼には一度も会ったことがない。関西に住む彼女が、北海道在住の彼と知り合ったのは、とある携帯の出会い系サイト。Y子ちゃんにはもともと、3ヶ月のつきあいになる彼氏がいたのだが、出会い系サイトで出会った彼のために別れてしまったのだという。同じく受験勉強中の彼と、互いに励ましあううちに、「彼のことが好きになってしまった」「二股は絶対ダメ!」というわけでこんな事態になったとか。
しかし、会ったこともない彼と、現実に目の前にいる彼。この二人のうち、見たこともない男性を選ぶなんて?! 「最近の若い子の考えることはわからん!!」なんて声も聞こえてきそうだ。そんなオトナの疑問はどこ吹く風、Y子ちゃんは、「彼はすごくやさしいしカッコイイもん」と余裕の表情。今日も一日60通近いメールをやりとりしているはずだ。

ちなみに彼女はなかなかの美人だが、茶髪でもなければ、スカートの丈もそれほど短くない。つまり、いわゆる“コギャル”ではなく、クラスでもとりたてて目立つ方ではないらしい。「親が厳しいから」授業をさぼったり、夜中まで遊んだり、なんてことはまったくしない、普通の、どちらかというと古風な高校生なのである。そんなY子ちゃんやその友達の間でさえ、出会い系サイトに登録したり、そこで友達をつくるのはちっとも珍しいことではないのだ。

とはいえ、オトナは「やっぱり危ないよ」と思ってしまうらしい。先日警察庁とNTTドコモはそれぞれ出会い系サイトに対する規制案を発表している。警察庁の案は、出会い系サイトに援助交際を求める内容の書き込みをした18才未満の者に対して罰則を科すというもの。ドコモは、親が契約時に公式サイトにしかアクセスできないサービスを選べるようになるというものだ。
こんな動きについて、まさしく当事者であるY子ちゃんはどう考えているのかというと…「援交(言うまでもなく援助交際)はしないから関係ないけど、出会い系サイトに書き込むのなんて、勝手だよ〜」とご立腹の様子だ。「友達つくるのに出会い系サイトに書き込むなんて、別に危なくない。たしかにヘンなメールも来るけど、そういうのには返事しないから」と、自分でちゃんと管理ができると主張している。実際、露骨な内容のメールを送ってくる男性や、なぜか自分の裸の写真を送ってくる女性(?!)もいるにはいるとか。「でも、そういうのはキモチワルイから削除しちゃうし、アタマおかしい人のメールは友達に転送して笑いものにしてるだけだから大丈夫」、と自信たっぷり。

Y子ちゃんも、その友達の女子高生達も、片時も携帯電話を手放さない。もちろん、学校で見つかれば、携帯電話は没収。1週間ほど預かられた後、戻っては来るが、先生によってはメモリを消すよう命じられることもあるそうだ。そんな危険を冒しても、彼女達は毎日鞄に携帯電話を潜ませる。しかも、「30人のクラスのうち、20人は授業中に携帯メールしてる」というのだから、スゴイ。一体何をやりとりしているんだ?!と、内容を聞いてみると、こちらが「聞かなきゃよかった」と思うほどの他愛のない内容だ。たとえば「いま授業終わったよo(^―^)o」「お疲れ〜〜」などなど…。

出会い系サイトが発端となった事件がTVを賑わした記憶も残るオトナは、なんだか危なっかしいことこの上ない、と心配にもなる。が、詳しく内容を聞いてみると、どうやら彼女達はそれなりに危険意識をもってはいるようだし、日頃のメールのやり取りだって、些細なもの。そういえば、自分だって中学生、高校生の頃には授業中にどうでもいいようなことを書いた小さなメモを回したし、お菓子や雑誌を持っていって怒られたし、会ったこともないブラウン管の向こうの歌手にあこがれたこともあった。有名な文豪の小説にだって、文通で恋に落ちた話なんて、よくあるじゃないーー猜疑心もなにもなく、見たこともないオトコのコを一心に想う彼女を見ていると、なんだかそんな気さえしてきてしまう。
出会い系サイトから始まった淡い恋、あなたはどう思うだろうか。
(2003.1.7)

堀田ハルナ

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