ITワイド講座




イラスト:小湊好治


地域情報学ってなんだ(2)

前回は、産官学共同で進む、地域を元気にする試み“地域情報学”についてご説明した。今回は、実際にどんな活動が行なわれているのかについてご紹介しよう。

愛媛で進むこの新しい試みの中心、伊予銀行寄附部門「地域情報学」では、2002年6月から愛媛県内の地域情報化の実践者を招いた研究会と地域開放講座が開かれている。地域開放講座には誰でもが参加できるし、その模様もレジュメもインターネットで公開されているのは前回もお伝えした通り。

毎週行なわれる地域開放講座は、さまざまな分野で活躍する講師による講義と参加者による発表、そしてディベートによって構成されている。講義テーマは「地域情報化をめぐる課題」、「コミュニティビジネスと地域振興」といった概念的な議論から「地域情報化の試み(沖縄)」といった具体的なものまでいろいろだ。

皆さんは「この指とまれ!」というウェブサイトをご存知だろうか。通称は「ゆびとま」。小・中・高・大学までの全国約5万校の学校データベースが用意されており、登録すれば出身校の旧友たちと再会できるという、ウェブ同窓会のサイトである。96年の立ち上げ以来、口コミで広がったこのサイトは、ネット上のユニークなコミュニティとしてさまざまなメディアで紹介されたので、ご存知の方も多いだろう。現在の登録者は216万人(ユニークユーザは122万人)。廃校、統廃合になった学校も含んでいるため、ユーザーは10代から80代までと幅広い。

このサイトの主催者は長崎県出身の女性、小久保徳子氏。長崎市内に本社を置く「株式会社ゆびとま」の代表取締役として活躍している。小久保氏も、この「地域情報学」研究会の講師として登場し「地方で起業するということ」をテーマに、「バーチャルなコミュニティが地方(土地に根ざしたコミュニティ)にどの様な影響をもたらすのか」を考察する講義を行なった。

この会社の社是がちょっと面白い。曰く「不可能とは、ちょっと時間がかかるということ」。確かに、ウェブ同窓会というと、まずは個人情報の管理が難しそうだということは素人目にもわかる話。他人に情報が漏れないような強固なセキュリティを築くため、管理権限の異なる複層管理者群による「24時間」「有人」「目視」の管理体制をひき、堅牢なデータセンターを作り上げたという。これを支えるのは、なんと1,200名を超えるボランティアのスタッフというから驚く。

有限会社とNPO組織から始まったこのサイトは、途中、ネットバブルの崩壊を始めとした社会状況の変化に苦しみながらも株式会社化に成功した。2002年9月からは、携帯電話ユーザーをターゲットにした「ケータイゆびとま!」事業を進めている。

この会社は、時間をかけて不可能を可能にしてきたようだが、小久保氏はその中心にあるのがやはり“人材”であると言う。「『人と人』『人と企業』『人と情報』のコンシェルジュ」として、地元の企業や団体、そして個人と濃密なコミュニケーションを持ち、企業として成長する。そしてそこから地域の活性化が始まっていく「ゆびとま」の成功は、個人レベルのコミュニケーションがITによって広がりを持ち、さらに事業として地域を活性化させたモデル的なケースだと言えるだろう。

研究会で報告された官主導の試みでは、過疎化が進む高知県での施策が面白い。全国的にみても先進的に情報化を進めてきた高知県では、早くからインフラ整備が行なわれていた。整った環境を有効に活用すべく、公立小中高教育機関や市町村、広域事務組合等のネットワーク化や、県下15ヶ所の「道の駅」でインターネットに接続できる設備を設けるなど、さまざまな試みがなされている。

興味深いのは、高知県では、CATVなど民間のインフラをどんどん取り入れているところ。設備投資にかかる費用も、維持費も節約できるこうした方法を柔軟に取り入る自治体の動きからも、今後、ITが日本のまちづくりについていっそう重要な役割を果たすことは間違いないだろう。

今回ご紹介したのは、危機感を持って地域情報化に真剣に取り組むさまざまな動きのほんの一部でしかない。しかし、これらの動きを支えているのは、やはり「人」のようだ。前回ご登場いただいた愛媛大学地域共同研究センターの客員助教授坂本世津夫氏の言葉をもう一度引用しよう。「幾ら、日本がインキュベーションとかプラットフォームとか産学官連携とか、海外の真似事をしても、根本的な人材=人間が育っていない状況では変われるはずもありません。ましてや、人材育成は一朝一夕・即席には出来ません。」

このごろ“スローフード”“スローライフ”といった言葉がよく聞かれるが、「人を育てる」ことこそ“スロー”な大仕事だ。流行語のように連呼される「地域情報化」だが、まずはこれまでも当然のように言われてきた「人の育成」を通して、地域の資源を見直しそれをいかに活用するかに知恵を絞るべきなのだろう。だが心強いのは、今の私たちにはITという強力なツールがある。
(2003.1.21)

堀田ハルナ

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