ITフォーラム





【第1回】
〜韓国のインターネット放送事情〜

■最終的にFIFAから放映権を得ることができなかったインターネット放送局

2002年5月31日から、世界的なスポーツイベント、2002 FIFAワールドカップが、日韓共催で始まりました。当初、全国ネットの地上波テレビ局であるKBS(公共放送)、MBC(民間放送、準公共放送)、SBS(民間放送)が、それぞれ傘下にあるインターネット子会社を通じて、ワールドカップの試合を中継する予定でした。しかし、地上波テレビ以外のメディア媒体を通じた放映権を、結局、FIFAから得ることができなかったために、2002 FIFAワールドカップのインターネットを通じた中継は、残念ながら実現に至りませんでした。インターネット放映権の交渉において、FIFAがインターネット放送局側に提示した条件とは、一定の速度以上で安定したサービスを提供すること、そして、外国からアクセスができないように韓国国内のみの提供に限定することでした。しかし、後者の条件に関しては、技術的な対応が難しいことから、結局、インターネット放送局は、インターネットによる中継放送を断念せざるをえなかったようです。

■MLBの許諾なくネット放送されていた米国野球の中継

韓国のインターネット放送局にとって、欠かせないコンテンツとなっているのが、スポーツ中継番組です。韓国プロ野球などをはじめとする国内のスポーツ中継は、既に、インターネットでも提供されています。近年、韓国人スポーツ選手の海外での活躍が増えるにつれて、海外スポーツ番組に対する視聴者ニーズが高まりを見せています。そのような中、米国メジャーリーグ(MLB)の試合がインターネットで放送されるという事件が、2000年に起こりました。これは、1999年末以降、ADSLサービスをはじめとするブロードバンド・インターネットが爆発的に普及し始めた時期と重なっています。ドリームエックス(新興の市内通信事業者であるハナロ通信のポータルサイト)は、2000年のMLBの地上波放映権を獲得していたインチョン放送(地方テレビ局)と提携関係にあったことから、地上波テレビと同時にインターネットでもMLBの中継を無料で行っていたそうです。この時、約4万人の会員のアクセスを記録したといわれています。当時、インチョン放送とMLBとの間では、インターネットの放映権に関して特段の取り決めはなく、また、インターネットでの中継放送の終了後も、MLBから、特にクレームが来たということもなかったようです。

■1999年後半より無料インターネット放送が本格化、ブロードバンドブームを後押し

韓国の地上波テレビ局のなかで、本放送を目的にインターネット放送局を設立した最初の事業者はSBSで、それは1999年8月のことでした。SBSは100%出資の子会社、SBSiを設立し、親会社であるSBSから地上波テレビ番組の権利を購入するかたちで放送を開始しました。その後、2000年3月にMBCが子会社であるiMBCを通じて、2000年4月にKBSがKT(旧社名、韓国通信)との共同出資であるCREZIOを通じて、それぞれインターネットの本放送を開始しました。ここで注目すべき点は、いずれのインターネット放送局も、年会費を必要とするものの、番組そのものは全て無料で提供していたことです。韓国では、2000年に入ってから、ADSLに代表されるブロードバンド・インターネットが爆発的に普及し始めるわけですが、こうした背景の一つには、無料インターネット放送の登場があったといえます。また、これに加えて、2000年1月に登場した無料IP電話サービスも、ブロードバンド・インターネット需要を後押しする一つの要因であったといえます。

■SBSi、2001年9月より、他局に先駆け有料放送始める

インターネット放送局が立ち上げられた1999年後半から2年ほどの間は、いずれのインターネット放送局も、地上波テレビ番組の同時放送やビデオ・オン・デマンド・サービスなどを無料で提供しておりました。しかし、昨年2001年9月、SBSiは、他局に先駆けて、地上波番組(ドラマや教養番組など)の有料化に踏み切りました。これに続いて、CREZIOも有料化に踏み切ろうとしたようですが、公共放送の使命を負うKBSが傘下のインターネット放送局を通じて有料放送を提供することに対して、消費者団体からの反対があったために、有料化は見送られることになりました。これを受けて、iMBCも、CREZIOに倣い、当面は無料でインターネット放送を続ける方針を固めているようです。MBCは、民間放送局として位置付けられていますが、公共放送であるKBSが資本参加している関係上、公共放送の要素が強く、KBSの事業方針に従う傾向が強いといわれています。今のところ、収益確保のために地上波番組などを有料で提供しているのはSBSiのみです。しかし、CREZIOやiMBCも、有料化に向けた準備を着々と進めているといわれており、近い将来には、これらのインターネット放送局も、有料化へ全面移行するものと見られています。

■住民登録番号と携帯電話番号を入力し、有料番組を気軽に視聴

インターネット放送の有料コンテンツの決済方法として、SBSiで最も多く利用されているのが、携帯電話を利用した決済で、全体の約8割を占めているそうです。ただし、これは携帯電話会社が課金代行をするのであって、オンライン上で決済が行われているわけではありません。韓国では、いわゆる、国民総背番号制が導入されており、出生届の提出と当時に、住民登録番号が与えられます。この住民登録番号は、社会生活のいろいろな場面で要求され、携帯電話の購入の際にも、住民登録番号の提示が求められます。そのため、全ての携帯電話番号は、その所有者の住民登録番号と、必ず関連付けされています。インターネット放送サイトをはじめ、多くの韓国サイトでは、サイト訪問時に、住民登録番号を入力させて、本人確認を行う仕組みが導入されています。また、有料コンテンツサイトに入り、携帯電話番号を入力すると、その番号の所有者の住民登録番号と、インターネット放送局のサイト訪問時に要求された住民登録番号とが、自動的に照合され、本人確認が行われる仕組みになっています。こうして、サイト訪問時の住民登録番号と、携帯電話番号の所有者の住民登録番号が一致すると、有料コンテンツを視聴することができます。コンテンツ料金は、毎月の携帯電話料金と一緒に、請求書というかたちで、携帯電話会社から、徴収される仕組みになっています。ちなみに、SBSiは、携帯電話を利用した決済システムの利用手数料として、携帯電話会社に対して、最大で、有料コンテンツ取引額の約20%程度を支払っているそうです。このように、韓国のネットユーザが、有料コンテンツを気軽に利用する背景の一つには、個人認証が可能な住民登録番号が存在すること、そして、韓国人にとってその住民登録番号を社会生活のなかで使うことが当たり前になっていることが大きいといえるかもしれません。
(2002.6.18)
国際通信経済研究所 上席研究員 飯塚留美


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