ITワイド講座




イラスト:小湊好治


オトナもコドモもバーチャル中毒?

小学3年生のお子さんを持つ知人から、「うち、いい加減ADSLにしなくちゃ。手続きって簡単なの?」と電話がかかってきた。なにやら切羽詰った彼女の様子に、詳しく話を聞いてみると…どうやら娘のみかちゃんが、インターネットにハマって、先月の電話代が大変なことになったらしい。

 「いまの時代、子供には早い時期からパソコンに慣れさせてやりたい」と考えた知人夫婦は、みかちゃんが小学1年生の時にパソコンを買い与えたんだそう。名目は家族共有のパソコンだが、夫婦は共働きでとにかく毎日忙しく、使う暇はない。実質的には、みかちゃんの占有物になっていた。
 文字入力やインターネット、メールなどの基本操作程度しか教えた覚えはないのに、学校の授業や友達の情報で、いつのまにか、みかちゃんは両親顔負けのヘビーユーザーになっていた。それを知らずに子供の使い方なら、たかが知れているだろうと、面倒さも手伝ってダイヤルアップ接続のまま使用していたところ、今回の騒動(?)になったようだ。

 みかちゃんがハマっていたのは、グラフィックとアニメーションを利用したバーチャル・タウンのようなサイトだった。市民登録すると、自分の分身となるキャラクターを選択できる。このキャラクターを操作して、ご近所さんと掲示板を通じて会話したり、街を散策したりするというRPGの要素もある。

 実を言えば、私もみかちゃんの話を聞く随分前にこのサイトに登録したことがある。このサイトはとてもリアルで、髪型や目、口、鼻といった細かいパーツまで数十種類の中から選択して設定する自分の分身キャラクターは、かなり正確に本人の風貌を再現できる。街のシステムも“役所”や“ゲームセンター”があったりして、限りなくリアルに近い街だ。

 この手のオンライン・ゲームは色々あるが、私の周辺で大流行しているサイトがある。架空の動物キャラクターを自分の島で育てる「育成ゲーム」サイトだ。こちらも、みんなが集まる島があったり、お金を貯めることができるのだが、さきほどのものと決定的に違うのは「どこででも会話ができること」と「キャラクターを動かせること」だろう。なんのことはない、キャラクターの姿を借りたチャットなのだが、ユーザーの感覚は少し違っている。

 どうもこのサイトでは、可愛らしいキャラクターになりきって振る舞う人が多いのだ。自己紹介の時に、“キャラクターを飼っている私”ではなく、“キャラクター”として自己紹介する人が多いのには驚いた。それに、なぜか「幼児語」でチャットする人が多い。チャットしているときに、少し親しくなった人(キャラクター?)に「明日も仕事?」と何気なく尋ねたら、「リブ(キャラクターの名前)は仕事なんてしてないでしょ!」と怒られてしまった。このサイトでは「なりきる」のがお約束なのかもしれない。

 こうしたサイトに人気が集まるのは、コミュニケーションツールとしての面白さが理由だろう。みかちゃんも、先述のサイトでたくさんの友達ができて、病みつきになってしまったようだ。日本だけでなく外国からアクセスする人もいて、リアルタイムで会話ができ、その上お互いにエサをあげたりと双方向のコミュニケーションがとれるのだから、「ハマる」気持ちもわからなくない。

 私が、このサイトをつくづく有り難いと思ったのは、遠方の友人と会話ができた時だった。もちろん普通のチャットでも事足りる。でも、2次元の単純なアニメーションがあるだけで、気分がまったく違う。何だか本当に会って会話をしているような気がするし、結局はキーボードで叩く文字だけのコミュニケーションのはずなのに、暖かみがあるようにも思える。

 2次元の、動物の単純なキャラクターが媒介になるだけで、こんなにも感覚が変化するのだ。もし声が実際に聞こえてきたら、実際にキャラクターになって、キャラクターが見るもの、聞くものを体験できるとしたら…みかちゃんの家の電話代はそれこそ、天井知らずになりそうだ。
(2003.3.25)

堀田ハルナ

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