ITフォーラム





【第5回】

〜『テレコズム』の将来を展望する旅〜

◆ 2002年10月に、米国西海岸シリコンバレーにあるサン・マイクロシステムズ社を訪問して、最近の動向を聞く機会に恵まれた。今回は特に、サンの創始者の一人であるビル・ジョイ率いるアスペン研究所からの説明があり、サン社のコーポレート・ビジョンを聞きながら、通信とネットワークの将来について考えた。そのビジョンとは、インターネットの更なる進展を3段階で予測し、Webの浸透を現在の電話の普及を凌駕するものとして描いている。曰く、ダイヤルトーンよりもウェブトーンの役割が大きくなるというのである。
これを「Webtone > Dialtone」の不等式で象徴的に説明している。

◆ インターネットの3段階の進展とは、現在の第1段階はコンピューターのインターネット化、即ち、サーバー・クライアントの構成で、すでに約1億台のデスクトップがインターネットに接続され、メールやWebが普及している状態である。第2段階は、デバイスのインターネット化、即ち、電話、TV、ゲーム機などを含め1,000億台ものデバイスがインターネットに接続されWeb Servicesが主流になるというものである。そして次の第3段階では、あらゆる物のインターネット化、即ち、あらゆるスイッチ、測定器、衣料などに組み込まれた微少なデバイス・チップがインターネットに100兆個も接続されるというのだ。世界の総人口が100億人とすれば、これは1人当たり1万個のチップを利用することになる。これは当然IPv6の世界である。そしてそれはもはやIPアドレス使い捨ての世界である。あらゆる身につけるもの、家中の器具やペットにつけてもまだ余る量である。おそらく薬などと一緒に検査測定用の微少チップも 服用することになるのかも知れない。どこにでも遍在するという意味の「ユビキタス・コンピューティング」の用語がこの段階で、文字通り実感されるような気がした。

◆ もうひとつの特徴は、ストレージの重視である。ブロードバンドの進展は、サーバの役割もクライアントの役割もいずれも高機能化するだけでは足らず、もうひとつの主役が必要になる。それが巨大なストレージである。それは、"数ギガ・バイト/secのアクセス帯域、数十ギガのデータ・キャッシュ、そしてストレージ容量は数〜数十テラバイトに及ぶ巨大でインテリジェントなストレージ・マシーンなのである。
従来のLANやMANやWANに加えて、SAN(Storage Area Network)という新たな概念が付け加わったのだ。そのSANは日本語からの転用で「ボス」や「取り仕切る者」というニュアンスもある(なお、SUNとSANとは、カタカナでは区別できないが英語では異なる発音で説明されるから話はややこしくなる)。さらに"Storageware"(貯域)や、SRM(Storage Resource Management)という新たな概念も登場した。

◆ 今回のサン社のプレゼンテーションで、少しは納得したことがある。インターネットの登場は、電話のインテリジェント・ネットワークに対し、単なるIPの伝送パイプとしての「ステューピッド・ネットワーク」の普及を意味した。通信トラフィックは質・量ともに急増する中で、単純にインテリジェントがステューピッドで置き換わるはずはないという印象をもっていた。ネットワークの中のインテリジェンスはどこへ行ったのかという疑問が常につきまとっていたのだ。かなりの部分がネットワークの両端にあるコンピューターのインテリジェンスに依存することになったという説明だけではしっくりいかないのだ。しかし、今回それだけでなく、ストレージというもう一つのインテリジェンスにも依存することが明らかになった。それでもなおインテリジェンスが足りないかも知れない。残りはまだコンピューターの前にいる人間のインテリジェントな操作に依存するというのであろう。つまり、まだ面倒くさい操作を人間が強いられているのだ。サン社は、Webtone > Dialtone の予測を高らかに宣言した。インターネットの近未来はその通りであろう。しかし、それはインターネットに接続されるデバイスの数量だけの比較であってはならない。端末を操作する人間に「ステューピッド」という快適操作の至福を提供するものでなければならない。

◆ ブロードバンドは、単にネットワークの回線容量が増えるだけではない。それは明らかに次世代のインターネットを意味する。コンピューターのアーキテクチャーも、そのブロードバンドに対応して進化して行カなければならなくなる。ストーレッジも今までのようなコンピューターのひとつの静的な部品ではなくなる。そしてネットワークとコンピューターとは機能を分散し、コンピューターの中と外との区別を次第に曖昧にしながら、IP化はテレコムの領域にまで浸透して行くのだ。サン社は従来の"The Network is the computer"のスローガンを拡張し、"We make the net work (available, open, secure, reliable, scalable, affordable)"と表現した。 networkをnetとworkとに分けたところがミソである。この標語には、ネットワークの将来の発展方向が表現されているように思えた。
(2002.10.22)
国際大学グローコム・フェロー 小林寛三


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