ITフォーラム




【第5回】
通信と放送の融合が進む韓国

■放送事業への参入を図る携帯電話会社最大手のSKテレコム

韓国では通信と放送の融合が、通信事業者による放送事業への参入という形でも進みつつあります。韓国携帯電話会社最大手のSKテレコム(以下SKT)は、CATV事業及び衛星デジタル音声放送事業への進出を図ることによって、テレビ端末へのSKTネットサービスの提供や、携帯端末への放送サービスの提供を実現しようとしています。SKTは放送事業を手がけることで、そこで培われる経験やノウハウを、携帯端末を使ったサービスに最大限応用し、新たなサービス開発につなげていこうとしています。

■SKTのCATV戦略

SKTは、24のCATVシステムオペレータ(以下SO)との共同出資で、KDMC(Korea Digital Media Center)を設立しました。SKTは、SOと協力体制を築くことによって、ケーブルテレビ加入者に対しても、SKTのインターネット・サービスである“NATE”の提供を実現しようとしています。ちなみに、現在のKDMCに対するSKTの出資比率は約40%です。

携帯電話会社とSOがこのような協力関係を構築することができた背景には、双方の利害が一致したことにあります。SKTはSOと提携し、ケーブルテレビのデジタル化移行のための資金提供をする見返りに、番組やコンテンツの提供を受けることで、将来的には番組・コンテンツ事業へも進出できるという思惑があり、一方のSOはデジタル化ニーズに対応するための資金力がないので、資金提供してくれる大手企業との提携が必須であったということが、KDMC設立の大きな要因であったようです。

KDMCが行う業務は、CATVのアナログ番組やインターネット・コンテンツをデジタル変換(DTVはOpen Cable方式、データ放送はOCAP:Open Cable Application Platform方式)してSOへ伝送することです。

(参考)韓国デジタル放送の技術標準
 DTVデータ放送
地上波デジタルATSCATSC-DASE
衛星デジタルDVB-SDVB-MHP
CATVデジタルOpen CableOCAP


現在、2003年上半期の商用サービス開始に向けて、STB(セット・トップ・ボックス)の開発が進められており、間もなく技術仕様が確定することになっています。STBの価格は約400〜500ドル程度とされていますが、加入者負担を減らし、デジタルCATVの早期普及を図ることを目的に、KDMCとSOがSTB費用を負担することになっています。

韓国には全国71地域、全154のSOが存在しますが、SKTによると、デジタルCATVを通じてSKTのネット関連サービスを事業として成立させるためには、20以上のSOと最低5年以上の契約をする必要があると試算しています。ちなみに、SKTは現在130のSOに対して提携要請を済ませているとのことです。

■SKTの衛星デジタル音声放送戦略

SKTは、先頃、衛星を利用したデジタル音声放送(Digital Audio Broadcasting:DAB)の商用サービスを2004年に予定している日本の事業者、モバイル放送株式会社への増資を発表しました。これによってSKTの出資比率は約10%に引き上げられました。

韓国では、SKTがいち早く衛星デジタル音声放送サービス提供の表明を行い、2004年の商用化を目指して準備を進めています。その一環として、日本のモバイル放送株式会社への出資を通じ、衛星の共同所有や、放送設備や受信端末の共同開発などを進めることで、SKTは韓国市場で優位に事業展開して行きたい意向です。使用する衛星は、米Space Systems/Loral社の開発によるSバンド衛星で、韓国国内のみに焦点を当てた韓国向けビームが搭載されています。

衛星デジタル音声放送を使って提供されるサービスには、オーディオチャンネル、データ放送チャンネル、画像チャンネルなどが予定されていますが、放送する番組やコンテンツの充実を図ることが当面の課題となっています。そこで、SKTでは番組供給先として、地上波テレビ局などに対して番組提供の協力要請をしています。テレビ局側は、番組販売の一環として衛星デジタル音声放送への番組提供に対して興味を持つ一方で、長期的に見ればSKTは同業者としてライバルになる可能性が高いとして、SKTとの提携関係については慎重な姿勢を示しています。

■SKTの放送事業参入が通信と放送の規制機関の再編議論をもたらす

韓国では、SKTによる放送事業参入、特に衛星デジタル音声放送事業参入への動きがきっかけとなって、通信と放送の規制機関の再編議論が活発化しつつあります。

韓国には通信と放送それぞれに独立の規制機関が存在します。デジタル化の進展がもたらす通信と放送の融合は時代の流れであるとの認識の下、通信と放送の規制機関が統合すること自体に対しては議論の域を脱しています。現在の最大の関心事は、通信業界と放送業界のどちらの勢力が、新たに設置されるであろう通信・放送統合委員会において主導権を握ることができるかという点のようです。

通信・放送統合委員会の設置構想に伴って、通信・放送行政に関わる機関の再編案が複数検討されていますが、その一つが機能に基づく各種機関の設立です。規制監督機能を担う通信・放送統合委員会、産業振興を含む通信・放送行政を所轄する政府機関(情報通信部と文化観光部の統合の可能性も否定できないと見られています)、内容・コンテンツの審議機能を担う第三者機関(民間人で構成)の3つの機関の設立が、一つの案として検討されています。

通信・放送統合委員会の設置構想は、通信と放送を所轄する省庁の再編議論を内包しているため、大統領の政治的判断に大きく左右される問題となります。そのため、省庁再編や通信・放送統合委員会設立の議論の行方は、2002年12月に行われる大統領選挙で誰が政権の座に就くかを待つことになります。次期政権が当該政策課題を優先的に扱うことになれば、2003年には通信・放送統合委員会が発足すると見られています。
(2002.10.29)

国際通信経済研究所 上席研究員 飯塚留美


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