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米国のブロードバンド事情(1)
SUPERCOMM 2002(米国最大の通信機器展示・セミナー)が、アトランタのGWCC (Georgia World Congress Center)で6月2日から7日まで開催された。筆者は、このSUPERCOMMの一環として開催された「ブロードバンド・セミナー(Broadband for Business: New Options for the Last Mile)」に参加するとともに、米国TIA(電気通信産業協会)の関係者等と米国のブロードバンドの現状について議論する機会があったので、以下にその概要を報告したい。
◆ 米国はDSL競争で後れ
米国FCCが今年7月23日に発表した報告書「インターネット・アクセス用高速サービス(High-Speed Services for Internet Access)」によれば、2001年12月31日現在における米国のブロードバンド回線数(200Kbps超)は次のとおり約1,300万回線に達している。米国のADSL回線数は昨年1年間でほぼ倍増し、約400万回線に達したが、ケーブル回線(約700万回線)の方がまだ多い。
表1 米国のブロードバンド回線
(各年末における200Kbps超の片方向又は双方向回線)
回線種別 | 1999年 | 2000年 | 2001年 | ADSL | 369,792 | 1,977,101 | 3,947,808 | その他有線回線 | 609,909 | 1,021,291 | 1,078,597 | 同軸ケーブル | 1,411,977 | 3,582,874 | 7,059,598 | 光ファイバ | 312,204 | 376,203 | 494,199 | 衛星又は固定無線 | 50,404 | 112,405 | 212,610 | 合計 | 2,754,286 | 7,069,874 | 12,792,812 |
出所:FCC High-Speed Services for Internet Access: Status as of December 31, 2001
米国のブロードバンド回線数は上記のとおり急成長しているが、アジアや欧州ではもっと急成長した国がある。米国はむしろDSL競争で後れをとっている。人口100人当たりDSL回線数では、米国は世界10位に甘んじており、韓国、香港、台湾のアジア諸国、デンマーク、ドイツ、スウェーデンなどの欧州諸国の後塵を拝している。米国のブロードバンド普及率は、人口100人当たり1.6回線であり、第1位の韓国の約11回線と比べてかなり格差がある。なお、日本の普及率は1.2回線で第13位である。
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人口100人当たりDSL回線数
(2001年現在、普及率1.00回線以上の諸国)
韓国 | 10.95 | 香港 | 5.56 | 台湾 | 4.83 | カナダ | 3.73 | デンマーク | 2.85 | ベルギー | 2.76 | ドイツ | 2.23 | スウェーデン | 2.18 | フィンランド | 1.66 | 米国 | 1.59 | オーストラリア | 1.40 | シンガポール | 1.39 | 日本 | 1.20 | エストニア | 1.18 | ノルウェー | 1.11 |
出所:http://www.point-topic.com
◆ 米国のブロードバンド政策
米国では、ブロードバンドの普及を図るため、議会を中心に1996年通信法の見直し、FCCによるブロードバンド規制の見直し、商務省NTIAによるブロードバンド政策の策定などの動きがある。特に注目すべきは、2002年2月27日に下院を通過した「インターネット自由化・ブロードバンド敷設法(the Internet Freedom and Broadband Deployment Act)」だ。この法案は、提案者のBilly Tauzin(共和党)とJohn Dingell(民主党)の両議員の名前から、通常、Tauzin-Dingell法案と呼ばれている。この法案の主な骨子は、(1)地域ベル電話会社(RBOC)が、自社の市内電話市場を競争に開放する前に、データ伝送等の長距離通信市場へ参入することを認める、(2)電気通信サービス・プロバイダーにインセンティブを与えるため、FCC規則を修正して「ブロードバンド・ネットワーク・コンポーネント」に対し連邦と州が課している「アンバンドリング」義務を廃止するというもの。要するに、1996年通信法を骨抜きにして、地域ベル電話会社がブロードバンドを有利に敷設できるようにすることを狙っている。しかし、競争相手の長距離通信会社やISP(情報サービス・プロバイダー)の支持する上院商務委員会のFritz Hollings(民主党)が、上院でこの法案の通過を阻止することを約束しており、事態は行き詰まり状態になっている。
◆ TIA等の産業界の動き
全米1,100社の通信機器メーカー等で構成する業界団体TIA(Telecommunications Industry Association)は、2001年10月4日に米国大統領に書簡を送り、米国の通信インフラをブロードバンド化し、経済を活性化する政策の確立を要請した。TIAのM. J. Flanigan専務理事はこの書簡の中で、「ブロードバンドの普及促進施策を実施すれば、米国経済に年間5,000億ドル(約60兆円)の経済効果をもたらす」と述べ、「米国経済が不況にあえぐこの時期こそ、ブロードバンド投資の絶好のタイミングである」と力説している。
TIAのこの提言は、日本のe-Japan重点計画やブロードバンドで先行している韓国の施策等を参考して作成されている。TIAは税額控除、規制緩和、周波数割当て、その他の財政刺激策のパッケージを「官民パートナーシップ」の一環として策定し、高速インターネット・アクセスと次世代ブロードバンド・サービスを2005年までに全米で享受できるようにすべきだと提案している。また、ボトルネックになっているラストマイル(加入者回線部分)に光ファイバを敷設して100Mbpsに高速化し、世界競争に勝てるスケジュールの立案を要望している。
現在、米国では、タイムリーに政策が実施されていないため、ブロードバンドが全米に普及するには2010年ないし2030年までかかると言われている。米国のブロードバンド普及率は2000年末に世界第3位だったが、日を追って後れが進んでいる。アジアでは韓国がブロードバンド化の先頭を走っている。日本も2005年までに次世代ブロードバンド回線を各家庭や企業に敷設するe-Japan重点計画を策定して追い上げている。また中国では、ブロードバンドを重視した1,510億ドル(約18兆円)に上るブロードバンド化投資5カ年計画を採択している。カナダ、オランダ、スウェーデンなども、ブロードバンド化では米国より先行している。積極的なブロードバンド政策を今実施しなければ、米国は2005年には上位10カ国にも入れなくなると危機感を示している。
TIAのほかにも、シリコンバレーの有力企業の社長で構成するTechNet(テクノロジー・ネットワーク)、コンピュータ関連企業の社長で構成するCSPP (Computer Systems Policy Project)など、様々な民間のIT団体が同様な政策提案をしている。だが、ブッシュ政権はセキュリティ(国防)を最も重要視しており、これらのブロードバンド政策提言は未だに宙に浮いたままだ。
次回は「米国のビジネス分野におけるブロードバンド」の予定)
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コムジン IPプロフェッショナルズ
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