ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER

香り×つながる 中村祥二

第5回 加齢臭にチャレンジその2「体の酸化防止機能を高める」

加齢臭の発見について、マスコミの過熱した報道のほとぼりが冷めた後も私はそのニオイをずっと観察し、研究を振り返りながら、従来とは異なった加齢臭を減らす方法を模索してきた。私の試みを紹介してみたい。

「新しいチャレンジ」
私は加齢臭を発してもおかしくない年齢だし、白髪も増えてきた。そして、加齢臭とその発生のメカニズムを研究した者として、周囲と自身を注意深く観察してきた。その結果、皮脂成分であるパルミトオレイン酸の分泌を減らすことは難しいが、それを分解する活性酸素の働きを身体の内部から抑えることができると考えた。
40歳を過ぎるとパルミトオレイン酸が多く分泌されるようになる。また、若い頃には皮脂中にほとんど存在しなかった、体のサビともいうべき過酸化脂質のスクワレンハイドロパーオキサイドも増加してくる。この過酸化脂質は皮膚のシワやシミを作ったりする物質でもある。実際のところ、加齢臭発生の実験は面白い。ビーカーにパルミトオレイン酸を入れその中にスクワレンハイドロパーオキサイドをたらすと、瞬間的に加齢臭の特徴的なノネナールのニオイが発生するのである。

加齢臭と深い関わりがあるというコエンザイムQ10。著者自身がその効果を実感した。

加齢臭と深い関わりがあるというコエンザイムQ10。著者自身がその効果を実感した。

パルミトオレイン酸を酸化分解させれば加齢臭を発生することは、前回書いたとおりだが、人の皮膚上で共存するスクワレンハイドロパーオキサイドの影響は大きい。
そこで私は考えた。活性酸素防御作用のあるコエンザイムQ10(30mg)と酸化防止機能を持つビタミンE(142mg)を毎日摂取することによって、パルミトオレイン酸の分解を抑えられるのではないだろうか。コエンザイムQ10の体内における生成能力は、年齢とともに衰えていくことが知られているが、この物質は人間のほぼすべての細胞の中にあり、20歳前後をピークに70歳では40%程度にまで減少する。ビタミンEは自然界に広く普遍的に存在し、脂質の連鎖的酸化を阻止する。コエンザイムQ10とビタミンEの相乗効果もあるだろう。私自身の「鼻」による判定では、効果が高いと確信が持てるようになった。この実験には両手の甲の目立ったシミがほとんど消えてしまったという余録もあった。
実は30代の壮年期でも、非常に強いストレス、たとえば会社を辞めなくてはならないような苦しい選択に迷うなどという時には、加齢臭を発生させることが知られている。そうなると加齢臭の定義を変える必要が出てくるかもしれない。ニオイというのは、体とも心とも密接につながっている。

 

中村祥二(なかむら・しょうじ)プロフィール

1935年東京生まれ。58年東京大学農学部農芸化学科卒業後、株式会社資生堂に入社。資生堂リサーチセンター香料研究部部長、チーフパフューマーを経て、95〜99年まで常勤顧問。40年にわたり、香水、化粧品の香料創作及び花香に関する研究、香りの生理的、心理的効果の研究を行う。現在は、国際香りと文化の会会長として香り文化の普及に尽力。フランス調香師協会会員。著書に『調香師の手帖』(朝日文庫)、『香りを楽しむ本』(講談社)、『香りの世界をのぞいてみよう』(ポプラ社)など。

Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]