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新IT大捜査線 特命捜査 第2号 カーナビからテレマティクスへ
 
  カーナビによって身近になったGPS
 

地球を回る人工衛星からの情報によって自分の位置を判断するGPSは、カーナビによって私達の生活に身近なものとなっている。そしてカーナビが普及してきたことで、そこに新しいサービスも生まれている。最近では、カーナビにインターネット接続機能を付加することでさまざまなサービスを実現する「テレマティクス」が自動車メーカーによって実用化、トヨタ自動車の「G-BOOK」や日産自動車の「カーウイングス」、本田技研工業の「インターナビ」などが知られている。移動体通信と車との関係は更に強まり、「走る・曲がる・止まる」という基本の3機能に、「つなぐ」機能を付加したことで、車文化そのものにも大きな影響を与えているようだ。
カーナビとテレマティクス。すでに幅広い普及を見せながら、今ひとつ見えにくい両者の関係について、メーカーの話を参考に現状を整理してみよう。

まず原点となるGPS(Global Positioning System=全地球測位システム)は、1960年代に米海軍によって開発が始まった。地球を回る人工衛星に原子時計を搭載、4個以上の衛星からの信号を同時にキャッチすることにより現在位置を測定する衛星測位システムだ。

GPSは、地上約2万キロメートルを周回する24個のGPS衛星と、GPS衛星の追跡と管制を行う管制局、測位を行う受信機で構成され、地球を回るGPS衛星は6軌道面に4個ずつ配置されている。位置の特定には4個以上のGPS衛星からの距離を同時に知ることが必要だ。GPS衛星からの距離は、GPS衛星から発信された電波が受信機に到達するまでに要した時間から求める。軍事におけるGPSの威力は圧倒的で、1991(平成3)年の湾岸戦争 でその効果が世界中に知れ渡ったことは記憶に新しい。

松田圭史氏
Panasonicカーナビ一号機

さてGPSによるカーナビは、日本では1990(平成2)年、マツダが三菱電機の協力を得てロータリーエンジン車「ユーノス・コスモ」に初めて搭載した。更にその2ヶ月後、パイオニアが市販型のカーナビを発売した。当時は民需で使えるGPS精度は100メートルと限られていたため、これらGPSカーナビの精度も実用性という意味では充分ではなく、話題性先行の時代だった。
現在パイオニアとカーナビのトップシェアを分け合う松下電器産業が1号機を発売したのは93(平成5)年のことだ。このカーナビはGPSではなく、速度センサーで移動距離を算出、またジャイロセンサーで進行方向の変化を検出して現在地を割り出す自律航法を採用した。つまりパイオニアはGPS、松下電器産業は自律航法を採用したということで、同じカーナビと言っても、技術的には異なる商品として登場したことになる。

 
 
 
  GPSと自律航法のハイブリッド化へ
 
川原正明氏
お話を伺った松下電器産業・川原正明氏

GPSは電波を利用することからトンネル内やビルの密集地などでは測位が難しい。一方、自律航法にこの問題はないが、速度センサーで移動距離を検出、ジャイロセンサーで方向を判断するとは言っても、走るに従って次第にズレが大きくなる可能性が常にある。そこでカーナビは、両者の「いいとこどり」をしたハイブリッド型へと進化を遂げる。
現在のカーメーカーの純正カーナビのほとんどが「最初の座標位置決定および、時々(数分につき1回程度)の数値補正にのみGPSを利用し、それ以外は自律航法を主力に自車位置を測定する」(松下電器産業・パナソニックオートモーティブシステムズ社・市販マーケティンググループ・川原正明チームリーダー)というハイブリッド型を採用している。つまり、GPSはカーナビにおいて補助的な役割へと変化しているのだ。

 
 
 
  2000年にGPSの民需精度が10倍に向上
 
2002年に登場したHDカーナビ

GPSはそもそも軍需を目的としていたことから、GPSを民需でいつまで利用できるかの保証はなく、これがGPS採用メーカーにとっては不安のタネだった。しかし1996(平成8)年にクリントン大統領がGPSの無償提供を宣言した事で、メーカーの不安は解消された。同時に、軍需以外の目的に対してわざと精度を落とすためのSA(Selective Availability=選択利用性)についても、開放することを宣言した。SAとは、一般に開放されている電波コードによる測位精度を作為的に劣化させる処理のことだ。もちろん米軍にはこれを解除する方法が提供されており、SAの開放前は米軍関係者だけが高精度での測位が可能だった。
しかし2000(平成12)年5月にSAが解除されたことで、GPSの精度は約10倍に向上した。それまで約100メートルの精度だと言われていたものが、民需でも今は約10メートル、最近はさまざまな補正技術によって数十センチレベルの精度の実現も可能とされている。
GPSや自律航法に加えてカーナビの精度向上に大きく貢献しているのが、マップマッチングという技術だ。自分の座標位置と道路の位置データがずれていた場合、つまりデータ上で、自分が道路から外れていた場合、最も可能性の高い道路上に座標を強制的に移動するという技術で、これもカーナビの精度向上に大きな役割を果たしている。

 
 
 
  カーナビからテレマティクスへ
 

さて自動車メーカー各社にとってカーナビはもはや車の装備の一部でしかない。価格帯によってカーナビの能力に違いはあるものの、カーナビの能力を競う時代はすでに終わっているようだ。
ということで、自動車メーカーの最近の関心は「テレマティクス」に集中している。「テレマティクス」とは、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報科学)を組み合わせた造語で、「自動車に移動体通信システムを組み合わせて、リアルタイムに情報サービスを提供する」仕組み作りを指す。つまり、車に対してリアルタイムに提供される情報サービスはすべてテレマティクスということになる。
現在のテレマティクスサービスとしては、トヨタ自動車の「G-BOOK」、本田技研工業の「インターナビ」、日産自動車の「カーウイングス」などが知られるが、「インターナビ 」と「カーウイングス」が通信装置として携帯電話を利用するのに対して、「G-BOOK」は携帯電話以外に専用のDCM(Data Communication Module=通信装置)が利用できることが大きな特徴だ。
通信装置が携帯電話であろうと専用DCMであろうと、カーナビの画面からテレマティクスを操作するという点では同じ。つまりユーザーにとってテレマティクスは、カーナビの1機能として見えるのだが、カーメーカーにとってはカーナビとテレマティクスはあくまで異なるサービスとして位置付けている。ここに一般ユーザーが混乱を生じる原因がある。

 
 
 
  専用DCMによって「安全・安心」を提供
 
DCM概念図

トヨタ自動車が2002(平成14)年に「G-BOOK」をスタートした当初から、「G-BOOKはあくまでもマルチメディア端末としての位置づけ」(トヨタ自動車 e-TOYOTA部G-BOOK企画グループ長・松枝伸彰氏)であり、世界で初めてマルチメディア端末を新車「Will CYPHA」に搭載した事によって、今後のサービスとしてのテレマティクスを世に問うた。
そして「G-BOOK」のその後の展開を考える上で重要なポイントとなるのが、専用DCMの採用による「安心・安全の確保」で、これが競合他社にはない「G-BOOK」の際立った特徴となっている。

G-BOOKによる渋滞予測の画面(エリアチェック)
 
G-BOOKによる渋滞予測の画面(ルートチェック)
 
G-BOOKによる渋滞予測の画面(所要時間チェック)

専用DCMは、「G-BOOK」でトヨタ自動車が目指す今後の車社会に向けた新たなサービスに不可欠のものとなっている。では専用DCMとは何かというと、「テレマティクスサービス専用に開発された車載タイプの通信装置」で、つまり携帯電話と通信能力は同じだが、あくまで車に装着することが特徴で、安定した通信接続と、常時通信を可能にする。もちろんその発信機能を利用して車の位置確認に利用できる。

「G-BOOK」が提供するサービスは、「安全・安心」「ドライビングインテリジェンス」「アミューズメント」の3種類に大別される。このうち「ドライビングインテリジェンス」とは、渋滞予測を始めとする交通情報で、ドライブの際に重宝されることから各社が力点を置くテレマティクスの重要コンテンツだ。

「G-BOOK」の大きなポイントとなる「安全・安心」については、「たとえば交通事故が発生して車のエアバッグが作動した場合など、たとえ被害者が意識不明の重体でも、専用DCMが作動している限りGPSとの交信によって車の位置情報を把握することができます。また車の位置情報が把握できるということは、車の盗難などにも大きな威力を発揮します」(トヨタ自動車e-TOYOTA部マーケティング部G-BOOK展開グループ長・松岡秀治氏)。
日本における車の盗難率は今や1000台につき1台強の割合とされ、高級車になればなるほど比率は高まる。事故や盗難の際の「安心・安全」サービスを利用するには専用DCMの契約が不可欠で、料金は、新車初年度が無料、2年目以降は年間12000円となっている。この料金を高いと感じるか安いと感じるかはユーザーの判断だが「一度盗難や事故に遭ったユーザーはほとんどと言って良いほど契約する」(松枝氏)傾向が強いという。

アラーム通知のしくみ
 
 
 
  走る、曲がる、止まる、つながる--
 
G-BOOKによる情報サービス

「走りながらつながる」というのが「G-BOOK」のキーワードだ。「走る、曲がる、止まる、という車の基本3要素に加えて、つながる(接続する)という要素を付け加えなければ、情報通信の時代に車だけが取り残されることになります。ではつながって何が便利かと考えると、自動車メーカーとしてまず大切な『安全・安心』がありました」(松枝氏)。
「安全・安心」という緊急時への対処は不可欠としても、現在の「G-BOOK」活用で頻度の高いのはやはり渋滞予測だ。そして次にニュースや天気予報といった情報サービスが続く。

また高齢者に人気が高いのがオペレータサービスだ。電話でオペレータに頼んでおけば、通信を介して車への操作をオペレータが代行、車に乗った時には希望した内容がすべてカーナビに設定されているということで、カーナビの操作に不得手な高齢者の利用が多い。これは、車と生活環境とのつながりを目指したものだ。
アミューズメントサービスでは、世界初のオンデマンド・カーオーディオとして知られる「G-SOUND」「AUTOLIVE」、「ドライブポータル」などが人気だ。「G-SOUND」では最新のヒットチャートを、「AUTOLIVE」では最新のカラオケを車内で手軽に楽しめる。走行中はAUTOLIVEカラオケの歌詞が表示されず曲のみの再生となるなど、安全への細かい配慮が特徴だ。
ドライブポータルは、文字情報を音声で読み上げる、ドライバーのためのWeb情報サービス。走行中にメールやニュースを簡単にチェックでき、現在地周辺の情報検索も出来る。レストランなど最新グルメ情報や宿泊施設・行楽地の情報など、ドライブに役立つライブナビゲーションも充実している。すべてのコンテンツがナビからだけでなく、携帯電話・パソコン・PDAなどからも利用可能なシームレスなサービスとなっている。
テレマティクスはカーナビとは違うサービスだとは言っても、実際の操作はカーナビの画面から行うことは事実だ。だから一般ユーザーから「テレマティクスはカーナビの進化の一つ」と判断されても無理はない。「車に標準装備された多機能端末の機能の一つとしてカーナビがある」という認識が一般化するかどうか、今後のテレマティクスの展開に期待したい。

取材協力: 松下電器産業株式会社
(http://panasonic.jp/)
トヨタ自動車株式会社
(http://www.toyota.co.jp/)
 
 
坂本剛 0007 D.O.B 1971.10.28
調査報告書 ファイルナンバー002 カーナビからテレマティクスへ
イラスト/小湊好治 Top of the page

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