コンピュータで音楽を楽しむコンピュータ・ミュージックが大きな広がりを見せている。
音楽の楽しみ方は人それぞれだが、最も一般的なものは、CDなどあらかじめ作成された音楽コンテンツを何らかのオーディオ機器で聴いて楽しむというものだ。インターネットが普及した今、ネット経由で楽曲をダウンロードすることがごく一般的になり、パソコン活用による大容量ライブラリーや検索システムなど、音楽コンテンツの入手方法は大きく広がったが、既存の音楽を聞いて楽しむというスタイルが主流であることには変わりない。
これに対して、音楽を演奏したり、更には新たな音楽を作ったりするポジティブな音楽の楽しみ方については、誰もがその欲求を持ちながらも、習練や音楽的才能が問われることなどが要因となり、いつの時代もユーザ層は限られてきた。デジタル楽器はどれも「簡単演奏」を謳い、コンピュータによる手軽な曲作りなど、デジタル技術の進化が音楽の楽しみ方を広げたとは言え、演奏にしても作曲にしても何らかの習練は不可欠で、コンピュータを利用すれば誰もが作曲家になれると言うわけではない。
ところが数年前から状況が大きく変わり、コンピュータと音楽との新たな関わり方が登場した。その新たな関わり方とは、既存の音楽を自分好みの音に変えるというものである。楽器が演奏できなくても、もちろん作曲の知識など皆無でも、音楽を自分流の音にできる楽しみだ。
セリーヌ・ディオンと曲中でデュエットすることだっていとも簡単にできるし、バックオーケストラの楽器を自由に変えることも可能だ。そしてこのアレンジをCDに録音して楽しむこともできる(著作権に十分な配慮をしなくてはいけないのは言うまでもない)。音楽は大好きだが、新たに作曲することなど不可能に近いという人でも、既にある音楽を自分好みの音にアレンジすることならできる。
この「音楽を自分好みの音にアレンジする」ための機器が「オーディオ・キャプチャー」であり、ここ数年の高性能・低価格化により急成長を遂げている商品だ。
「オーディオ・キャプチャー」を一言で言うと、レコードやカセット、その他さまざまなメディアから入手する音楽コンテンツをユーザがコンピュータへ自由に取り込んで編集ソフトで加工するための機器だ。
このオーディオ・キャプチャーは、自分で一から作曲することが目的ではなく、さまざまな音楽コンテンツを加工・編集することで自分だけのオリジナルサウンドを作って楽しむことが最大の目的だ。
ローランドのEDIROL「UA-4FX」を例にとると、アナログ入出力、デジタル入出力、マイク/ギター入力、音質補正(エフェクト)、MIDI機器接続などの機能を持つ。ポイントとなる音質補正には、3系統(取り込みサウンドを高音質に/オーディオを楽しむ/音の変化を楽しむ)12種類の機能を持つ。「さまざまな音質変化はもちろん、バックオーケストラはそのままにボーカル音声だけを小さくして自分の声に入れ替えたり、カセットテープやレコードなどの劣化した音もクリアなサウンドとして蘇らせたりするなど、自分の思い通りにカスタマイズすることによって、新たな音楽の楽しみを味わえる機器」(ローランド営業企画部係長・蓑輪雅弘氏)として位置づけている。
例えば、ボーカルを小さくする仕組みについて説明しよう。通常の曲ではボーカルを目立たせるようにステレオサウンドの中央にボーカルを位置づけているが、これを利用してステレオサウンドの中央部分の音を抑える(センターキャンセル)ことによってボーカルを小さくすることができるのだ。また利用頻度の高いエフェクト(効果音)機能としてリバーブ(残響音調整)があるが、これはカラオケにおけるエコーの役割を果たすもので、センターキャンセルと組み合わせれば、既存の楽曲をカラオケとして利用することもできる。
オーディオ・キャプチャーが一般ユーザに普及するようになった重要なポイントが「誰もが使える簡単な操作性」だ。これまでのシンセサイザーや各種インターフェースなど音楽用デジタル機器を使いこなすのは音楽の素人にとって極めて難しい。ギターやトランペットを演奏できる人でも、演奏データを取り込んで他の音楽データと融合するとなると簡単ではない。楽器演奏のデジタル処理はプロのミュージシャンには必須の作業だが、素人にはまだまだハードルが高いのだ。しかしUA-4FXでは、4つの音質補正用つまみに3つのボリュームつまみ(ギター・マイク、入力、出力)があるだけで、誰もが簡単に操作できることが大きな魅力だ。
そしてこのオーディオ・キャプチャーがターゲットをデジタル音楽の入門者に置いたことによって、「作曲や演奏はプロに任せて自分はもっぱら好みの音づくりで楽しむ」という新たなユーザ層を開拓した。更に、使いやすい機器はアマ・プロを問わず人気がある様子で、最近はプロユースでも使われているという。
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