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新IT大捜査線 特命捜査 第4号 コンピュータが実現!音楽の新たな楽しみ
 
  音楽を自分好みの音にする
 
USBオーディオ・キャプチャーUA-4FX

USBオーディオ・キャプチャーUA-4FX

コンピュータで音楽を楽しむコンピュータ・ミュージックが大きな広がりを見せている。
音楽の楽しみ方は人それぞれだが、最も一般的なものは、CDなどあらかじめ作成された音楽コンテンツを何らかのオーディオ機器で聴いて楽しむというものだ。インターネットが普及した今、ネット経由で楽曲をダウンロードすることがごく一般的になり、パソコン活用による大容量ライブラリーや検索システムなど、音楽コンテンツの入手方法は大きく広がったが、既存の音楽を聞いて楽しむというスタイルが主流であることには変わりない。
これに対して、音楽を演奏したり、更には新たな音楽を作ったりするポジティブな音楽の楽しみ方については、誰もがその欲求を持ちながらも、習練や音楽的才能が問われることなどが要因となり、いつの時代もユーザ層は限られてきた。デジタル楽器はどれも「簡単演奏」を謳い、コンピュータによる手軽な曲作りなど、デジタル技術の進化が音楽の楽しみ方を広げたとは言え、演奏にしても作曲にしても何らかの習練は不可欠で、コンピュータを利用すれば誰もが作曲家になれると言うわけではない。
ところが数年前から状況が大きく変わり、コンピュータと音楽との新たな関わり方が登場した。その新たな関わり方とは、既存の音楽を自分好みの音に変えるというものである。楽器が演奏できなくても、もちろん作曲の知識など皆無でも、音楽を自分流の音にできる楽しみだ。
セリーヌ・ディオンと曲中でデュエットすることだっていとも簡単にできるし、バックオーケストラの楽器を自由に変えることも可能だ。そしてこのアレンジをCDに録音して楽しむこともできる(著作権に十分な配慮をしなくてはいけないのは言うまでもない)。音楽は大好きだが、新たに作曲することなど不可能に近いという人でも、既にある音楽を自分好みの音にアレンジすることならできる。
この「音楽を自分好みの音にアレンジする」ための機器が「オーディオ・キャプチャー」であり、ここ数年の高性能・低価格化により急成長を遂げている商品だ。
「オーディオ・キャプチャー」を一言で言うと、レコードやカセット、その他さまざまなメディアから入手する音楽コンテンツをユーザがコンピュータへ自由に取り込んで編集ソフトで加工するための機器だ。
このオーディオ・キャプチャーは、自分で一から作曲することが目的ではなく、さまざまな音楽コンテンツを加工・編集することで自分だけのオリジナルサウンドを作って楽しむことが最大の目的だ。

ツマミを回すだけの簡単操作がポイント

ローランドのEDIROL「UA-4FX」を例にとると、アナログ入出力、デジタル入出力、マイク/ギター入力、音質補正(エフェクト)、MIDI機器接続などの機能を持つ。ポイントとなる音質補正には、3系統(取り込みサウンドを高音質に/オーディオを楽しむ/音の変化を楽しむ)12種類の機能を持つ。「さまざまな音質変化はもちろん、バックオーケストラはそのままにボーカル音声だけを小さくして自分の声に入れ替えたり、カセットテープやレコードなどの劣化した音もクリアなサウンドとして蘇らせたりするなど、自分の思い通りにカスタマイズすることによって、新たな音楽の楽しみを味わえる機器」(ローランド営業企画部係長・蓑輪雅弘氏)として位置づけている。
例えば、ボーカルを小さくする仕組みについて説明しよう。通常の曲ではボーカルを目立たせるようにステレオサウンドの中央にボーカルを位置づけているが、これを利用してステレオサウンドの中央部分の音を抑える(センターキャンセル)ことによってボーカルを小さくすることができるのだ。また利用頻度の高いエフェクト(効果音)機能としてリバーブ(残響音調整)があるが、これはカラオケにおけるエコーの役割を果たすもので、センターキャンセルと組み合わせれば、既存の楽曲をカラオケとして利用することもできる。
オーディオ・キャプチャーが一般ユーザに普及するようになった重要なポイントが「誰もが使える簡単な操作性」だ。これまでのシンセサイザーや各種インターフェースなど音楽用デジタル機器を使いこなすのは音楽の素人にとって極めて難しい。ギターやトランペットを演奏できる人でも、演奏データを取り込んで他の音楽データと融合するとなると簡単ではない。楽器演奏のデジタル処理はプロのミュージシャンには必須の作業だが、素人にはまだまだハードルが高いのだ。しかしUA-4FXでは、4つの音質補正用つまみに3つのボリュームつまみ(ギター・マイク、入力、出力)があるだけで、誰もが簡単に操作できることが大きな魅力だ。
そしてこのオーディオ・キャプチャーがターゲットをデジタル音楽の入門者に置いたことによって、「作曲や演奏はプロに任せて自分はもっぱら好みの音づくりで楽しむ」という新たなユーザ層を開拓した。更に、使いやすい機器はアマ・プロを問わず人気がある様子で、最近はプロユースでも使われているという。

 
 
 
  コンピュータと音楽の関わり
 

このようにオーディオ・キャプチャーの普及が音楽の世界を大きく広げることになったが、これを支えるのがコンピュータの進化であることは言うまでもない。
音楽とコンピュータの関わりは1960年代末のシンセサイザーの登場に始まり、以後デジタル楽器としてシンセサイザーは大きな進化を遂げる。シンセサイザーと言えば日本での元祖の富田勲をはじめ、喜多郎や坂本龍一らが使う大規模な装置を思い浮かべる人も多いが、シンセサイザーは機能さえあれば固有の形は必ずしも必要ではない。デジタル楽器としてのシンセサイザーの本質は、あくまでも音を合成し生成するデジタル処理にあるので、この処理さえできれば良いのだ。つまりライブ演奏ではなく、音楽制作という点では必ずしもシンセサイザーという目に見える楽器である必要はないので、ソフトさえあれば形はパソコンでも一向に構わない。最近のパソコンは、そこそこのシンセサイザー機能であれば充分にカバーできるCPUパワーを持つようになった。

 
ソフトシンセ Pentagon

ソフトシンセ Pentagon

 
ソフトシンセ TTS1

ソフトシンセ TTS1

パソコンの能力ではシンセサイザー機能をソフトで実現することは難しかった時代の1988(昭和63)年、ローランドがパソコンを使った卓上型のデスクトップミュージック(DTM)「ミュージくん」を発売した。音を生成するシンセサイザー機能については既存のハード音源「MT-32」を採用、これを制御して曲作りを行う機能をパソコン・ソフトとして提供、これらを組み合わせたセット商品として世界初のDTMを実現した。シンセサイザー機能として既存の人気音源を組み込むというデジタル楽器メーカーならではの戦略が効を奏し、DTMは当時のパソコン・ユーザから大きな評価を得ることとなり、このシリーズは後継機種に受け継がれてDTMという言葉も次第に定着するようになる。しかしこの時代のDTMとは、作曲を手軽に効率的に行うためにパソコンを利用するというもので、主力対象はあくまでもパソコン・ユーザであり、手軽に音楽を楽しみたいという一般消費者にはやはりハードルの高い商品だった。
しかしその後のパソコンの進化は言うまでもなく、DTMなどコンシューマ向けのシンセサイザーについてはソフト化が主流になる。シンセサイザーのソフト化はコスト面で圧倒的に有利であることに加えて、環境変化への対応や機能追加が簡単なことから、普及型シンセサイザー需要の多くがソフト化への道を辿った。
ちなみに現在の主流OSであるWindowsXPにも簡単なソフトシンセサイザーが標準搭載されており、「Microsoft GS Wavetable Synth」というプログラム名を知る人もいるはずだ。この「Microsoft GS Wavetabable Synth」が内臓する音データはローランドが提供しており、その旨がバージョン情報にも表示されている。

 
 
 
  iPodユーザの関心が高まる
 
箕輪雅弘氏

お話を伺ったローランド営業企画部・蓑輪雅弘氏

コンピュータ・ミュージックに大きな変化が生じるのは、iPodに代表される携帯オーディオプレーヤーが普及し始めた時期(2002年頃)と一致する。
周知のようにiPodの普及は一時期のウォークマンをはるかに凌ぐ勢いで、その成長は現在もなお続いている。しかしiPodが普及するにつれて、「聴くだけではもの足りないユーザ層」も増えてくる。
「iPodなどのデジタル・オーディオ・プレイヤーのユーザ全体から見ればまだ一握りに過ぎませんが、これだけ携帯オーディオプレーヤーが普及すれば、自分好みの音で聴きたいという要望が出てくるのは当然です」(蓑輪氏)というように、音楽に新たな楽しみを見つけようとするユーザが出てきたのだ。周知のようにiPodは音楽コンテンツの入力にパソコンを利用する。つまりiPodユーザのほとんどはパソコンを保有しているだけに、USB機器への親しみも強く、オーディオからコンピュータ・ミュージックへの移行にも抵抗感が少ないという特徴がある。
「聴く楽しみ、演奏する楽しみ、自分で曲を作る楽しみという音楽の3種類の基本的な楽しみに比較すると、USBオーディオ・キャプチャーによる楽しみは、それぞれの隙間を埋めるような楽しみ方、つまり従来にはない新たな音楽の楽しみ方ではないでしょうか」というのが蓑輪氏の指摘だ。「音楽を単に聴くだけではなく、かと言ってピアノやギターを練習するのではなく、ましてや自分で作曲するわけでもありません。楽器を練習することなく演奏に参加でき、作曲など難しいことを考えずに自分がイメージする音を作り上げることができるのです」。

Virtual Sound Canvas

Virtual Sound Canvas

このようにパソコンで音楽を楽しむ事は一般的になってきているが、正直なところ、その音質に関しては決して高いとは言えない。その理由は、パソコンに標準で搭載されているオーディオ機能がオマケ的な位置づけで、音質を追求したものではないから当然とも言える。
しかしこれはパソコンに内蔵されたオーディオ機能が低いということであり、オーディオ・キャプチャーのような機器を接続することによってパソコンのオーディオ機能は飛躍的に向上する。録音機能一つを例にとっても、CDなどのオーディオ機器の標準が16ビット対応であるのに対して、「UA-4FX」では24ビット対応と、CDに比較して実に256倍のなめらかな音質が楽しめる。このようにCDやiPodよりはるかに高い音質で音楽が楽しめることに加えて、誰もが音楽に積極的に参加できるという楽しみは、オーディオ・キャプチャーによるコンピュータ・ミュージックならではの世界だ。
更にUA-4FXには「VSC(Virtual Sound Canvas)というソフトシンセサイザーが標準搭載 (Windows版) されており、音楽制作を始めるきっかけ作りに一役買っている。

 
 
 
  新たな音楽の楽しみを創る
 
24ビットハンディレコーダーR-09

24ビットWAVE/MP3レコーダーR-09

コンピュータと音楽との新たな楽しみ方を提供したことによって、オーディオ・キャプチャーは、パソコンと同様に普及が進んでいる。またローランドは、どこでも簡単に高音質の音楽を録音できる24ビットの高音質WAVE/MP3レーコーダー「R-09」を今年4月に発売するなど、この世界を更に拡大するための商品の品揃えを進めている。
とは言え、音楽はあくまでも趣味の世界。最近の若者に高音質にこだわるファンは少なく、現在のオーディオ・キャプチャーユーザ層の多くが、35歳以上のオーディオファンで占められていることは事実だ。
「デジタル・オーディオ・プレイヤーは従来のオーディオファンとは無縁のユーザ層を開拓したところに大きな意味があります。オーディオ・キャプチャーが提供する新たな音楽の楽しみ方についても、デジタル・オーディオ・プレイヤーのユーザ層への認知度を高めることによって、若者層へとユーザ層が広がることを期待しています(蓑輪氏)」。
現在各社が投入するオーディオ・キャプチャーの実勢価格は1万円台で、デジタル・オーディオ・プレイヤーと比較しても充分に普及できそうな価格帯に入っている。「聴くだけの世界から参加する世界」へと若いデジタル・オーディオ・プレイヤー・ユーザを導くことができるかどうか、コンピュータで楽しむ音楽の新たなチャレンジはこれからが本番だ。

取材協力:ローランド株式会社(http://www.roland.co.jp

 
 
坂本剛 0007 D.O.B 1971.10.28
調査報告書 ファイルナンバー004 コンピュータが実現!音楽の新たな楽しみ
イラスト/小湊好治 Top of the page

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