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新IT大捜査線 特命捜査 第8号 株式とIT「インターネット社会とオンライン取引」
 
  金融ビッグバンによる自由化がきっかけ
 
  口座数 増減
1999年 10月 296,941  
2000年 3月 746,456 449,515
9月 1,325,795 579,339
2001年 3月 1,933,762 607,967
9月 2,481,724 547,962
2002年 3月 3,092,227 610,503
9月 3,552,991 460,764
2003年 3月 3,921,114 368,123
9月 4,248,812 327,698
2004年 3月 4,955,151 706,339
9月 5,815,291 860,140
2005年 3月 6,943,678 1,128,387
9月 7,909,320 965,642
2006年 3月 10,003,099 2,093,779
9月 10,933,480 930,381

インターネット取引口座数の変化
出典:「インターネット取引に関する調査結果(平成18年9月末)」(日本証券業協会)

お話を伺った松井証券総務企画部・能登啓範課長

お話を伺った松井証券総務企画部・能登啓範課長

インターネットの普及によって変化を受けた仕組みの中でも、最も大きな変化を遂げたのが株取引だ。インターネットで株式が売買できるようになってから、株取引における個人投資家の数は急増し、一日のうちに何度も売り買いを繰り返すデイトレーダーと呼ばれる人々も話題を集めるようになった。日本のオンライン取引口座数は今年9月末で延べ1093万口座となり、延べ数では成人の10人に1人がオンライン口座を持つ計算になる。一般のビジネスマンにとっても自社の株価は気になるところで、株は買わなくとも相場の概況くらいは知らないとビジネスにも支障をきたす時代になった。しかし一方では「株とは所詮博打」という認識が未だに残っていることも事実で、株の買占めなどがマスコミを賑わすにつれ、額に汗して働く一般庶民には無縁の世界のようにも見える。
果たしてオンライン取引によって、株取引の何が変わり、ユーザを増やすきっかけとなったのか。

株のオンライン取引は、1995年頃米国で開始された後、他国にも広がった。日本では1998年に松井証券がオンライン取引を本格化してから火がつき、証券会社に加えて異業種参入組が一斉にオンライン取引に参入した。
日本でオンライン取引が一気に立ち上がったのは「一般家庭へのインターネット普及に加えて、1999年に行われた株式手数料の自由化、登録制による証券会社の新規参入という3つの要因」 (松井証券総務企画部・能登啓範課長)が大きかったとされている。


10年前との株式売買代金(フロー)の比較

10年前との株式売買代金(フロー)の比較
出典:東京証券取引所統計資料 ※三市場(東京・大阪・名古屋)の売買代金

このうち、一般家庭へのインターネット普及は当然の流れとして、手数料の自由化と証券会社の登録制への移行は、1996年から開始された日本の金融自由化政策(金融ビッグバン)によるものだ。つまり日本におけるオンライン取引の普及の背景には、フリー(自由化)、フェア(公正化)、グローバル(国際化)という三本柱を掲げた金融システム改革を進めようとする日本政府の強い意思があった。さまざまなネット取引の中でもオンライン取引が突出した成長を遂げたのは理由のないことではない。
株の手数料については、自由化前は約定代金(売買代金)に対して一律1.15%に定められていた。100万円を超えると徐々にディスカウント幅が大きくなる仕組みだが、1.15%という手数料率は1975年に手数料が自由化されていたアメリカなどと比べた場合、とても高い水準だった。この高い手数料が一般ビジネスマンにとっては株への高いハードルとなり、一方、証券会社にとっては莫大な利益の源泉でもあった。しかし自由化によって手数料は大きく下がった。その後オンライン取引における手数料は下落の一途を辿り、一日の約定代金が10万円までは手数料が無料という証券会社も現れるようになった。すべてがネット上で完結するオンライン取引にとって、安い手数料は顧客獲得の最大の武器であり、オンライン証券各社は厳しい戦いを繰り広げている。

個人投資家売買に占めるオンライン取引は9割超

個人投資家売買に占めるオンライン取引は9割超
出典:「インターネット取引に関する調査結果(平成18年9月末)」(日本証券業協会)、東京証券取引所統計資料

オンライン取引によって個人投資家は急増した。現時点ですでに個人投資家による株取引全体に占めるオンライン取引の比率は90%を超え、株取引はオンライン全盛の時代になった。「ピーク時には松井証券だけでも月間4万口座を超える伸びを見せ、昨年度の1年間で口座数はほぼ倍増」するなど、オンライン取引は今も着々とユーザ数を増やしている。

日本でまだオンライン取引がなかった1995年と2005年を比較すると、総売買代金は約200兆円から約900兆円と4.5倍に増えており、個人投資家の売買代金は約8倍に増えている。

 
 
 
  個人投資家の自由度が飛躍的に高まる
 
豊富な情報を発信するオンライン証券

豊富な情報を発信するオンライン証券

オンライン取引とは、従来の株取引が人経由ではなくパソコン経由になるだけの話だが、オンライン取引によって個人投資家の数は桁違いに増えた。ではオンライン化によって株取引の何が変化したのか。
その答えは「個人投資家の自由度が飛躍的に高まったこと」にあるというのが能登氏の指摘だ。対面営業であろうと、電話注文であろうと、オンライン取引であろうと、株取引そのものには何の変化もない。元金が保障されないハイリスク・ハイリターンの投資であるという本質も同じで、株価が高いときもあれば、低い時もある。
しかしオンライン取引によって「株取引への敷居が一気に低くなりました」。売るタイミングや銘柄の選定その他、株の世界はなかなかに難しそうだが、経済の動向や国際情勢にも深く絡むだけに関心を抱く人は多い。しかし従来の対面営業では、いかに小額購入が可能にはなっても、あまり小額では相手に悪いし恥ずかしい。小額を頻繁に売買するのも気が引ける。電話注文でも同じことで、人と人の対話を前提とした注文では、これから株取引を覚えようとする初心者にとっては気が重い。
しかしパソコンが相手だと、たとえ1万円の取引でも嫌な顔をされるわけでもないし、空いた時間に何度でも取引できる。誰にも気兼ねなく手軽にできるなら株取引を始めたいという潜在投資家は意外に多く、これらがオンライン取引に大量に流れ込んだ。人を介さないオンライン取引は、証券会社にとってはコストの削減となり、個人投資家にとっては選択の自由度が高まる。人間が介入する余地のない冷徹なITシステムが、株取引では人に大きな自由度を与えていることになる。一日に何度も頻繁に売買を繰り返すデイトレーダーの登場も、オンライン取引なくしてはありえない。

個人投資家にとって大きな魅力が、情報が豊富に入手できることである。株価のリアルタイムな把握はもちろん、株価分析に必要なチャートやグラフがオンライン証券から豊富に提供される。これらの情報をどのように活用するかはユーザ次第だが、「従来はプロの投資家だけが入手できた情報が、今や誰でも手に入る」時代になった。勝ち負けはともかくとして、プロ並みの情報がいつでも入手できることも、個人投資家にとっては大きな魅力だ。オンライン取引が株式市場に与えた大きな恩恵が、株価の適正化だ。

オンライン取引の登場によって個人投資家の数が飛躍的に増えると、株価が適正になるという。つまり「市場参加者の数が増えれば増えるほど、流動性が増し株価は適正な価格に近づきます。逆に、市場参加者の数が少なければ株価が一方向に偏ってしまう可能性が高まります。その意味で、オンライン取引によって市場参加者が増えたことは株式市場全体にとっても大きなプラスとなりました。」

 
 
 
  自己責任による取引でトラブル激減
 

ここでオンライン取引の仕組みを見てみよう。
オンライン取引を始めるには、いずれかのオンライン証券会社に口座を開く必要がある。証券会社のホームページから申込書の送付を依頼すると、2〜3日で申込書が郵送されてくる。つまり最初の申し込みは書類で行う。これに必要事項を記入して返送すると、IDとパスワードが郵送で通知される。このIDとパスワードを使ってオンライン取引を開始する。オンライン取引は人手を介さないので、株購入用の資金は先に入金しておく必要があり、証券会社が指定する銀行口座に入金する。
さて手数料だが、松井証券の場合は、一日の約定代金のトータルが10万円以下なら無料。30万円までが315円、50万円まで525円、100万円まで1,050円で、100万円増えるごとに1,050円ずつ増えていく。この手数料は「おおまかに言って自由化前の約10分の1」で、各社ほぼ似通った数字だ。10万円までを無料にしたのは、初心者層に対して参入の敷居を下げることが目的だが、これを目当てに参加する人も多いという。松井証券の手数料は小口の投資家にも配慮したものだが、各証券会社によって方向性は異なる。

ピーク時の安定稼動が前提となるオンライン取引の画面

ピーク時の安定稼動が前提となるオンライン取引の画面

ユーザはIDとパスワードでログイン、必要事項をすべて入力して確認ボタンを押すと、注文内容が表示される。その注文内容を確認したのち発注ボタンを押すと、買いと売りの注文が対当した場合は売買が成立する。顧客が出した注文はオンライン証券のサーバに入り、取引時間内であればただちに取引所のサーバに送信される。
このように取引時間内であれば注文の発注から執行までオンライン上で一瞬にして行われるので、投資家としては自分のパソコンがあたかも市場に直結しているような感覚だが、実際には取次ぎを行う証券会社のサーバが介在する。
2005年に東京証券取引所のサーバダウンが話題となったが、各証券会社においてもサーバのダウンは致命傷となるため、容量拡大と安全性の確保が大前提となる。松井証券では、2006年2月から段階的にキャパシティを従来の4倍に引き上げた。それまでのサーバ能力では1日に30万注文が上限であったが、現在は120万注文まで可能になった。「いつ相場が活性化して注文がピークになるかという正確な予測など不可能なので、ピーク時のキャパシティを大きくすることがほとんど唯一の対処法」ということで、絶え間ないサーバの能力アップがオンライン証券各社の大きな課題となっている。

さて注文が約定しなかった場合、その日で注文を終わるか、1週間その注文を生かしておくかはユーザが選択する。これらの指示においてもオンライン取引ではあくまでも自己責任であり、対面営業に比較してトラブルが激減した。大切なお金が動く株の世界では、言葉の伝達ミスは大きなトラブルに発展することもあったという。しかし自分ですべてを入力するオンライン取引ではこの種のトラブルは皆無になったという。

オンライン取引とはいえコールセンターは充実している

オンライン取引とはいえコールセンターは充実している

手数料が1.15%であった時代の証券会社の利益は膨大なものであったが、では手数料が当時から10分の1以下に下がったオンライン証券各社の利益はどうだろう。
従業員数が112名の松井証券の場合、2006年3月期の売上が570億円に対して経常利益が371億円、売上に対する経常利益率は実に65%と、少人数体制で他の業界では考えられない利益を上げている。オンライン証券にもさまざまな企業があり、また相場にも左右されるとは言え、こと収益という面では他産業では到底考えられない数値であることは確かだ。手数料が10分の1以下になったとは言え、システム投資以外のコストが極めて小さい高収益の企業体質はオンライン証券ならではのものだろう。ユーザにとっては望みの取引ができてしかも手数料は安い、オンライン証券にとっては低コストで高収益という、現在のところ両者ともにメリットの高いWinWinの関係にある。

松井証券の口座数は現在約64万(2006年11月末)。口座数トップのSBIイー・トレード証券が約134万(同)。この2社を含むネット専業大手5社で約387万口座(同)、ネット取引口座トータルで1093万(2006年9月末)という数字は、今後まだまだ伸びることは間違いない。貯蓄とは違ってあくまで元金が保障されない投資でありながらのオンライン取引の急速な普及は、ITの社会への影響力の大きさを感じさせる。

取材協力:松井証券株式会社(http://www.matsui.co.jp

 
 
神山恭子 0012 D.O.B 1966.7.3
調査報告書 ファイルナンバー008 ITと株式「インターネット社会とオンライン取引」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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