問題は、実際の空間をインターネットの世界に取り込むための方法だ。
この問題について「文字や画像情報についてはWWWが大成功を納めているのだから、同じ方法を空間にも応用すればどうか」と考えたのが大阪市立大学都市研究プラザの森洋久助教授だ。空間を難しく考えず、地図や写真、文献その他、私達が生きる空間のさまざまな要素を片端から取り込んでいくことによって、インターネットに空間的な奥行きを持たせるというプロジェクトは「GLOBALBASE」と呼ばれ、まだ研究者が中心ながら、ユーザ層は世界的な広がりを見せている。
では「実際の空間をインターネットに取り込む」にはどうすればよいのかというと、実は極めて簡単だ。「GLOBALBASE」で用意したツールを使って自分の周りの空間情報をただ入力していくだけでよい。他の空間情報との関わりを意識することなく、そのまま放り込んでいけばよい。自分の住む家の間取りをそのまま入力したり、自分の家の周りを写真にとってこれを入力すれば、これらが空間情報となる。素材の位置関係など難しいことは一切意識する必要はない。余力があれば、好みの地図情報や古地図など、どんどん入力していくことによって空間情報は更に奥深いものになる。
「空間情報の取り込み」そのものは簡単だが、「まず個人の生活範囲を空間情報の原点として、これにさまざな空間情報を随時組み合わせることで、望む空間を構築することができます」。とは森助教授。地図帳でもWeb地図でも、私達が地図を利用する際には必ず縮尺があり、この縮尺率が低いほどより詳しい地図になる。しかしいくら詳しい地図であっても、自宅の入り口や裏庭など個人レベルの空間情報が入る余地はないし、部屋の中や個人の机の中などの個人的な情報など言わずもがな。自分の机の引き出しの中は確かに空間情報であっても、一般人の感覚では地図情報ではない。
しかしこのような常識を破って、手のひらの上の小さな空間から、地球レベルを超えて太陽系、更には銀河系へと空間を広げていくのが空間情報システム「GLOBALBASE」だ。各人が入力して公開した空間のすべての要素がいつでも自由に利用できるので、「自分の引き出しの中からスタートして次第に空間を広げ、やがて日本列島が見え、地球が見え、宇宙が見えることになります」というのは決して誇張ではない。
個人宅レベルから全地球レベルまで柔軟に拡大・縮小して空間を楽しむという意味では、Googleが2005年6月からサービスを開始したバーチャル地球儀「GoogleEarth」と表現的には極めて近い。しかし「GoogleEarth」のコンテンツがあくまでもGoogleという主催者によって提供される一方通行であるのに対して、「GLOBALBASE」のコンテンツはユーザによって提供されることが基本だ。つまり、ユーザが増えるほどコンテンツが充実し利用価値が高まる。これが、何十億という個人空間をカバーする唯一の方法であり、頻繁に情報を更新する唯一の方法でもあるように見える。
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GLOBALBASEネットワークは日本から世界に広がる |
このように一見、夢を語るような「GLOBALBASE」が、現実的なプロジェクトとして注目を集めるのは、「今後のインターネット活用で最も期待される分野」であるからだ。現在のWeb地図は紙の地図をデジタル化したものだけに、いくらGIS機能を付加してもその情報量にはおのずと限界がある。WWWによって世界中が結ばれている時代に、広さと高さと時間を持つ空間情報だけはなかなか結びつけることは難しかった。しかし「GLOBALBASE」を利用することによってそれが可能になる。空間情報の一つである地図情報一つをとっても、世界のあらゆる場所に散在している情報が一つに結ばれるという意味は大きい。 |