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新IT大捜査線 特命捜査 第11号 デジカメ「デジカメの進化はどこまで?」
 
  デジカメが新たな世界を切り開く
 
今年2月にキヤノンが発売した新商品ラインナップ
今年2月にキヤノンが発表した新商品ラインナップ

デジカメの進化が目覚しい。一家に一台の時代は過ぎて一人に一台の時代になったデジカメだが、新製品の投入は相変わらず活発で、1年経つと旧機種になる状況が続いている。今年に入って発売された新製品では、コンパクトデジカメでも画素数は700万画素が一般的になり、1000万画素も珍しくなくなった。画素数だけでなく、画像処理や画像転送速度、手ぶれ防止機能など、使いやすくメリットのある機能がどんどん強化され、進化スピードは更に速くなっている。この3月に開催された米国最大のカメラショウ「PMA2007」でも、大型一眼レフからコンパクトタイプに至るまで、すべてのデジカメ分野での大きな成長が明らかになった。

従来の銀塩フィルムカメラが、フィルムに画像を映すのに対して、デジカメはCCDなどのイメージセンサに画像を映すという基本的な違いはよく知られている。フィルムの場合、光が当たった部分が化学変化を起こして画像となるが、イメージセンサの場合は、光が当たった部分が電気信号を発生する。そもそもデジカメが実用化されるようになった理由も、コンピュータへの直接入力が目的で、この電気信号をデジタル化すればそれが可能になる。しかしデジカメが商品化され進化するにつれて、従来のフィルムにはないイメージセンサのメリットが明らかになり、デジカメの運命も大きく変わっていく。

PowerShot600
キヤノンが1996年に発売したPowerShot600は57万画素。この頃から高画素競争が始まった

光を電気信号に変換することがイメージセンサの役割だが、変換した電気信号を送り出せばイメージセンサはすぐにもとの状態に戻る。半永久的に使用できるイメージセンサと、消耗品であるフィルムとの違いは明らかで、イメージセンサは、感光を受け持つパーツとしてデジカメに組み込まれることになる。銀塩フィルムカメラでは、写真の2大要素である、光をフィルム表面に映す機能と、映像を再現するという機能が、カメラ本体とフィルムによって分担されている。しかしデジカメが登場してフィルムがイメージセンサに置き換わると、光の入力から画像の再生まですべてがデジカメの役割になる。
2000年以前のコンパクトデジカメのイメージセンサは、フィルムで描画されていた画像の精細度に比較してはるかに劣っていた。そこでまず精細度をどこまでフィルムに近づけるかが重要なテーマとなり、イメージセンサの精細度つまり画素数が、デジカメの能力を判断する大きなモノサシとなった。周知のように写真は、映像がくっきりと鮮明に映ることが基本だ。ボケ味の魅力なども、シャープな描画があってこその話で、こと描画能力を考えるなら、精細度は高ければ高いほど良い。

COOLPIX900
ニコンが1998年に発売したCOOLPIX900は140万画素。光学3倍ズームレンズ搭載で11万円だった

ここで画素数の変遷を見ると、デジカメ普及のきっかけとなった1995年のカシオ計算機の普及型デジカメ「QV-10」は25万画素(1/5インチCCD)で登場した。その翌年には富士写真フイルムが35万画素の「CLIPT-IT DS-7」を投入、同年7月にはキヤノンが57万画素の「PowerShot600」を、同年10月にオリンパスが81万画素の「CAMEDIA C-800L」を投入、この頃からデジカメはCCDの高画素競争に突入する。そして翌1997年にオリンパスが2/3インチサイズの140万画素CCD搭載機種を発売、これがプロカメラマンからも高い評価を得て、それまでプロの目からはオモチャに過ぎなかったデジカメの見方が一変した。当時はADSLによるブロードバンドの普及と時期が重なったこともあって、たちまちインターネットの世界でデジカメ画像が氾濫するようになった。その後のデジカメの普及は言うまでもなく、今やフィルムを凌駕する高画質がごく一般的になった。もはやデジカメの画像が粗いとは感じる人はいないだろう。

 
 
 
  画素数はまだまだ伸びる
 

ではこの画素数は今後どこまで伸びるのか、これがユーザの大きな関心だ。画素数の予測については「今後も伸びることは間違いありませんが、どこまで伸びるかは全く予測できません」(キャノン広報部・天野真一氏)というのが各メーカーに共通した声だが、これは企業秘密だから言わないのではなく、実際のところ予測は難しいというのが本音だろう。コンパクトデジカメでも200万画素が一般的になった2000年頃、「せいぜい葉書サイズの大きさで見る写真を一般ユーザが撮るなら200万画素で充分」という説明をカメラメーカーなどからよく耳にしたものだ。そのメーカーがなぜ今は1000万画素なのかというと、「高画素のメリットを充分に発揮できるような方向にデジカメが進化した」(キヤノン広報部・天野氏)からだ。
画質を考えると高ければ高いほど良いはずの画素数だが、なぜ200万画素上限説が出たかというと、それ以上は実用上意味がないと思われていたからだ。手ぶれやピントなどカメラ操作の基本をマスターしてこそ高画素が生きるのであり、これらの基本をないがしろにしているようでは100万画素でも400万画素でも同じ、ということで、これは今でも正論だろう。
身体から離して撮るコンパクトデジカメでは、三脚を使わない限り手ぶれを防ぐことは難しいし、オートフォーカスの精度にも限度がある。このようにデジカメを使用する環境や基本機能を考えると、当時のデジカメでは、200万画素でも400万画素でも実際の画像の出来上がりにほとんど違いが認められなかったことは事実だ。

 
 
 
  高画素を活かすための工夫
 
IXY DIGITAL 90

今年3月にキヤノンが発売した沈胴式光学3倍ズームコンパクトデジカメ『IXY DIGITAL 90』は710万画素

しかしオートフォーカスの性能が上がり、手ぶれ防止機能が付加されるようになって状況は変わってきた。手ぶれがなくしかもシャープなピントで誰でも写せるようになると、やはり豊富な画素数がモノをいう。あまり画素数が高いとメモリへの転送に時間がかかるという問題も、メモリそのものの高速化や転送技術の工夫によってどんどん解決されていった。最近は手ぶれ防止機能がコンパクトデジカメでも常識となりつつあるが、これは単に使い易さを求めるという操作性の問題だけではなく、高画素の威力をフルに発揮させるための工夫という見方が正しい。
今年のコンパクトデジカメの主流の700万画素という数字は、2年前までコンパクトカメラの上限の目安とされていた500万画素を優に上回るものだ。画素数の限りない向上は、デジカメメーカー各社の引くに引けない競合にも原因があることは確かだが、「画面の特定部分だけををクローズアップするというトリミング需要が増えています」(キヤノン広報部・矢口真由子氏)というように、最近はユーザ側で高画素を上手に利用するようになってきたことも事実だ。画素を活かす環境さえ整えば高画素は決して邪魔にはならないはずで、CCDの微細化が続く限り、コンパクトデジカメの高画素化も永遠に続くだろう。すでに1000万画素を超えた今、今後は数千万画素というハイレベルの戦いが繰り広げられることになる。

 
 
 
  イメージセンサの大きさが違う
 
D1
EOS-1D MarkV

ニコンが1999年に発売した一眼レフデジカメ『D1』は、174万画素ながら素晴らしい描画力を発揮した

キヤノンのプロ用一眼レフデジカメ『EOS-1D MarkV』はAPS-HサイズのCMOSイメージセンサを採用

さて2000年以前は一部のプロカメラマン需要に限定されていた一眼レフデジカメも、最近の価格低下によって一般ユーザにも身近なカメラになった。デジカメの2006年の世界出荷を見ても、レンズ一体型のコンパクトデジカメが6836万9千台の前年比12.1%増なのに対して、レンズ交換式一眼レフが459万7千台と同21.3%増となっている(カメラ映像機器工業会調査)。キヤノンを例にとると、2006年はコンパクトデジカメ1860万台出荷に対して一眼レフデジカメは250万台と、デジカメ出荷台数の12%が一眼レフデジカメとなった。
ではコンパクトデジカメと一眼レフデジカメとはどこが違うのか。「まず第一にイメージセンサの大きさが違います」(キヤノン広報部・天野氏)というのがその答えだ。

イメージセンサーの面積が大きければ同じ画素数でも画質は向上する

イメージセンサの面積が大きければ同じ画素数でも画質は向上する

     
APS-C(22mm×15mm)
APS-H(29mm×19mm)
APS-H(29mm×19mm)

一眼レフデジカメのイメージセンサの大きさ

 
キヤノンの高速8チャンネル並行読みだし技術

ニコンのD200画像処理システム

ニコンのD200画像処理システム

キヤノンの高速8チャンネル並行読みだし技術

同じ画素数であっても、イメージセンサが大きけれは、センサを作っている一つ一つの「粒」の面積も広くなり光を充分にキャッチすることができる。一眼レフのイメージセンサには、35mmフィルムと全く同じサイズの24mm×36mm(フルサイズ)、19mm×29mm(APS-Hサイズ)、15mm×23mm(APS-Cサイズ)の3タイプがある。この中で最も小さいAPS-Cサイズでも、一般的なコンパクトデジカメで使用される1/1.8インチサイズ(5mm×7mm)と比べると面積にして約10倍の広さがある。画素数が低い一眼レフデジカメが、画素数の高いコンパクトデジカメよりも高画質であるのは、レンズの能力差とともに、イメージセンサの面積差によるところが大きい。

しかし大きいイメージセンサに画像を投影するには、当然のことながらレンズの焦点距離も長くなるので、カメラ全体として大型になるのはやむを得ない。
銀塩フィルム時代のコンパクトカメラと一眼レフは、レンズを交換できるか否かが最大の違いであり、使用するフィルムに大きな差はなかった。しかしコンパクトデジカメと一眼レフデジカメでは組み込まれるイメージセンサの質も大きさも違うのだ。これはコンパクトデジカメの機種間についても言えることで、同じ画素数ならイメージセンサが大きいほどきれいな画像になる。イメージセンサも進化が激しく、新型センサが旧型センサより小さくても画質が高いということは充分にあり得るが、少なくとも同時代のイメージセンサで考えれば、大きければ画質も高い。
しかしイメージセンサが単独で力を発揮するわけではない。イメージセンサの能力を存分に発揮するには、膨大な画像信号を高速で読み出す技術に加えて、これらの信号からノイズを除去したり自然な色再現や豊かな階調の画像データに作り上げる画像処理エンジンが必要だ。つまり光の取り入れ口としてのレンズ、光を感じるイメージセンサ、センサからの信号を高速で取り出す転送技術、この信号を画像に作り上げる画像処理エンジンの4要素がともに進化してはじめてデジカメは進化することができる。

 
 
 
  デジカメと携帯電話の融合は難しい
 

デジカメの今後を考える上で重要なテーマが、携帯電話との融合だ。
携帯電話へのデジカメ機能搭載が常識になった2002年頃、コンパクトデジカメはいずれ携帯電話に吸収されるのではないかと予測された時期もあった。2004年には200万画素の携帯電話が登場、携帯電話とコンパクトデジカメはすぐにも融合しそうな勢いだったが、ここ2年の状況を見ると、携帯電話はデジカメ機能の強化にはそれほど熱心ではないように見える。500万画素のデジカメ機能を持つ携帯電話もすでにいくつか発売されてはいるが、デジカメ機能は数多くある機能の一つというアピールで、携帯電話とデジカメを融合しようという意欲はない。
もともとサイズ的に小さい携帯電話にデジカメ機能を盛り込むために、レンズやイメージセンサなどすべてのデジカメパーツの極少化が最優先されるという状況では、進化中のコンパクトデジカメに匹敵する機能を実現することは難しい、という声が技術者の間では強かった。携帯電話のデジカメ機能は確かに便利だが、きちんとした写真を撮るには無理があるというのが多くのユーザの感想だ。この2月にはタムロンが、300万画素オートフォーカス3倍ズーム携帯電話カメラ用レンズユニットを発表して話題になったが、この超小型ユニットを搭載しても、コンパクトデジカメのような画像を期待することは難しい。
「最近のコンパクトデジカメの新規ユーザには、携帯電話のデジカメ機能に飽き足らなくなったという人が増えている」(キヤノン広報部・矢口氏)という。将来的に携帯電話のデジカメ機能とコンパクトカメラが融合する可能性は残っているとしても、現在のデジカメが目指す方向ではないようだ。

 

取材協力:

キヤノン株式会社(http://canon.jp/
株式会社ニコン(http://www.nikon-image.com/

 
 
田島洋一 0010 D.O.B 1976.2.3
調査報告書 ファイルナンバー011 デジカメ「デジカメの進化はどこまで?」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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