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新IT大捜査線 特命捜査 第12号 デジタル放送「デジタル放送で何が変わる?」
 
  テレビの大革命!? デジタル放送へ
 

今から50年以上も前に始まった地上テレビ放送は、カラー化とハイビジョンという2つの大きな進化を遂げてきた。そして第3の大きな進化となるのがデジタル化だ。すでに指摘されているように、デジタル放送は従来のアナログ用受信機そのままでは見ることはできないので、デジタルチューナーを買うか、新たにデジタル用受信機を購入する必要がある。更に放送局側としては、デジタル用の中継局を全国に何千箇所も新設しなければならない。

DPA稲本茂利夫部長
お話を伺った稲本茂利夫氏

このようにデジタルへの移行には視聴側、放送側の双方に新た な出費が必要だが、それでもなお国を挙げてデジタル化を進める理由は何だろう。

テレビ放送のデジタル化による新たなメリットはさまざまに伝えられているが、テレビ放送をデジタル化する大きな理由は、「放送サービスの高度化と電波の有効利用、情報化の恩恵をすべての人に、そして日本経済の活性化」(社団法人デジタル放送推進協会・広報担当専任部長・稲本茂利夫氏)の4点だという。


電波の有効利用1

電波利用は過密状態

この4つの大きな理由の中で、情報インフラ整備の面から日本にとって緊急の課題となっているのが「電波の有効利用」だ。電磁波は一般に周波数の低い(波長の長い)方から順に、電波、光、X線、ガンマ線などと呼ばれている。電波は電磁波の中でも波長が長く、進行方向に多少の障害物があっても進むことができるので、放送や通信など長距離の情報伝達に利用されていることは周知の通りだ。日本の電波法では3000GHz以下の電磁波を電波と定義しているが、実際に放送や通信に使えるのはその中のごく一部の周波数に限られる。技術の進化によって電波の中でも次第に高い周波数帯が利用できるようになってはきたが、実際に利用できるという意味では、もうこれ以上のスキ間がないほど過密状態にあるのが日本の電波状況だ。

 
 
 
  過密な日本の電波状況をデジタルで改善する
 
電波の有効利用2

デジタルにすればチャンネルに余裕ができる

デジタル放送は、このような電波の過密状況を救う解決策の一つとしても注目されている。デジタル化によって放送電波に余裕ができることに加えて、余裕ができた分の周波数帯を他の目的に使うことができるので、電波の過密状態は改善する。話題のハイビジョン放送などは流す情報量が多いだけに、従来のアナログ放送の過密状況の中でハイビジョンチャンネルを増やすことは難しい。過密状態にある電波を有効に活用して今後の時代に備えることは、デジタル放送だけでなく、今後の電波活用の基本となっている。
テレビ放送のデジタル化が、電波の過密状況の救世主とされるのは、テレビ放送が大量の電波資源を使用するメディアだからだ。例えば通常の電話では、周波数の帯域幅が8.5kHzであるのに対し、標準テレビ放送では画像と音声信号を合せて6MHzの帯域幅が必要となる。つまりテレビ放送1チャンネルは、電話1チャンネルの706倍の周波数帯幅が必要になるので、まずこれをデジタル化することが電波の過密改善に大きな効果を発揮する。
また山間部の多い日本でどこの家庭でもテレビが視聴できるようにするためには、中継局を数多く設置する必要がある。アナログ放送では周波数が近いと電波干渉によって見えなくなってしまうこともあるので、周波数を変えて放送するため中継局が数多く必要になり、周波数をたくさん使ってしまうことになる。その結果、「米国に比べて約50倍、欧州で最も過密といわれる英国に比べても約2倍も混み合っている」のが日本の電波状況だ。特にUHFの40チャンネル以上では、同一チャンネルが500〜600の中継局で使われており、混信を避けることが極めて難しい状況となっている。

 
 
 
  ゴーストのない美しい映像の秘密
 
ゴーストなし

ノイズのない美しい画像がデジタル放送の魅力

では放送をデジタル化すればなぜ電波の過密状況が緩和されるのだろう。「信号をデジタル化することによって、きちんと復元できるような情報の圧縮が可能になり、しかも電波同士の干渉という問題を解決できる」というのがその答えだ。
一つの電波で送れる情報量には限りがあるので、番組ごとの情報量を少なくすれば一つの電波で送れる番組数を増やすことができる。情報は圧縮することによって容量を少なくすることができるが、アナログ時代の圧縮とは基本的に情報を取捨選択することなので、いったん圧縮した信号を元通りに復元することは難しい。だからアナログ時代では、画像情報を圧縮すれば確実に画質は劣化した。しかしデジタルだと、情報の内容をそのままに情報量を減らした別のデータに変換することができる。
例えば、ニュース番組を例に説明しよう。スタジオでアナウンサーがニュースを伝えている時、人物の背景となるスタジオ風景はほとんど変化しないので、毎コマごとに送らなくても動画として変化は生じない。しゃべっているアナウンサーについても、口元は常に変化しても身体などはさほど動かないので、動いた部分だけを抽出することによって、動画全体の情報量を圧縮することができる。動いた、動かないの正確な判断は、1か0かのデジタル情報だからこそ可能になる。動きを判断する以外にも、復元可能なさまざまな圧縮技術が開発されており、これがデジタル化の大きなメリットとなっている。

また電波同士の干渉という問題についても、デジタル化することによって大きく改善する。デジタル放送は電波干渉やノイズの影響を受け難く、ゴーストが解消するなどの効果が見込まれている。デジタル信号とは「0」と「1」の組み合わせであり、ノイズの影響を受けて「1」という信号が「1.1」や「1.3」になったとしても、もとの信号は「1」か「0」かのいずれかであることがわかっているので、これらは「1」であると判断できる。だからデジタル信号はノイズの影響を受けることが少なく、高層ビルの影響を受けて電波が反射するような環境でも、画面にゴーストが発生することは少ない。更に隣り合う周波数帯との間にさほどの余裕を持たせなくても、それぞれの電波が相互に干渉し合うことも少ない。

 
 
 
  インターネットとの融合が世界の流れ
 

放送デジタル化のもう一つの大きな目的が「グローバルな通信網であるインターネットとの融合」だ。放送と通信の融合が言われて久しいが、融合がなかなか進まない要因の一つとして挙げられるのが、放送の主力がアナログであったことだ。デジタルを基本とするインターネットの世界と放送が密接に結びつくためには、放送もデジタルであることが求められる。周知のようにインターネットでは全地球レベルで情報が飛び交っており、インターネットの世界を無視して今後の放送は考え難い。事実、デジタル放送で先行する欧米諸国では放送とインターネットの関係はさらに深まり、情報のグローバル化も進んでいる。「放送がアナログのままでは、デジタル情報のグローバル展開が進む世界の趨勢に遅れる」という危機意識が、デジタル放送推進の大きな力になっていることは事実だ。デジタル放送の4つの大きな理由のうち「情報化の恩恵をすべての人に」と「日本経済の活性化」は、放送とインターネットとの融合が前提となっている。

総合首都圏ニュース1

データ放送によりニュースや天気予報などの情報がいつでも見られる

紅白

クイズやアンケートその他の双方向サービスが楽しめる

さて放送のデジタル化によって一般視聴者が得るメリットとしては、先ほどの「ゴーストのない鮮明な画像」に加えて、「16対9のワイド画面によるハイビジョンが楽しめる」、「1チャンネルを分割して2〜3番組を同時に放送できる」、「字幕放送や解説放送など高齢者や障がいのある方へのサービスが充実する」、「データ放送によりニュースや天気予報などの情報がいつでも見られる」、「クイズやアンケートその他の双方向サービスが可能」、「番組表をテレビで見ることができて番組予約が簡単に行える」、「ワンセグ放送を携帯電話で受信して楽しめる」などが主なものだ。

このうち「1チャンネルを分割して2〜3の番組を同時に放送できる」とは、アナログ放送の1チャンネル分の周波数(6MHz)で、標準デジタル放送なら2〜3チャンネル(1チャンネルにつき4セグメント)の放送が可能になるということだ。一つの放送局で同時に3つの番組が流せることがどのようなメリットにつながるのかまだ見えない面はあるが、デジタル化によって電波活用に余裕が生じることの一つの証ではある。

 
 
 
  新たな放送メディアとしてのワンセグ
 
ワンセグ

若者を中心に普及が進むワンセグ携帯。画面は小さくとも鮮明な画像が特徴だ

最近話題を集めているワンセグ放送もその一つだ。日本の地上デジタル放送は、1チャンネルにつき13セグメントで構成する。この13セグメントのうち、デジタルハイビジョンでは1チャンネルで12セグメントを使用し、標準デジタルでは1チャンネルで4セグメントを使用する。つまり標準デジタル放送3チャンネル分でも12セグメントでこと足りるので、各チャンネルでは常に1セグメントの余裕が生じる。この1セグメントを利用して携帯電話などモバイル機器用のデジタル放送を行うのがワンセグ放送で、昨年4月からサービスを開始して約1年、携帯電話の最新機能として順調な成長を遂げている。解像度は、横方向が320ドット、縦方向が180ドットと、縦横比率については16対9のハイビジョンに合わせている。ワンセグで放送されているのは、ハイビジョンによる元映像を、H.264という方式で圧縮したもので、コマ数は15フレーム/秒(一般放送は30フレーム/秒)とし、携帯電話など小画面用の簡易動画となっている。

車載テレビ

ワンセグによって車載テレビも安定した画像で楽しめる

携帯電話の付加機能とは言っても、ワンセグはあくまでも放送なので、通信のような利用料は発生しない(双方向サービスなど通信を利用する場合通信料が発生する)。すでに開始されているワンセグ放送は、基本的に一般のテレビ放送と同じ内容だが、今後は各放送局が独自のコンテンツを流すことも検討されている。携帯電話にとっては、ややブームが過ぎた感のあるカメラ機能にとってかわる新機能として注目を集めており、安定した映像が外出先でも手軽に楽しめることが人気の秘密だ。ワンセグは今のところ話題が先行しているようにも見えるが、ワンセグならではの独自コンテンツをいかに工夫するかが、ワンセグの将来を決定するとも言われている。
携帯電話はiモードの登場によってメール機能が普及してから、情報通信端末として大きな成長を遂げた。今やメール機能のない携帯電話を探すことすら難しく、メールは携帯電話の基本機能として定着した。2000年代に入って急速に普及したカメラ機能も、撮った画像をメールで送信できるメール機能があったからこそ普及した。
メール機能、カメラ機能に次ぐ携帯電話の大きな魅力がワンセグだとの期待は大きい。現在のところデジタル放送による新サービスという話題性ほどには一般消費者の関心は高くないようだが、ワンセグが若者の風俗として定着すれば状況が大きく変わるかも知れない。ワンセグは携帯電話よりもまずカーナビの標準機能として定着するだろうとの見方もあるが、携帯電話とカーナビの出荷台数の圧倒的な違いを考えるなら、ワンセグの本命はやはり携帯電話ということになる。

 
 
 
  電子番組ガイド(EPG)が重要な役割を果たす
 
EPG

番組表をテレビで検索できて番組予約が簡単に行える

放送のデジタル化による視聴者のメリットとして、ゴーストの解消やデジタルハイビジョン以上に私達の生活に密接に関わってくるのが、電子番組ガイド(EPG=Electronic Program Guide)だ。「番組表がテレビ画面上で見られ、1週間先までの番組情報が検索でき、放送時刻の変更があっても視聴予約や録画予約に即対応する」というEPGは、実はデジタル放送の今後を決定するほどの重要な役割を持っている。
デジタル放送には地上デジタル放送以外に、BS(放送衛星)デジタル放送、CS(通信衛星)デジタル放送があり、デジタル化では1996年のCSデジタルや2000年のBSデジタルが先輩格になる。衛星放送のデジタル化も地上放送のデジタル化も本質的には同じことだが、地上放送のデジタル化は、BSデジタル放送のように新しいチャンネルを増やすのではなく、現在のアナログ放送をそのままデジタル信号に置き換えることがまず当面の目標とされている。しかし1チャンネルで複数の番組放送が可能なことや、ワンセグの進化、衛星デジタル放送の普及などを考えると、今後は一般家庭においても多チャンネル化が進むことはまず間違いない。

このように多チャンネル化が進む放送環境の中で、新聞のテレビ欄を見ながらチャンネルを選択するという従来スタイルでは限界がある。すでに多チャンネル化が進行しているケーブルテレビなどでも明らかなように、時間に余裕がある人でも、毎月送られてくる番組表から自分の見たい番組を選択するのは大変な作業だ。
インターネットは検索エンジンが登場してから一般家庭に浸透した。インターネットの家庭普及は常時接続ブロードバンドの低価格化が最大の要因だが、Googleをはじめとする検索エンジンの進化が果たした役割もまた大きい。多チャンネル化するテレビ放送の視聴者にとって、テレビ番組の検索エンジンとなるのがEPGといえる。
検索のキーワード次第では数億のサイトが検索されるWebの世界と、数百せいぜい数千という番組数とでは絶対数が違うことは確かだが、新聞の番組欄の数百というコンテンツの中から実際に選ぶことを考えると、EPGの重要性が理解できる。
ゴーストがなくなり、ハイビジョン画像が更に美しくなり、字幕機能の標準搭載などによって誰もが同じようにテレビを楽しめるということは、デジタル放送の大きなメリットであることは間違いない。しかし一般視聴者に一見関係ないような変化も、実は私達の生活に大きく関わってくる。デジタル放送によって日本の電波環境が改善されれば、携帯電話や無線LANなどの無線環境が従来の制約から解放されて更に進化の可能性が広がるし、インターネットと放送が融合すれば、双方向の新たな放送環境が誰でも使えるようになる。ではこれらが進化することによる具体的なメリットは何かというと、まだ見えていない部分が多いことは事実だ。しかし、はっきりと見えてから着手しているようでは遅過ぎる、というのが、デジタル放送に関する世界共通の認識である。

地デジschedule

日本のアナログテレビ放送は2011年7月24迄に放送を終了する

 

取材協力:

社団法人デジタル放送推進協会(http://www.dpa.or.jp

 
 
坂本剛 0007 D.O.B 1971.10.28
調査報告書 ファイルナンバー012 デジタル放送「デジタル放送で何が変わる?」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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