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新IT大捜査線 特命捜査 第15号 FON(フォン)「世界中で無料のネットアクセスを実現!」
 
  スペインで始まった無線LAN共有サービス
 
「Fonero(フォネロ)」の登録ページ
「Fonero(フォネロ)」の登録ページ

無線LANに接続できる機器が増加中だ。最近のノートパソコンはほとんど無線LAN機能が標準で搭載されているし、ソニーのパーソナルコミュニケーター「mylo」やロジテックのSkype専用電話端末「LAN-WSPH01WH」のように、無線LANでの通信に特化した携帯端末も登場した。また、任天堂の「ニンテンドーDS」や「Wii」、ソニーの「PlayStation 3」や「PSP」といったゲーム機にも無線LAN機能が搭載されており、ネットワークを利用した新しい遊び方が可能になっている。

だが、数年前に比べれば飛躍的に増えたとはいうものの、自宅外で無線LANに接続できる場所はまだまだ限られている。空港やホテル、飲食店などだけでなく、道ばたや住宅街などにも接続エリアが広がって、携帯電話のようにどこでも無線LANに接続できるようになれば、我々の生活はますます便利なものになるはずだ。そして、それを実現するサービスとして期待されているのが、無線LAN共有サービスの「FON(フォン)」だ。

FONは、サービス加入ユーザが自分の無線LANアクセスポイントを他のユーザにも開放することで、相互にアクセスポイントを共有するサービス。創始者はスペインの起業家マーティン・バルサフスキー氏で、2005年11月に最初のサービスがスペインで開始されている。開始直後の06年2月には、検索サービスのGoogleやインターネット電話サービスのSkypeなど、有力企業が1800万ユーロを投資して話題となった。その後、ヨーロッパと米国を中心にユーザ数を増やし、現在では世界約150ヵ国にユーザが存在する。07年7月12日現在のユーザ数(全世界)は42万5,469名で、アクセスポイント数(全世界)は17万8,390箇所に上る。
日本では、06年8月に日本法人のフォン・ジャパン株式会社が設立され、06年12月にサービスが開始された。以来、ユーザ数は順調に伸びており、07年7月12日現在のユーザ数(日本国内)は3万3,824名、アクセスポイント数(日本国内)は1万8,795箇所となっている。

FONに参加するには、自宅がブロードバンドの常時接続環境であることが条件となる。その上で、まずFONのサイトから無料のユーザ登録を済ませ、「Fonero(フォネロ)」と呼ばれるユーザになることが必要だ。ユーザの種類は3種類あり、それぞれ「Linus(ライナス)」「Bill(ビル)」「Alien(エイリアン)」と呼ばれている。
Linusは、自宅にFON専用の無線LANルータ「La Fonera(ラ・フォネラ)」を設置してアクセスポイントを無料開放することを条件に、他ユーザが開放しているアクセスポイントを無料で利用することが可能だ。Billは、La Foneraを自宅に設置してアクセスポイントを有料で開放するが、他ユーザーの開放したアクセスポイントを無料で利用する。Alienはアクセスポイントの開放はせず、他人のアクセスポイントを有料で利用するタイプのユーザだ。
現在、フォン・ジャパンはLinusのサービスのみを提供している。というのも日本では、営利目的で他人にネット回線を提供する者は電気通信事業法の適用を受けるため、Billのサービスを提供するとなると、非常に煩雑で高度な知識を要する手続きをユーザに強いることになる。そのためフォン・ジャパンではこのBillのサービス提供を行なっていない。またAlienは、現在は提供していないが、今年の秋頃にはサービス開始を予定しているそうだ。

 
 
 
  専用の無線LANルータ「La Fonera」を自宅に設置
 
FON専用無線LANルータ「La Fonera」

FON専用無線LANルータ「La Fonera」(税込価格:1980円)

La Foneraは、93.5×25.5×70ミリという手のひらサイズの無線LANルータだ。IEEE 802.11bとIEEE 802.11gという2つの無線LAN通信規格に対応しており、セキュリティーのための暗号方式はWEPとWPA、WPA2に対応する。IEEE 802.11gで接続した場合には、最大で54Mbpsという高速な通信が可能だ。フォン・ジャパンのサイト内にある販売ページで購入できるほか、電器店などでも販売されている。
ユーザ登録後は、自宅にLa Foneraを設置してインストールをするのだが、この作業には特に難しい知識は必要としないだろう。まず、現在使用しているルータ(またはADSLモデム)のLANポートと、La FoneraのLANポートをLANケーブルで接続。無線LANに接続できるパソコンでアクセスポイントを探す。La Foneraは2つのSSID(無線LANのネットワークを識別する記号)を持っており、自分向けと他ユーザ向けのネットワークを別々に構築できる。プライベート用の「MyPlace」とパブリック用の「FON_AP」が見つかったら、「FON_AP」に接続してインターネットブラウザを立ち上げる。FONの登録ページが表示されるので、ユーザ登録時に示されたIDとパスワードを使ってログインして、自分のLa Foneraを登録すれば設定は完了だ。

FON専用無線LANルータ「La Fonera」

FONのサービス全体のイメージ図

 
 
 
 
 
FONマップ

FONのアクセスポイントの位置が確認できる「FONマップ」

さて、ここまでFONのサービス概要を見てきたが、FONユーザ(Linus)になることのメリットは大きく2つあると言える。
ひとつは当然ながら、他ユーザのアクセスポイントを利用できるようになることだ。外出先や旅行先などで、インターネットに接続する必要に迫られることは多い。だが、他の公衆無線LANサービスは有料であり、サービス提供エリアも限られている。FONの場合、Linusになっていれば無料で利用が可能な上、他ユーザのアクセスポイントは海外も含めて、文字通り世界中にある。アクセスポイントの場所は、FONのサイトにある「FONマップ」で確認できるが、FONのユーザが世界中にいて、そのどこでも簡単にインターネット接続ができると想像すると、それだけでも妙に楽しい。また、海外旅行の際のホテル選びに活用すれば、大いに役立つことだろう。

もうひとつは、これは見逃されがちだが、自宅内のインターネットアクセス環境を改善できる点も挙げられるだろう。家庭内でネットワークを構築している人は多いが、まだまだLANケーブルを使用した有線のものであるケースも多い。FONのユーザになれば、家庭内ネットワークのワイヤレス化が、安価な設備投資と簡単な設定作業だけで実現できてしまうのだ。なにしろLa Foneraは、1980円(税込)という価格で購入できる。同等程度の機能を持つ他メーカーの無線LANルータが7000〜8000円程度で販売されていることを考えると、これは非常に安い値段だ。1980円でわずらわしいLANケーブルの引き回しとおさらばできるのは、非常に魅力的だろう。

 
 
 
  サービスを支えるのは、ユーザのコミュニティー意識
 
フォン・ジャパン株式会社 チェアマンの千川原智康さん

お話を伺ったフォン・ジャパン株式会社 チェアマンの千川原智康さん

上記で述べたような利便性や経済性以外にも、FONのユーザたちの多くがメリットだと感じている事がある。それは、FONのユーザになることで、グローバルなコミュニティーの一員になれるという点だ。
「創始者のマーティン・バルサフスキーのひらめきからFONは生まれたわけですが、このプロジェクトは最初は『運動』という形で進められました。その後、ユーザが次第に増えていって、ユーザに利便性が高いサービスを提供するために企業となりました。ユーザはFONの掲げる理想に賛同して参加してくれているため、コミュニティーへの参加意識が非常に高く、サービスの多くの部分がその意識によって支えられています」(フォン・ジャパン株式会社チェアマン 千川原智康さん)。

FONの特徴で面白いのは、関わる人たちの多くがFONを企業の営利活動というよりも、「社会運動(ムーブメント)」として捉えているところだ。バルサフスキー氏のひらめきは、無線LANアクセスポイントという「インフラ」を皆で共有しようというものだった。こういう発想は、営利を目的としている人物からは出てこない。この発想に賛同した人々が、FONのユーザになっているわけだ。「これは面白い」とか「これは世の中の役に立つ」という思いを一緒にする人たちが、世界中にいるというのは楽しい事だろう。このコミュニティーにある種の「居心地の良さ」を感じた人々が、FONのサービスを支えているのだ。
また、FONのサービスの中心に「思いやり」の精神があるように思えるのも、居心地の良さを生んでいる要因のひとつだろう。自分が使って便利なものは、他人にも使わせてあげようという寛容な気持ちだ。実際、常時接続の料金は定額であることがほとんどだし、自分が使っていない時間の回線を誰かが使用したとしても、特に損失になるわけではないのだ。それに、有線のLANを他人に使わせることは、接続ポートを家の外に出さねばならないために難しいが、無線であればルータの設定を少し変えるだけで実現できる。

フォン・ジャパン株式会社 COOのニナ ニックーさん

お話を伺ったフォン・ジャパン株式会社 COOのニナ ニックーさん

ところで、Linusとして登録しているにも関わらず、設置したLa Foneraの電源をオフにして非公開にしている人が存在するという。これでは、他のユーザがアクセスポイントとして利用することができない。このようなユーザに対しては、どのような対処をしているのだろうか。
「各アクセスポイントの状況は、FONの側から定期的にモニターしていますので、Linusであるにも関わらず非公開にしているユーザには、まず公開を促すメールを送ります。それでも非公開のままで1ヵ月以上が経過した場合、一時的にローミング権限が奪われることもありますが、公開していただければまた復活します。基本的にはユーザに自主的に公開してもらうように働きかけるようにしています。」(フォン・ジャパン株式会社 ニナ ニックーさん)
これは、FONのコミュニティーという側面を利用した対処方法だ。ユーザ同士がお互いを「仲間」として信頼しているという前提で、「仲間に対してズルができますか?」とユーザの良心に訴えているわけだ。性善説の立場で、ユーザの主体性に任せるような形で運営されているというのは、非常に興味深い。

一方で、参加ユーザの善意や意識だけに任せておけない、セキュリティー面での問題もある。FONの仕組みでは、パケットモニタのソフトなどを使うことにより、La Foneraとルータの間の通信内容を設置者に覗き見られてしまう危険性があるのだ。これに対してフォン・ジャパンは、この危険性を規約の中で明示して、ユーザに注意を呼びかけるという方針を取っている。ネットバンキングのID、パスワードなど、絶対に漏れては困るデータに関してはユーザに使用を控えてもらうためだ。だが、これだけでは根本的な解決とは言えないため、フォン・ジャパンでは更に、暗号技術などで仮想的に専用回線の状態を作り出す「VPN」サービスの提供を検討中だそうだ。

 
 
 
  今後の課題はコミュニケーション機能の追加
 

参加ユーザのコミュニティー意識が特徴のFONだが、現在のところ、ユーザ同士がコミュニケーションを図るための機能は用意されていない。今後の課題としては、公式サイトなどにそのような場所を提供することが考えられる。例えば掲示板などを設置すれば、アクセスポイントの近所にあるホテル情報やオススメの観光スポットなどを旅行前に現地のユーザに教えてもらう、というような利用方法も出てくるだろう。また、ユーザ同士の交流からサービスの質を向上させるアイデアが生まれる可能性もある。
フォン・ジャパンは、2007年内に7万5,000箇所のアクセスポイント設置を目標としている。ユーザ数やアクセスポイントが増えれば、その分だけ接続エリアも拡大されるわけで、FONにとってユーザ数やアクセスポイント数を伸ばし続けるのは最も重要な課題だ。そのための取り組みとして07年6月12日には、広告動画を閲覧すればLinusでなくとも無料で15分間の接続が可能になる「WiFi ads(ワイファイ・アド)」も開始された。どこでも無線LANに接続できる世の中の実現に向けて、期待してFONを見守りたい。

 

取材協力:

フォン・ジャパン株式会社(http://www.fon.com/jp/

 
 
神山恭子 0012 D.O.B 1966.7.3
調査報告書 ファイルナンバー015 FON(フォン)「世界中で無料のネットアクセスを実現!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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