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凸版印刷とE
Ink社が共同開発したカラー化電子ペーパー。サイズは6インチで、“2.5世代”のE Ink電子ペーパーを使っている。 |
日本における電子ペーパーは、やっと商用化の第一段階が終わったところ。これから本格的な商用化の時代を迎えるにあたって、課題はどこにあるのだろう?
「まず第一に、安く、安定して作ること。次に、電子ペーパーが持つ特徴を活かした用途への展開。そして、性能を改善して用途を広げること。この3点ですね」と檀上さん。確かに、技術だけが先行しても需要が見込めなければ商用化は難しいし、需要があっても技術が追いつかなければ普及は望めない。新技術が必ず直面する問題に、電子ペーパーもそろそろさしかかっているのだ。
技術面の進化は着実に進んでいる。画面表示の応答速度が徐々に速くなってきたのは先述した通り。もちろん、液晶やプラズマ並とはいかないので今のところ動画再生には向かないが、今年の学会では研究室レベルの新材料で動画表示がデモされた。
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凸版印刷が2002年に作ったシステム手帳型のフレキシブル電子ペーパー。電子ペーパーの新しい使い方を提案している。 |
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JR飯田橋駅の電子看板。凸版印刷とNECネッツアイが共同開発した。 |
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読売新聞社と共同で愛知万博に展示した巨大壁新聞。消費電力はわずか16W。同じサイズのLEDなら2800W以上になる。 |
近年の大きなテーマは、カラー化とフレキシブル化。凸版印刷とE Ink社は、2005年にカラー化電子ペーパーを共同開発した。専用のカラーフィルタに赤、緑、青、白の画素を配置し、反射率の高いインクを使用。16階調/4096色を実現した。電子ペーパーは自分で発光しないのでカラーフィルタを使うと画面が暗くなってしまうが、これは材料のマイクロカプセルを明るく改良することが解決の道だという。
カラー化よりも先に商品が出そうなのがフレキシブル化だ。凸版印刷は曲げられる電子ペーパーを試作している。今は背面板と呼ばれる駆動部の研究開発を進めており、低コストで、印刷物のように曲げられるカラー電子ペーパーを作る研究をしているという。
電子ペーパーのカラー化とフレキシブル化は、世界中のメーカーが取り組んでいる共通テーマ。実際の商品に採用される日は、すぐそこまできている。
もう一つの課題、電子ペーパーの特徴を生かした用途については、凸版印刷が進めている事業モデルがヒントになる。「それは電子看板です。電子ペーパーにすれば、西日が当たっても見やすい看板を作ることができます。しかも超低消費電力、そして色々な大きさで」と檀上さん。
電子看板について、凸版印刷は2004年にJR飯田橋駅で1年間のフィールドテストを実施し、2005年の愛知万博では読売新聞社と共同で、133インチという世界最大級の超大型壁新聞を展示した。「カラーでもないしスクロールもしませんが、情報を伝えるには充分です。しかも既存のLED看板に比べると、消費電力は100分の1以下と圧倒的に小さくて済む。電子看板は環境に優しいのです」
公共表示としての用途は他にもありそうだ。凸版印刷は去年、千葉大学の防災訓練に参加し、誘導表示の実験を行った。また、他のメーカーも駅構内の時刻表やサインボードなど、日頃私たちが目にする場所で電子看板の実験を行っており、この分野はデジタルサイネージとして注目されている。
檀上さんは言う。「電子ペーパーは一定のレベルに達したので、商品が出始めました。これからはコスト競争力を付け、他のディスプレイにはない特性を活かした商品を作る段階です。あらゆる分野でメインに使われている液晶に置き換わる事は、将来もないでしょう。でも来るべきユビキタス・コンピュータ時代を考えれば、エネルギー効率が良い反射型ディスプレイにこそ、大きな可能性があるはずです」
なかなか実際の商品を目にする機会がなかった電子ペーパーだが、そんな状況もそろそろ終わりつつある。今は本格的な商用化が始まる前夜。夜が明けたら紙もディスプレイも、大きく変わっているかもしれない。 |