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新IT大捜査線 特命捜査 第18号 ロケーションフリー「テレビの視聴スタイルが大きく変わる!」
 
  リビングの映像コンテンツを他の場所から見る
 

昔も今も、テレビはホームエンタテインメントの代表的存在だ。今は、各部屋にテレビが1台ずつある家庭は珍しくないし、テレビパソコンやワンセグ携帯まで入れたら、1人が複数のテレビ視聴環境を持っている例も多いだろう。
それでも、こんな事を思ったことはないだろうか? 「リビングのレコーダーに録画した映画の続きを寝室のテレビで見たい」「自室のパソコンにはテレビチューナーが付いてないけど、なんとかテレビを見る事はできないだろうか」「海外出張が決まったけど、日本のテレビドラマをリアルタイムで見られないのが残念」等々…。
各部屋にテレビがある家庭でも、レコーダーやCATVのセットトップボックスまで全部の部屋に置いてある家庭はまずないだろう。海外で日本のテレビ番組を見る場合も、日本にいる家族や友人に録画したテープやディスクを送ってもらうのが普通だ。

ほとんどの家庭では、大型テレビやレコーダーなどのAV機器をリビングに置いている。だからテレビ放送やCATV、市販のDVDソフト、レコーダーに録画した映像など、リビングで楽しめる映像コンテンツは多種多様。それはそれで楽しいが、リビングでしか楽しめないというのは、やはりちょっと物足りない。先に挙げたような思いは、潜在的には誰にでもあるのではないだろうか。
リビングで見ている映像コンテンツを、他の部屋や外出先、更には海外からも見る事ができれば…もしかしたらテレビの楽しみ方は、今までとは全く違ったものになるかもしれない。
それを可能にしたのが、今回採り上げるソニーの「ロケーションフリー」だ。いったいどのようなものなのか。ソニーのビデオ事業部門でロケーションフリーの開発に携わる3人の方々にお話を伺った。まずはロケーションフリーの概要を説明しよう。

LF-PK20

ベースステーションの「LF-PK20」。接続したAV機器の映像コンテンツを様々な受信機に送信する。アナログテレビチューナー内蔵。

ロケーションフリーは、ひと言で言うと“映像コンテンツをネットワーク経由(無線または有線)で伝送するシステム”だ。ハードウェアの構成はいたってシンプル。基本的には「ベースステーション」と呼ばれる専用の送信機と、受信機の2つで成り立っている。
まず、ベースステーションにテレビアンテナやレコーダーなど外部のAV機器を接続する。次に、ベースステーションが入力された映像信号をリアルタイムでMPEG-4やMPEG-2などの圧縮信号に変換してデータ化し、IP(Internet Protocol)ネットワークを通じて受信機に送信する。最後に受信機が、受け取ったデータを元の映像信号に戻して再生する。つまり既存のIPネットワークをベースにしたシステムなのだが、肝心なのは、これらの行程をパソコンではなく、専用機器とテレビなどの一般的なAV機器だけで実現している点にある。IPベースではあるけれども、ロケーションフリーはあくまでも“テレビの周辺機器”なのだ。

ソニーは2000年12月に、「エアボード」という名で最初の製品を発売した。当時は家庭内ネットワークも無線LANもそれほど普及していない時代。そこに無線通信でテレビの映像をリアルタイム伝送するという、今まで見た事のない製品が登場したのだから、誰もが驚いた。

以降、ソニーは様々な製品をリリースし続け、今年からは「ロケフリ Network」と「ロケフリ Home HD」という、2つのコンセプトでの商品展開を始めた。最初に、ロケフリ Networkのベースステーション「LF-PK20」という製品を見てみよう。この製品のポテンシャルを知れば、ロケーションフリーが持つ大きな可能性が見えてくる。

 
 
 
  大きな反響を呼んだ海外からのリアルタイム視聴
 
LF-X1

初のインターネット対応ロケーションフリー「LF-X1」。

LF-PK20は2006年10月に発売された。具体的に何ができるかは、添付の図版を見ると分かりやすい。図1は最も多いと思われる、家の中で無線通信して使う場合。LF-PK20から送られた映像信号を、専用液晶モニタ「LF-12MT1」、ソニーのポータブルテレビゲーム機「PSP」、専用ソフト「LFA-PC20」をインストールした無線LAN対応のWindowsパソコン(Mac用ソフト「TLF-MAC2」も加賀電子より発売済み)などで受信する。一般のテレビで見る場合は、ロケーションフリーTVボックス「LF-BOX1」で受信する必要がある。
つまり、ベースステーションから送られてきた映像を、様々な場所に置いた様々な機器で受信できるのだ。例えば、「お風呂場に防沫ジャケットを被せたLF-12MT1を持ち込んで、テレビドラマの続きを見る」「PSPのゲームに飽きたら、リビングのレコーダーに録画しておいた音楽番組を見る」「キッチンに持ち込んだノートパソコンで、放送中の料理番組のレシピを見る」といった使い方ができる。もちろん無線だけでなく、ルータを利用すれば有線LAN接続して視聴する事も可能だ。ただしどちらの場合も伝送できるのは標準画質の映像のみ。LF-PK20ではハイビジョン映像は伝送できない。

図版1

図1:ロケーションフリーを家の中で無線通信して使う場合。

図版2

図2:ロケーションフリーを外出先からインターネットを介して使う場合。

図2は、外出先からインターネットを介して映像コンテンツを楽しむ場合。仕組みは簡単で、LF-PK20によってデータ化された映像信号が、そのままインターネットを通じて特定のIPアドレスへと伝送される。受信側はルータを経由し、図1の場合と同じように様々な機器で映像を受信する。インターネット経由なので、場所や距離は問わない。それこそ、どんなに遠く離れた外国の街でも、ブロードバンド環境さえ整っていれば、リアルタイムで日本のテレビ番組を見る事ができるのだ。LFX事業室 2GP プロジェクトマネージャーの溝渕あゆみ氏が、ロケーションフリーの歴史を教えてくれた。
「インターネットに対応したのは2004年3月に発売したLF-X1というモデルからです。お客様からは非常に大きな反響がありました。LF-X1はベースステーションと専用モニタのセット商品でしたが、2005年10月発売のLF-PK1以降はベースステーション単独の製品になっており、受信機の選択肢も広がっています」

海外でもリアルタイムで日本のテレビ番組が見られる──ロケーションフリーが初めて実現したこの機能は、ITやAVの業界で大きな話題になった。ただ、ブロードバンド環境が今ほど整っていなかった事や、当時の動画圧縮技術の限界などから、LF-PK20以前のロケーションフリーは、大画面で見るとややノイズが目立つなどの弱点もあった。また、インターネット接続を導入した事から、機器自体の設定もやや難しくなってしまった。
LF-PK20は、こうしたデメリットをすべて解消している。新しい動画圧縮技術「MPEG-4 AVC」を採用し、従来機に比べてより鮮明な映像を実現しているのだ。MPEG-4 AVCは高画質でありながら圧縮効率が高く、ブルーレイディスク・レコーダーにも使われている。
ほかにも、外出先から見るためのセットアップを自動で行う仕組みや、ボタンひとつで受信側の機器を登録できるなど、LF-PK20にはロケーションフリーを簡単に使うための工夫が数多く取り入られている。

LF-PK20は、インターネットに対応したロケーションフリーの理想形かもしれない。Mac OSやPDAにも対応するなど、受信機のバリエーションも更に拡大している。もちろん画質も満足いくものだし、設置や操作性にも不満はない。
ただひとつ残念なのは、「リビングの映像コンテンツを他の場所で見る」というこの画期的な商品コンセプトが、今ひとつ消費者に伝わっていない事だ。もしかしたらそれは、ロケーションフリーが実現する新しいテレビの見方が多岐に渡りすぎているせいかもしれない。LFX事業室 統括部長の関口勇二氏はこう語る。

「実はLF-PK20のユーザさんの中にも、家の中だけで使いたいという方が結構いらしたんです。年配の方が割と多くて、既にリビングの大画面テレビやブルーレイディスク・レコーダーでHD映像を楽しんでいるんですね。こうした方は外出先からリビングの映像を見るというケースは少ないんです。ここに、新しいロケーションフリーのヒントがありました」。

 
 
 
  高精細なハイビジョン映像をワイヤレスで飛ばす
 
LF-W1HD

ハイビジョン映像の伝送を可能にした「LF-W1HD」。

「ロケーションフリーで何ができるのかを、もっと分かりやすく提示する」──その狙いから生まれた新しいコンセプトが「ロケフリ Home HD」だ。「ロケフリ Network」との違いは、家庭内の部屋間無線通信に限定されている事と、ハイビジョン映像を無線で飛ばす事ができる点にある。具体的な製品はハイビジョンワイヤレスリンクセット「LF-W1HD」(12月1日発売予定)で、送信機と受信機がセットになっている。
接続イメージは図3の通り。リビングにある大型テレビやCATVチューナーで受信したハイビジョン番組や、ブルーレイディスク・レコーダーで録画したハイビジョン番組、市販のブルーレイディスクなどの映像信号を送信機に入力。信号は送信機内でMPEG-4 AVCに変換され、ハイビジョンクオリティのまま受信機へと無線伝送される。これを受信機側で元のハイビジョン映像に戻すわけだ。通信は1台の送信機に対して1台の受信機のみ。ちなみに、MPEG-4 AVCを採用したハイビジョン映像のワイヤレス伝送機器は、LF-W1HDが業界初だという。

図版3

図3:「LF-W1HD」の接続イメージ。

ハイビジョン映像を無線伝送できるメリットは大きい。最近はリビングにBSデジタル/地上デジタル/110度CSデジタル放送を受信できる薄型テレビを設置している家庭が多いが、寝室やプライベートルームに置く2台目のテレビとしては、地上デジタル放送だけを受信できる小型の薄型テレビを買うケースが多いからだ。また、ブルーレイディスク・レコーダーのようなハイビジョン対応のAV機器はまだ高価なので、各部屋ごとに設置するのも難しい。
となると、LF-W1HDが、俄然その存在感を増してくる。LF-W1HDはオープン価格だが、市場指定価格は5万円程度とのこと。この金額で、リビングで楽しめるハイビジョンコンテンツを別室で同じように見る事ができるのだから、別室用のハイビジョン機器を新たに買うより、コスト面でも有利になるだろう。

LF-W1HDのハイビジョン映像は、実際、驚くほど高精細で綺麗だ。市販ブルーレイディスクソフトでは、受信側の液晶テレビで見た映像は、まるで受信機側にブルーレイディスク・プレーヤーを直接接続して見ているかのよう。とても電波に乗ってきた映像とは思えない。もちろん、素人目では画質の違いはまず分からない。ちなみに転送レートはマニュアルで選択する事ができ、一番下のレートに設定するとさすがにややソフトな映像になるが、それでも標準画質の映像を見るならまったく文句のないレベルだ。

LF-W1HDの要にあるのはMPEG-4 AVCという最新の動画圧縮技術だが、それ以外にも、無線伝送の安定性を高める新しい技術が導入されている。「送信機の上部にはセクターアンテナという6本のアンテナを搭載しています。使用環境に合わせて最も障害物の少ない方向、電波干渉の少ない方向のアンテナを自動選択しますので、安定した送受信が可能になりました」(LFX事業室 3GP 竹内美紀氏)とのこと。電波による送信では室内の状況によって映像や音声が途切れる事があるが、LF-W1HDはそれを可能な限り避けてくれるのだ。電波が届く範囲は、一般的な家屋で約30mだという。

また、操作性も従来のロケーションフリーに比べると格段に進化している。LF-W1HDは送信機に外部接続したAV機器(例えばレコーダー)の映像を見る事になるが、リモコンはレコーダーのものをそのまま使う事ができる。とはいえ、リモコンを受信機を設置した部屋に置きっぱなしにすると、今度はリビングでレコーダーを使うときに困ってしまう。
それを考え、LF-W1HDの付属リモコンは、市販されている様々なメーカーのAV機器に対応できるようになっている。その設定も、受信機側のメニュー画面を開いて選択肢の中から選ぶだけ。実に簡単に、膨大な数のAV機器をコントロールできるようになるのだ。
機器の設定も、ロケフリNetworkに比べると更に簡単。外部機器を接続して電源を入れるだけで、送信機と受信機がお互いを自動認識する。

「ロケフリ Home HDの狙いはユーザ層の拡大にあります」と関口氏が言うように、LF-W1HDはホームユースに限定することによって、商品の特徴がより明確になった。
分かりやすく言えば、ロケフリ Networkは「リビングの映像を世界中のどこからでも見ることができるが、使いこなすには無線LANやインターネットの知識が少しばかり必要な機器」、それに対しロケフリ Home HDは、「無線LANやインターネットの知識がなくても、誰でも簡単にリビングのハイビジョン映像を別室から見ることができる機器(ただし、出張先や海外から見ることはできない)」ということになるだろう。ロケフリ Home HDには、ロケフリ Networkにあった敷居の高さがまったくない。ソニーはLF-W1HDをお店のテレビ売り場で積極的に販売していくという。

 
 
 
  ロケフリから見えてくる“近未来のテレビ視聴スタイル”
 

IPネットワークをベースにしたロケーションフリーのアイデアは、もしかしたら他のメーカーにもあったのかもしれない。だが、実際にそれを製品化したのはソニーだけだった。
確かに、ロケーションフリーはビジネス的に大きく成功しているというわけではない。他に類を見ないエポックメイキングな製品である事は間違いないが、その割には一般層への浸透度はそれほど高くない。一方で、ロケーションフリーが持つ潜在的な可能性を理解できる層には、発売当初から非常に高く評価されている。

取材を受けて下さった皆さんの集合写真

取材を受けて下さった皆さん。左からソニー株式会社 ビデオ事業本部 ビデオ事業部門 LFX事業室 統括部長の関口勇二氏、同室 3GPの竹内美紀氏、同室 2GPの溝渕あゆみ氏。

その可能性は、ハイビジョン映像の無線伝送を実現したLF-W1HDによって、幅広い層に理解されるようになるだろう。今後、私たちのテレビ視聴スタイルは大きく変わっていくかもしれない。
ロケーションフリーによって、私たちはリビングの映像コンテンツをどこからでも見る事ができるという“見る場所”の自由を手にした。同時にそれは、見たい映像コンテンツを必ずしも手元に置いておく必要がなくなった事を意味している。映像コンテンツをリビングのような家庭内の特定の場所で集中的に受信・録画・管理し、ユーザは好きな受信端末を使って、好きな時に好きな場所から目的の映像コンテンツにアクセスする。
そうなると、各部屋毎にテレビチューナーやレコーダーを置く必要もなくなり、テレビは純粋に映像コンテンツを映し出すだけのモニタで充分という事になる。

これは、近未来のAVシステム像として、ここ数年よく語られているホームサーバーのコンセプトそのものだ。実際のホームサーバーは多数のテレビチューナーや巨大な容量のハードディスクが必要だからそう簡単には商品化できないだろうが、おそらくそこでは、ロケーションフリーのようなIPネットワークをベースにした伝送システムが使われることだろう。
もちろん、リアルタイムでテレビ番組を楽しむ事もできるが、ほとんどの番組を蓄積できるのであれば、私たちが手にする“見る時間”の自由も、今以上に大きくなるに違いない。

ロケーションフリーは、近未来のホームサーバーの機能を先取りした製品だ。そこからは、場所にも時間にも縛られず、自分のペースで好きな映像コンテンツを思う存分楽しむ“近未来のテレビ視聴スタイル”が見えてくる。

 

取材協力:ソニー株式会社(http://www.sony.jp/

 
 
加藤三郎 0005 D.O.B 1956.6.1
調査報告書 ファイルナンバー018 ロケーションフリー「テレビの視聴スタイルが大きく変わる!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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