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新IT大捜査線 特命捜査 第19号 次世代充電池「繰り返し使う電池が当たり前の時代に!」
 
  乾電池と充電池の特長を両方持った充電池が登場
 

電池を使った事がないという人は、おそらくいないはずだ。部屋の中をぐるっと見回しただけでも電池で動いている電化製品はいくつも見つかるし、引き出しの中を探せばきっと何本かの乾電池が出てくるだろう。それくらい電池は我々の生活の中に溶け込んでいる。

「eneloop」各種パック

単3形2本入りパック、4本入りパック、8本入りパック等豊富なラインナップが揃う。価格は2本入りパックが1155円で、他はオープン。

「N-MDU01S」

パソコン等のUSB端子から充電可能なUSB専用充電器と単3形2本のセット「N-MDU01S」。価格はオープン。

だが「電池」といった場合、大きく「物理電池」と「化学電池」の2つに分類されるのをご存じだろうか。物理電池は光や熱等のエネルギーを利用するもので、現在、太陽電池や原子力電池等の研究が進んでいる。それに対して化学電池は、金属化合物等の化学反応を利用して電気を取り出すタイプのもの。これは更に「一次電池」と「二次電池」の2つに大別できる。一次電池は一度使うとエネルギーがなくなってしまう使いきりタイプの電池で、一般に我々が「乾電池」と呼んでいるものはここに分類される。一方の二次電池は、エネルギーがなくなっても充電して繰り返し使えるもので、ふつう「充電池」と呼ばれている。
乾電池も充電池も、使用される材料によっていくつもの種類があり、用途もさまざまに使い分けられている。一次電池の種類には、アルカリ乾電池やマンガン乾電池、リチウム電池等がある。充電池では、携帯電話等に使われるリチウムイオン電池のほか、ラジコンや電動工具に使われるニカド電池、デジカメや携帯音楽プレーヤー等に使われるニッケル水素電池等が挙げられる。

さて、この充電池の世界に革命を起こしたと言っても過言ではないのが、今回紹介する三洋電機のニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」だ。「買ってすぐ使える」「パワフルで長持ち」「約1000回繰り返し使えて経済的」等、乾電池と充電池両方の特長を併せ持っている。「電池を繰り返し使う生活」という新しいライフスタイルを提案する製品として、2005年11月に発売。その後2年足らずで累計出荷数量は3000万本(07年7月末現在)を突破し、日本のみならず世界50ヵ国(同)で販売されるヒットプロダクトとなっている。

 
電池の種類 エネルギー源 種類 製品
物理電池 光、熱 太陽電池、原子力電池
化学電池 金属化合物等の化学反応 一次電池(乾電池など) アルカリ、マンガン電池
二次電池(充電池) ニカド、ニッケル水素
電池の種類
 
 
 
  自己放電を抑制する事で、充電池への不満を解消
 
容量残存率比較

三洋電機の従来型ニッケル水素電池「2500シリーズ」とeneloopの容量残存率の比較。

eneloopにおける一番の技術的な特長は、自己放電を抑制した点だ。これにより、従来のニッケル水素電池に常に付きまとっていた「充電しても放っておくと使えなくなってしまう」という弱点が解消されている。
化学電池では、内部に充填された電解液中で正(+)極と負(−)極という2つの電極が化学反応を起こし、そこで生まれたエネルギーが放電される仕組みで、ニッケル水素充電池の場合は、正極に水酸化ニッケルを、負極には水素吸蔵合金(金属結晶内に水素をとらえる合金)を使用している。自己放電とは、実際に機器につないでいなくても、放置しておくと電池内で化学反応が起き、電池の容量が減ってしまう現象だ。原因はいくつかあるのだが、そのいずれも電池内で自然に起こる化学反応で、充電池だけでなく乾電池でも起きている。ただ特に充電池で顕著な現象で、フル充電されていても長い時間放置されていると徐々に残りの電池容量が減ってしまうため「充電池は放っておくと使えなくなってしまう」という弱点につながるというわけだ。

eneloopではこの自己放電を抑制するために、まず負極の材料として使用されている超格子合金を高性能化した。超格子合金は三洋電機独自のテクノロジーが使われた素材であり、03年に世界に先駆けて実用化されて04年には市販用ニッケル水素電池に初採用された。現在、同社のニッケル水素電池の製造では、重要な核となっている素材だ。その他、電池材料の構成技術や極板材料の製造技術等を向上させた事で、電池容量の減少を抑える事につながったのだという。

充電直後と放置後の充電池における電池電圧の低下を表わしたグラフ

充電直後と放置後の充電池における電池電圧の低下を表わしたグラフ。

具体的に、同社の従来型ニッケル水素電池「2500シリーズ」では半年後の容量残存率が約72%であるのに対して、eneloopでは約90%という結果が出ているそうだ。同様に、1年後には約64%だったものがeneloopでは約85%に、2年後には0%だったものが約75%まで向上しているのだという。驚異的な進歩と言って良いだろう。
また、一般的なデジカメ等では電池残量を電圧で推測するシステムを使っているが、従来の充電池は放置しておくと実際の電池残量が十分に残っていても「電池残量小」と表示されることがあった。この弱点を解消するため、eneloopでは電圧を若干高くした。電圧が高くなっても、電池残量が低下する割合は同じなのだが、「電池残量小」の表示のタイミングが、実際の電池残量により近いものになり、結果的に電気を無駄なく使い切れるというわけだ。

こうした技術の開発によって「買ってすぐ使える」「パワフルで長持ち」「約1000回繰り返し使えて経済的」という、乾電池の特性も兼ね備えた充電池が実現した。従来の充電池は、使い勝手の部分ではどうしても乾電池に劣ってしまうところがあった。例えば、テレビのリモコンの電池が切れた時、替えの電池がすぐに使えないのでは困る。だから、替えの電池をコンビニまで買いに行った時に、これから充電しなければいけない充電池を選ぶ人はまずいなかっただろう。しかしeneloopなら、自己放電が低く抑えられているので、充電池でありながら、充電された状態で販売する事ができるようになった。
更に言えば、リモコンのように毎回の消費電力が小さく電池を取り替える頻度が少ない製品には、そもそも充電池は向いていなかった。これは、実際に電池容量を使い切るよりも早く自己放電が進んでしまったためだ。だがeneloopは、リモコンも含めたいろいろな機器で使用できる。充電池と乾電池の使い分けを考えなくてもいいのは、利用する側には非常に便利だ。

 
 
 
  環境への配慮を前面に打ち出したデザイン
 
「eneloop」パッケージ

eneloopのパッケージはそのまま電池保管ケースとなるため、ゴミになるのは再生PET素材の外装フィルム(写真右端)のみ。

eneloopの特徴として、もうひとつ重要な要素がある。eneloopは三洋電機のブランドビジョン「Think GAIA」のプロジェクト第1弾製品でもあり、電池本体から製品パッケージに至るまで徹底的に環境への影響を配慮した設計となっているのだ。
まず基本的な製品の特長としては、充電池なので、約1000回にわたって、繰り返し使用できる点。乾電池は一度使ったら捨ててしまうしかないのだが、これはやはりムダが多い。使用済み乾電池の発生量は、日本国内だけでも年間約5万7000トン(社団法人電池工業会調べ、2005年)にもなるそうだ。この点からすれば、充電池の優位は明らかだろう。

また充電池については「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効利用促進法)により、再資源化のシステムが確立されている事もメリットだ。使用済みの乾電池をどうやって捨てたらいいのか、迷った事がある人は多いだろう。結局、捨てないで家の中で溜まってしまっていたり、地域の指定に従ってゴミに出したとしても、廃棄乾電池の対応は、自治体ごとにバラバラで、リサイクルされたり、されなかったりという事態が起きている。だが充電池の場合、有限責任中間法人JBRCという業界団体によって家電量販店やスーパー、ホームセンター等に回収ボックスが設置されている。これによってニッケル等の貴重な資源の再利用ができ、資源の有効活用や省資源化につながっていく。

「eneloop」グラフィックイメージ

eneloopの電池チューブ(本体)のグラフィックは、それまでの充電池のイメージを覆す斬新なものだった。

更にeneloopでは、電池チューブ(本体)のグラフィックと製品パッケージのデザインにも工夫が凝らされている。チューブとパッケージの両方で脱塩ビ(ポリ塩化ビニル)化が図られており、パッケージについては再生PET素材での単一素材化もされていて、捨てる際の分別の手間も少ない。また、パッケージがそのまま電池のケースになるので、そもそも出るゴミの量が少ないというのも見逃せないポイントだ。
ちなみに、製品デザインの全体的な方向性も、今までの三洋電機の製品とは一線を画すものとなっている。当初、このデザインは三洋電機社内でも驚きをもって受け止められたのだという。従来の充電池とはかけ離れたシンプルなグラフィックに加えて、パッケージの中身がよく見えないという点については、特に営業部門から「消費者に何の商品だかわかってもらえず、これでは売れない」との声が上がったそうだ。だが結果的には、中身が見えない事によって消費者の注意を逆に引きつけ、次世代の充電池というイメージを鮮烈にアピールする事につながった。このグラフィックとパッケージデザインは、2006年度の「グッドデザイン賞」で金賞を受賞している。三洋電機社員だけでなく、一般的にも斬新なデザインだったという事の証明だろう。

 
 
 
  ロケフリから見えてくる“近未来のテレビ視聴スタイル”
 
三洋電機株式会社 モバイルエナジーカンパニー 市販統括部長 下園浩史氏

今回お話をうかがった、三洋電機株式会社 モバイルエナジーカンパニー 市販統括部長の下園浩史さん。

さて、ここまで長所ばかりが見えるeneloopだが、何か課題はないのだろうか。
「私たちが行なった購入者アンケートでは、9割のお客様がeneloopに満足していただいています。これは、この種の製品に対する満足度としては異例とも言える高い数字です。もちろん基本的な性能向上への努力はこれからも続けていきますが、eneloopについては、これ以上の高機能化は必要ないのかもしれないと受け止めています。今後は、eneloopの魅力や利用場面をアピールする事に力を注いで、お客様に手に取っていただく機会をよりいっそう増やしていく事が課題になると考えています」(三洋電機株式会社 モバイルエナジーカンパニー 市販統括部長 下園浩史氏)。

「eneloop kairo」

充電して約500回繰り返し使えるカイロ「eneloop kairo」。温度は2段階切り替えが可能で、自動調整機能も搭載する。価格はオープン。

「eneloop solar charger」

太陽光のエネルギーで充電できるソーラー充電器「eneloop solar charger」。蓄えた電力をUSB端子経由で外部に出力する事もできる。価格はオープン。

三洋電機ではすでに、消費者がeneloopを利用する場面を増やすべく、そのコンセプトを広げる製品群「eneloop universe products」を展開している。第1弾として2006年10月には、充電して繰り返し使えるカイロ「eneloop kairo」と太陽光で発電して充電できるソーラー充電器「eneloop solar charger」を発表。どちらもeneloopのコンセプトを受け継いだユニークな製品だ。また07年9月には、充電式ポータブルウォーマー「eneloop anka」を発表し、eneloop kairoも改良の上、カラーバリエーションも増やした。こうした製品群は07年度の「グッドデザイン賞」において、製品のデザインや技術とその背後にある企業としての思想について高い評価を受け、見事に大賞(内閣総理大臣賞)を受賞している。
一方、他社製品とのコラボレーションを行なう「eneloop friends」の試みも開始されている。その第1弾として、タカラトミーが発売した世界最小人型ロボット「i-SOBOT」には、eneloopが標準で同梱された。販促活動や環境問題の啓蒙活動等を両社共同で行なっている。
このような共同展開は、電池を使うものならば基本的にどんな製品とでも可能だ。お互いの長所が製品のプロモーション面でも相乗効果を生むため、今後もさまざまな企業とのコラボレーションが出てくるだろう。そしてそれにより、消費者が特に意識をしないでもeneloopが各家庭に行きわたるという状況が、今後生まれるかもしれない。技術的にも素晴らしく、環境にも優しいeneloopの今後を楽しみに見守りたい。

 

取材協力:三洋電機株式会社(http://www.sanyo.co.jp/

 
 
神山恭子 0012 D.O.B 1966.7.3
調査報告書 ファイルナンバー019 次世代充電池「繰り返し使う電池が当たり前の時代に!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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