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新IT大捜査線 特命捜査 第22号 テレビ向け動画配信サービス 「扉の向こうに見える“ネットテレビ”の世界」
 
  動画配信サービスの目玉は“ビデオ・オン・デマンド”にあり!
 
宇治氏

株式会社アクトビラ 編成制作グループマネージャーの宇治博史さん

日本でテレビ放送が開始されたのは1953年。以来、テレビは白黒からカラーへ、アナログからデジタルへと、いくつかの技術変革を経ながら進化してきた。テレビを巡る最近の最も大きな話題は2011年の地上デジタル放送への完全移行だが、実はもう一つ、大きな変革の波が押し寄せている。「ネットとテレビの融合」だ。
このフレーズ、3年程前によく話題に上っていたが、当時は「ネットがどうテレビを取り込んでいくのか」という視点ばかりで語られ、「テレビが今後どのようになっていくのか」という話はあまり表に出てこなかった。その後、ネット上には様々なコンテンツをパソコンで楽しめる有料・無料の動画ポータルサイトが次々と開設されたが、どれも人気は今一つ。反対に、短時間で楽しめる小さなサイズの動画やプライベート映像を集めたサイトばかりが賑わっている。理由は明白。私たちは、「映画やドラマなどの長時間コンテンツは、やはりリビングのテレビで観たい」のだ。

そうしたニーズをくみ取ったビジネスも既に始まっている。それが、「4th MEDIA」「OCNシアター」「オンデマンドTV」といった「テレビ向け動画配信サービス」だ。
これはテレビを対象に、インターネットのブロードバンド回線経由で放送や動画配信を行うサービス。契約ユーザはブロードバンドルータなどから引いたLANケーブルを専用のセットトップボックス(STB)に接続し、STBとテレビを接続する。サービスの内容は、ケーブルテレビやCS放送でお馴染みの多チャンネル放送と、映画などのコンテンツを好きな時に再生して楽しめるビデオ・オン・デマンド(VOD)の2本立てが基本。中にはカラオケやゲームが楽しめたり、ハイビジョン画質のVODコンテンツを提供するサービス会社もある。
STBを使う点、多チャンネル放送がある点など、テレビ向け動画配信サービスは一見するとケーブルテレビによく似ている。そのため、各サービス会社はセールスポイントであるVODに力を入れている。ケーブルテレビにもVODを提供している会社はあるが、まだ少ないからだ。通信や映像の世界では、近い将来、VODはレンタルビデオに置き換わると考えられている。

しかしながら、ブロードバンドがこれほど普及した現在も、テレビ向け動画配信サービスはあまり普及していない。なぜだろう?
その理由は、おそらく導入までの敷居の高さにある。サービス会社への入会に始まり、回線の種類(光回線限定が多い)やプロバイダが限定されていたり、基本料金がかかったりと、いくつかのハードルがあるのだ。導入後は自分でSTBを設置するという作業も加わる。
レンタルビデオの貸し借りが面倒だからVODには魅力を感じるという人は多いと思うが、実際には「全然観ない月でも基本料金がかかるのはちょっと」という声や、「うちはADSLだから」と諦める人が少なくないという。もう少し敷居を低くすればユーザは増えるのではないか、と思っていたところに登場したのが、今回採り上げる「アクトビラ」だった。
お話を伺ったのは、株式会社アクトビラ・編成制作グループマネージャーの宇治博史さん。アクトビラの基本設計にも深く関わっているキーパーソンだ。

 
 
 
  対応テレビを用意し、ブロードバンド回線をつなぐだけでOK!
 
テレビのLAN端子

接続例。視聴のための準備はテレビ背面のLAN端子にケーブルをつなぐだけ。

宇治氏が操作するところ

STBが不要なのでテレビまわりはすっきり。ボタン操作も感覚的に行える。

「アクトビラは入会手続き不要、基本料金不要で、コンテンツの料金はすべて1本単位です。どんなプロバイダからでも利用でき、ブロードバンド回線も光に限定していません。標準画質の動画サービスならADSLで観ることもできます。ハード環境は対応テレビさえあればOK。STBを接続する必要もありません」。
宇治さんがアクトビラの特徴を簡潔に説明してくれた。これらの特徴全てが、既存のテレビ向け動画配信サービスに対するアドバンテージになっている。確かに敷居は低そうだ。アクトビラを使うまでの準備は、対応テレビにLANケーブルを接続するだけ。既にインターネットに常時接続している環境なら、ネットワークの設定すら必要ない。

その一方で、サービス内容と対応テレビはちょっとややこしい。アクトビラのサービスは、「天気」や「ニュース」など各種の生活情報を文字と静止画で提供する「アクトビラ ベーシック」と、VODサービス「アクトビラ ビデオ」の2本立てになっている。更にアクトビラ ビデオには、標準画質の「アクトビラ ビデオ」と、ハイビジョン画質を実現した「アクトビラ ビデオ・フル」の2種類がある。そして、サービスの内容によって対応しているテレビが異なるのだ。現在、各メーカーから販売されているアクトビラ対応テレビは、ベーシック/ビデオ/ビデオ・フルのすべてに対応する機種、ベーシックとビデオに対応する機種、ベーシックのみに対応する機種の3種類。ハイビジョン画質のVOD目当てでアクトビラ対応テレビを購入する場合は、ベーシック/ビデオ/ビデオ・フルに対応する機種を選ぶ必要がある。

実際のメニュー操作は、すべて対応テレビのリモコンから行う。メニュー内の操作は上下左右の方向ボタン、決定ボタン、10キーだけで済むから、最近のテレビを使っている人なら戸惑う事はないはずだ。アクトビラ ビデオ対応テレビの場合、アクトビラボタン(テレビの仕様によって異なる)を押せば自動的にアクトビラ ビデオのトップページに飛ぶ。VODコンテンツは「新着作品」 「無料作品」「ジャンル」「提供者一覧」「ランキング」の5つのキーワードから検索できるほか、季節ごとの特集やおすすめ情報からも選ぶ事ができる。
ちなみに昨年末時点でのコンテンツ数は、「映画」「ドラマ」「音楽」「アニメ・特撮」など全10ジャンルで約500タイトル。昨年9月にスタートしたばかりなのでまだ少ないが、今春には1000タイトルを目指しているという。

アクトビラ ビデオのトップページ

アクトビラ ビデオのトップページ。ここから目的のコンテンツを検索する。青い部分はアクトビラ ベーシックのメニュー

 

 
 
 
  敷居を低くし、“誰でも手軽に”利用できるサービスを実現
 
無料作品一覧メニュー

無料作品も多数用意される。3月から9月にかけては矢沢永吉の日本武道館ライブを無料提供。

タイトル詳細画面

映画タイトルの詳細画面。サービス期間や再生形式、画面サイズなどはここで確認できる。

本日のオススメ画面

アクトビラ推薦コンテンツもある。観たいタイトルが決まっていない時は要チェック。

アクトビラ ビデオのトップページから無料映画メニューに入り、試しに1本選んでみる。作品名の下に「サービス終了日」とあるのは何だろう?
「VODは配信期間が決まっているんです。提供先との契約にもよりますが、映画なら基本的には3ヶ月。それを過ぎたらラインナップから消えて、新しい作品と入れ替わります」
作品名の近くには画面をイメージしたアイコンがあり、これでアクトビラ ビデオ向けのタイトルなのか、アクトビラ ビデオ・フル向けのタイトルなのかが分かるようになっている。
アクトビラ ビデオ・フルの画質は、地上デジタルのハイビジョン放送に近い。この高画質映像がネットで送られているとは、ちょっと驚きだ。
「アクトビラ ビデオ・フルの利用は光回線を推奨していますが、回線状況が良ければADSLで観ることもできます。アクトビラ ビデオならADSLでも問題ありません」

では、有料コンテンツを購入してみよう。観たい映画を選ぶと、タイトル欄に「購入期限」「再生時間」「料金/視聴期間」などの情報が表示される。はて「料金/視聴期間」というのは?
「例えば“525円/72時間”とあれば、料金は525円で、購入後72時間は観放題という意味です。72時間を越えたら観る事ができなくなります」
なるほど。今のところテレビ向け動画配信サービスは、ユーザの手元にデータが残らないストリーミング配信が基本。ユーザの視聴状況は、アクトビラのサーバがしっかり管理しているのだ。もちろん、コンテンツを録画することはできない。「購入する」ボタンを押すと、自分の視聴環境で問題なく再生できるかどうかを確認するためのサンプル視聴画面が現れる。これは、「買う直前にネットワークが混雑していて、観られないケースを避ける」ため。再生を確認したら決済画面に進む。
「決済方法はクレジットカードとインターネット決済を利用できます。カード番号や使用期限等の入力は必要ですが、名前など個人情報の入力は一切必要ありません」。

コンテンツの料金はジャンルや提供先によって様々だが、1本300〜500円前後。ほぼ3日間でこの料金だから、レンタルDVDよりも少し割高という程度。ただし映画の場合、VODで配信されるのはDVD発売の3ヶ月後。購入後は、視聴期間内であれば好きなときに何度でも観られ、早送り・早戻しは一部のコンテンツで可能。一時停止や3分単位の前後スキップは、どのコンテンツでもできる。実際に操作してみても、不便を感じることはなかった。購入毎の決済手続きがちょっと面倒だが、ここも「安全性を確保した上で簡略化を検討中」だという。
例えてみれば、アクトビラは「iTunes」で曲やビデオクリップを買う感覚に近い。ストリーミングだから手元には残らないが、誰でも手軽に好きなコンテンツを購入できるという点がよく似ているのだ。“誰でも手軽に”──おそらく、普及のポイントはここにある。

 
 
 
  テレビの標準機能になれば、レンタルビデオに置き換わる可能性も
 

VODなんてまだ先の話。家の近くにレンタルビデオ店があるからそっちを利用するよ──そう思っている読者も多いことだろう。駅前や繁華街に必ず一軒はレンタルビデオ店がある日本の場合、VODの必然性を感じにくいのは確かだ。だがレンタルDVDの場合、借りる時は良くても返す時は誰しも面倒に感じるもの。また、観たい映画が貸し出し中というケースはよくあるし、返すのを忘れて延滞料を払う事になったというのもよく聞く話だ。
テレビ向け動画配信サービスなら、そうした面倒や不便さからは解放される。DVD発売の3ヶ月後というビハインドはあるが、アクトビラなら導入までのハードルがかなり低く、利用料金もレンタルDVDと変わらない。インターフェースもよく考えられており、機械に詳しくない人でも迷わず使える。アクトビラは日本にVODを定着させることができるだろうか?

課題はやはり、「対応テレビの数」と「コンテンツの充実度」だろう。
2月1日現在で、アクトビラ ベーシック対応テレビは9メーカー121機種、アクトビラ ビデオ対応テレビは2メーカー20機種ある。大雑把に言って、アクトビラ ベーシックは昨年秋以降に発売されたほとんどのテレビで使えるが、アクトビラ ビデオが楽しめるテレビはまだ少ない。サービス開始(昨年2月)以降の累計接続台数(対応テレビの数)は、アクトビラサービス全体で約30万台だという。宇治さんは台数と共に、接続率を問題にする。
「まだまだですね。接続台数150万台、接続率70%を実現しなければビジネスにはなりません。対応テレビが増えた上で、実際に接続してもらう必要があるんです。ユーザにはアンテナをつなぐのと同じような感覚でLANケーブルをつないでもらわないと」
明るい見通しもある。今年発売されるテレビの多くは、アクトビラ ビデオ対応になると言われているのだ。アクトビラが松下電器産業やソニーなど家電メーカーが中心になって設立されたことを考えれば、当然の動きだろう。更に先を見通せば、3年後の地上デジタル完全移行までに、市場には数千万台のデジタルテレビが流通すると予測されている。ハード面での普及余地は充分にあるのだ。

コンテンツに関してはどうだろう? レンタルDVDと同じ土俵に立つなら、選択肢は多い方が間違いなく有利だ。先行するテレビ向け動画配信サービスのVODコンテンツ数は、各社とも約8000タイトルほど。平均的なレンタルビデオ店の在庫数は2〜3万点と言われている。1000タイトルに満たないアクトビラは大きく見劣りするが、まだスタートしたばかり。コンテンツの供給は順調に進んでいるという。春からは「TSUTAYA TV」がアクトビラ上に開設され、ハリウッド映画を含む100タイトルがアクトビラ ビデオ・フルで配信される予定だ。
「もちろん数も大切ですが、ユーザにコンテンツを選ぶ楽しさをどう与えるかも重要なんです。レンタルビデオ店に行ってから、観たい映画を探す楽しさってありますよね。あの感覚をなんとかアクトビラのサイト上で出せないかと考えています」と宇治さんは言う。

対応テレビがスタンダードになり、コンテンツが数千のオーダーになれば、アクトビラはテレビ向け動画配信サービスのトップランナーに躍り出るかもしれない。そもそもテレビは“誰でも手軽に”使えることが当たり前。そこに加わる新しいサービスも、“誰でも手軽に”使えることが求められている。それを実現したのは、アクトビラが初めてだった。ネットテレビへの扉は、今ようやく開けられたのかもしれない。

 

取材協力:株式会社アクトビラ(http://actvila.jp/

 
 
加藤三郎 0005 D.O.B 1956.6.18
特命捜査 第22号 テレビ向け動画配信サービス 「扉の向こうに見える“ネットテレビ”の世界」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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