VODなんてまだ先の話。家の近くにレンタルビデオ店があるからそっちを利用するよ──そう思っている読者も多いことだろう。駅前や繁華街に必ず一軒はレンタルビデオ店がある日本の場合、VODの必然性を感じにくいのは確かだ。だがレンタルDVDの場合、借りる時は良くても返す時は誰しも面倒に感じるもの。また、観たい映画が貸し出し中というケースはよくあるし、返すのを忘れて延滞料を払う事になったというのもよく聞く話だ。
テレビ向け動画配信サービスなら、そうした面倒や不便さからは解放される。DVD発売の3ヶ月後というビハインドはあるが、アクトビラなら導入までのハードルがかなり低く、利用料金もレンタルDVDと変わらない。インターフェースもよく考えられており、機械に詳しくない人でも迷わず使える。アクトビラは日本にVODを定着させることができるだろうか?
課題はやはり、「対応テレビの数」と「コンテンツの充実度」だろう。
2月1日現在で、アクトビラ ベーシック対応テレビは9メーカー121機種、アクトビラ ビデオ対応テレビは2メーカー20機種ある。大雑把に言って、アクトビラ
ベーシックは昨年秋以降に発売されたほとんどのテレビで使えるが、アクトビラ ビデオが楽しめるテレビはまだ少ない。サービス開始(昨年2月)以降の累計接続台数(対応テレビの数)は、アクトビラサービス全体で約30万台だという。宇治さんは台数と共に、接続率を問題にする。
「まだまだですね。接続台数150万台、接続率70%を実現しなければビジネスにはなりません。対応テレビが増えた上で、実際に接続してもらう必要があるんです。ユーザにはアンテナをつなぐのと同じような感覚でLANケーブルをつないでもらわないと」
明るい見通しもある。今年発売されるテレビの多くは、アクトビラ ビデオ対応になると言われているのだ。アクトビラが松下電器産業やソニーなど家電メーカーが中心になって設立されたことを考えれば、当然の動きだろう。更に先を見通せば、3年後の地上デジタル完全移行までに、市場には数千万台のデジタルテレビが流通すると予測されている。ハード面での普及余地は充分にあるのだ。
コンテンツに関してはどうだろう? レンタルDVDと同じ土俵に立つなら、選択肢は多い方が間違いなく有利だ。先行するテレビ向け動画配信サービスのVODコンテンツ数は、各社とも約8000タイトルほど。平均的なレンタルビデオ店の在庫数は2〜3万点と言われている。1000タイトルに満たないアクトビラは大きく見劣りするが、まだスタートしたばかり。コンテンツの供給は順調に進んでいるという。春からは「TSUTAYA
TV」がアクトビラ上に開設され、ハリウッド映画を含む100タイトルがアクトビラ ビデオ・フルで配信される予定だ。
「もちろん数も大切ですが、ユーザにコンテンツを選ぶ楽しさをどう与えるかも重要なんです。レンタルビデオ店に行ってから、観たい映画を探す楽しさってありますよね。あの感覚をなんとかアクトビラのサイト上で出せないかと考えています」と宇治さんは言う。
対応テレビがスタンダードになり、コンテンツが数千のオーダーになれば、アクトビラはテレビ向け動画配信サービスのトップランナーに躍り出るかもしれない。そもそもテレビは“誰でも手軽に”使えることが当たり前。そこに加わる新しいサービスも、“誰でも手軽に”使えることが求められている。それを実現したのは、アクトビラが初めてだった。ネットテレビへの扉は、今ようやく開けられたのかもしれない。 |