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新書マップコーナー。館内のシステムはマッキントッシュ上で動いている。 |
ITを活用したもう1つの利用者サービスが、新書を対象にした全く新しい情報検索システム「新書マップ」だ。メインカウンターの傍らにあるドーナツ型の大きな円卓の周辺が、新書マップコーナーになっている。千代田図書館には約3500冊の新書(2008年4月には5500冊になる予定)があり、気になる新書を選んで専用の書見台に置くと、その新書に近い内容の情報がコンピュータの画面に一覧表示される仕組みになっている。
なぜ書見台の上に置くだけで検索が始まるのか?答えは新書一冊一冊に付けられたICタグにある。ICタグとは、固有の情報を記録した小型情報チップのこと。書見台の中にICタグリーダーが組み込まれており、読み取った新書の情報をコンピュータに送っているのだ。
試しに一冊置いてみる。瞬時に検索が始まり、キーボードに触れることもなくディスプレイ上に検索結果が表示された。画面を見ると、GoogleやYahooといった一般的な検索エンジンの表示方法とは随分違う。横方向に検索対象となるデータベースが複数並び、それぞれの検索結果を同時に表示している。書棚に並んだ新書の背表紙や、表紙の写真まである。
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操作は書見台の上に新書を置くだけ。コンピュータに不慣れでも問題なく扱える。 |
従来の検索システムとの違いは、検索される情報の質にある。ネット全体から情報を検索するGoogleのようなロボット型の検索エンジンでは、プロが書いた新聞記事も個人のブログも同列に扱われるのが普通。その内容が価値あるものと判断されれば、個人のブログが新聞記事より先に表示されることも珍しくない。対して新書マップは「新書マップ・テーマ」「新書マップ・本」「千代田区立図書館」「Webcast
Plus」「Book Townじんぼう」のように、プロの手が入ったデータベースのみを検索対象にしている。例えば「新書マップ」のデータベースは、1万冊以上の新書を約1000のテーマに分類し、テーマ毎に新聞記者や研究者が解説文を書いている。「千代田区立図書館」のデータベースは、それ自体が図書情報の基準になるようなものだ。
検索エンジンとしての新書マップはインターネット上に公開されているので(http://shinshomap.info/)、誰でも自由に使える。千代田図書館に導入された新書マップもこれと同じで、テキストの入力部分を自動化したものと考えれば良いだろう。もちろんキーボードやマウスもあるので、最初の検索結果から更なる絞り込み検索をかけていくこともできる。ちなみに館内で調べ物をする時の事を考えて、千代田図書館の新書マップには、検索対象に新聞記事のデータベースと百科事典が含まれている。ネット上で公開されている新書マップにはない機能だが、公的機関ということで、出版社などから特別に提供されているものだ。
千代田区らしさが現れているのは、神保町の古書店にある在庫を検索できる「Book Townじんぼう」のデータベースを利用できる点だろう。古書店85店、約35万冊の古書から目的の本を探し出すことができる。
例えば、新書マップで興味のある古書を見つけた場合、ボタンを押せばどの店で売っているかがすぐに分かる。店の場所は「Book
Townじんぼう」内のマップデータから検索しても良いし、それが面倒ならレファレンスカウンターのスタッフやコンシェルジェに聞けば教えてもらえる。実際、こういう使い方をしている利用者も少なくないらしい。
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新書マップの検索画面。信頼性の高い複数のデータベースが最大の特徴だ。 |
新書マップのシステムは、専用コーナーに12セット用意されている。書見台には数冊同時に置くことができ、その場合は「or
検索」が働く。新書だけでなく全ての蔵書で検索できるようになればとも思うが、そうなるとデータベースを構築するのは至難の業。コスト的な面から見ても、国家レベルで取り組まなければ不可能だろう。ここまで実現できているだけでも利用価値はかなり高い。実用的な側面はもちろんだが、何より“知の広がり”を実感できる点が、本好きにはたまらない魅力だ。 |